(Leaf Visual Novel Series vol.3) "To Heart" Another Side Story

猫のささやき

Episode : Ayaka Kurusugawa

written by 無名氏
Original Copyright (C)Leaf 1997



ゴロゴロゴロ・・・。
そう形容するのが一番正しいのかもしれない。
喉を鳴らしてやってくる小猫と、どこが違うんだろうか?
まったくこいつと来たら・・・。

「・・・浩之。ねえ、浩之ってば。起きなさいよ」
「ん・・・何だよ。こんな朝っぱらから・・・」
朝の柔らかい日差しが逆光になって、綾香の顔をぼんやりと見せている。
眩しさを感じた俺は、また顔を背ける。
「何だじゃないわよ。早起きして散歩するって言ってたのは誰?」
「・・・んなこと言ったっけ?」
「私に付き合うって言ってたじゃない」
「・・・まだ6時前だぜ。もう一眠りしてからでもいいじゃないか」
「あと1時間もしたら暑くなっちゃうわよ。散歩で汗かくぐらいならトレーニングしてた
方がましだわ」
とか言いつつ、まだ二人ともベッドの中。
ふれあう素肌は、まだ熱を帯びていない。
「・・・なら、あと30分」
「だめ。5分ね」
「綾香、お前眠くないのかよ」
「全然。毎朝トレーニングしてるからこれぐらいは当然よ。だから早くいきましょ」
「まったく・・・。そういうこと言うのはちゃんと外に出られるようなカッコしてから
にしろよな」
シーツの下にある、するりとした肌に手を伸ばす。
当然のように、二人とも下着すら着けていない。
滑らかな肌が、指先に心地いい。
「あら、別に大丈夫よ。Tシャツとホットパンツで十分だもの。すぐにでも出られるわよ」

「身だしなみを整えようっていう気はないのか?」
「こんな時間誰もいないわよ。朝だから紫外線も少ないしね。お化粧なんか必要ないわ」

上体を起こして、髪を手櫛でとかしているようだ。
「目の下にくまが出来てるぞ」
「そんなわけないじゃない。十分に睡眠はとったつもりだもの」
「俺が、だよ」
「大丈夫よ。あなた全然疲れてないはずだし」
「・・・昨日は車の運転とか、お前の荷物運びとかで大変だったんだぞ」
「でも夜は私より先に寝ちゃったものね」
ぐ・・・。
耳元にかかる息で、顔を寄せてきているのがわかる。
「せっかく寝かせてくれないと思ってたのに、浩之が先に寝ちゃうんだもの」
「朝からそういうこと言うか?」
「いいじゃないのよ」
「じゃ、朝からこういうことしてもいい訳だ」
瞬間、肩にまわしていた手を引き寄せる。
不意打ちのキス。
のつもりが・・・
「・・・されるの狙ってただろ、お前」
「あなたが甘いのよ。そういうのは、こんな風にしないと」
今度はこっちが不意打ち。
朝っぱらから濃厚なキスの連続。
いたずら猫のように笑っていた目が、ゆっくりと閉じられる。
「・・・ふぅ。起き抜けのキスって口の中が乾いちゃってて、あんまり気持ちよくないの
よねえ」
「とかいいつつ1分以上もするか?」
「ミネラルウォーター、飲む?」
「そういう問題かよ」
「飲ませてあげるわよ。ほら・・・」
冷たいミネラルウォーターが、体に染み込んでいく。
もちろん、違う成分もかなり混じってはいるのだが。
「・・・これでちょっとは潤ったかしら?」
「・・・おい。それだけのために人に水飲ませたのかよ」
「当然でしょ。キスでも何でも気持ちいい方がいいに決まってるじゃない」
さらっと言ってのける。
くっそ〜。やられっぱなしってのは性に合わないな。
なら、これはどうだ?
「確かに、気持ちいい方がいいな。こういうのも」
爪が肌に触れるか触れないか程度に、そっと背中をなで上げる。
「きゃっ・・・。そ、それは反則よ〜〜〜」
「こういうのに反則ってのはないはずだぜ」
「だ、だめだってば・・・。や・・・」
「その割には息が上がってきてるみたいだけど?」
「そん・・・、なこ、とない・・・、も・・・。きゃうっ?」
意識が背中に集中したすきに、軽く耳たぶを噛んでやる。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
声にならない声を上げる綾香。
ここが綾香嬢の最大の弱点。
・・・ふう、ようやくこれで形勢逆転かな。
「・・・ちょっとぉ、もうやめちゃうの?」
げ、こいつ。
「せっかくここまでやっておいて、これでおしまいなんていわないでしょうねえ」
「・・・本気かよ?」
「言ったでしょ?『何でも気持ちいい方がいいに決まってる』って」
「ったく。朝っぱらから・・・」
「朝でもなんでもいいの」
「宿の人に聞こえちまうぞ。お前んとこの別荘じゃないんだから」
「いいのよ。その方がスリルがあっていいじゃない。それに・・・」
「それに、なんだよ」
「浩之とずっと気持ちいいのって・・・いいよ」
わざわざこっちに顔を向けて、平然と言う。
「・・・おい。」
「ん?なに?」
「散歩に行くってのはどうなったんだ?」
「それはあとで」
「『あと』ってなあ・・・。汗かきたくないんじゃなかったのかよ」
「これから十分すぎるほど汗かくでしょ?」
・・・はぁ。
これじゃ、完全に臨戦態勢完了ってところだな。
しゃーねえなあ。
「・・・わかった。ご希望通りこれからゆ〜っくり『愛して』やるよ」
左手で綾香のあごを持ち上げるようにして、じっと眼を見つめながらそう言ってやる。
瞬間、綾香の目がぽーっとしたようになる。
こいつ、やっぱり「愛してる」とかいう言葉には弱いんだよなあ。
まあ、言葉に偽りはないんだが。
「・・・全部、愛して・・・」
言いかける綾香の唇をそっとふさぐ。
長いキスへとなだれ込んでいきながら、俺は首に回された綾香の腕の重さを心地よく感じ
ていた。



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