お題 ”夏休み”
Sidestory of "White Albam"
 

「夏、氷点下の闘い」


Written by いたちん




暑い。
8月に入って、毎日のように猛暑だ。
なので部屋の中ではクーラーきかせているのだけど・・・
冷房にやられたかもしれない。
だるい体をなんとか動かしてかけていた布団をどかす。
その仰向けの状態からごろんと横に転ってうつ伏せになり顔を上げ時計に目をやる。
昼前・・・だ。
なんとなく腹も減っている気がする。
起きようと思うが体がだるい。
動きたくない。
面倒くさい。
最近、こんな調子だ。
普段、大学がある時ならさすがにこんな事はない。
でも今は夏休み。
暑くなってからはバイトがない日はしょっちゅうこんな生活だ。
そのバイトも、由綺と別れてからADをやめたので、今はエコーズだけ。
空腹に負けて何とか体を起こす。
・・・と、昨日見たそこで冷蔵庫の中身を思い出す。
確か・・・なにもない。
「ふわ〜」
大きくあくびをして再びベッドに倒れ込む。
何もやる気がおこらない。
かといって腹は減る。
どうしようかと、はっきりしない頭で考えていると、玄関のベルが鳴った。
「はーい」
なんとか返事はするが、大きい声を出す気力はない。
今のは聞こえてないだろう。
でも、確か昨日玄関は鍵かけてなかったはず・・・
知り合いならそのうち入ってくるだろう。
でなきゃ、たいした用事じゃない。
案の定、もう何回か鳴らした後、ガチャという音がした。
足音が部屋に近づいて・・・入ってきた。
「藤井君・・・いるの?」
あれ、この声は
「美咲さん?」
慌てておきあがって部屋の入り口を見る。
「どうしたの?調子悪いの?」
本当に心配した表情で聞いてくる。
「悪いっていうか、ちょっと体がだるいだけだよ。はは・・・」
苦笑いしながら答える。
「うん。もしかしたらそんなところじゃないかなって思って・・・
昼作ってあげようかと思って来たんだけど・・・」
「あ、それはうれしいな」
美咲さんは小さく微笑んでキッチンに向かった。
あれ、でも待てよ。美咲さん手に何も持ってなかったよな・・・
ちょっとしてから、案の定美咲さんが困った顔で戻ってきた。
「美咲さん、外に食べにいこっか」
美咲さんがなにかいう前にこっちから切り出す。
デパートあたりで飯食って涼むのならいいだろう。


「藤井君、いつもあんな状態で生活してるの?」
デパートのレストランで昼飯を食っている時に美咲さんがそう聞いてきた。
それって、冷蔵庫・・・のことだよな。
「たまたま、だよ。今日は」
ここ数日、買い物に行くのも面倒だっただけで・・・
なんとか言い訳したけど、多分信じてもらえていない気がした。


軽く食事した後、俺達はデパートの中を散策することにした。
といっても特に目新しいものはない。
と、先の方から子供の歓声のようなものが聞こえる。
そっちへ歩いていってみると、どうやらヒーローショーという看板がある。
「過疎レンジャーかな?」
故郷戦隊過疎レンジャーは人気のあるTV番組だ。
別に見ていたわけではないが、一応知識としては知っている。
だが、違っていた。
ステージを見ると5人の変身した人が名乗りをあげている途中だった。
・・・
「黄ムタイヤー!!!」
「桃ムタイヤー!!!」
最後に5人がそろって叫ぶ。
「5人そろってゴムタイヤー!!!」
客席から子供たちの歓声が上がる。
なんだそれ。
すごいかっこ悪いと思うけど・・・
だが、子供たちには受けているようだ。
今の子供との感覚の違いに、なんだか自分が年寄りになったような錯覚をうける。
面白くないのでとっとと先に行こうとしたが、美咲さんをみると・・・
なんだか、真剣にステージを見ていた。
・・・
楽しいのかな・・・?
あまりに真剣なので俺は美咲さんにつきあってもう少し見ていくことにした。
ステージ上では悪役の攻撃が始まっていた。
「くらげ〜」
クラゲ怪人というらしい、きぐるみがなにやらやっている。
「くらげ〜。夕立こうげき〜」
その声にあわせて、ゴムタイヤーの上に雨雲が現れ雨が降り出す。
「うわー酸性雨が〜」
これは・・・けっこうすごい。
どうやら立体映像みたいだけど・・・
デパートのショーなのにこんな技術まで使ってるんだなと素直に感心してしまう。
いつの間にか俺もまじめに見ていた。
「冬弥くん」
後ろから小さな声で呼ばれてステージから目を離す。
そこにいたのはサングラスをした少年・・・
いや、理奈ちゃんだった。
俺は美咲さんの隣を離れて後ろにさがって理奈ちゃんと小さな声で会話する。
「お久しぶり。こんなの見て面白いの?」
サングラスをちょっとずらして話しかけてくる。
「いや・・・俺はあんまり・・・」
そういって美咲さんの方に顔を向ける。
美咲さんも俺達に気づいたようだ。
ちょっと名残おしそうにステージにちらっと目をやってこっちにやってきた。
「あれ?緒方・・・理奈ちゃん?」
あ、そうか。
美咲さん、理奈ちゃんと直接会ったことないんだ。
美咲さんはなんだか感激したように理奈ちゃんに話しかける。
「一度理奈ちゃんと話してみたかったんだ。藤井君の話に出てくるたびにうらやましい
かったから」
「私も会ってみたかったわ。冬弥君が由綺を捨てた原因の人にね」
うっ
そういう言い方はしてほしくないなぁ・・・事実だけど
美咲さんも顔を赤くしてこまっている。
「それで、冬弥君たちあのショーを見に来たの?」
「いや、そうじゃなくてだた涼みに来たというか・・・」
まさか家に食料がなくなったからとは言えない。
「ふーん。ね、涼みに来たのならあっち行ってみない?アイスクリームがただで食べれ
るわよ」
それはいいな。
でも、ただってのは・・・
「なんでただなの?」
「大食い大会やるからそれに出ればただよ」
「大食い大会って・・・それに出ろって?」
「大丈夫。参加だけしてゆっくり食べればいいんだから」
うーん。
「とりあえず行ってみようか?美咲さん。せっかく理奈ちゃんがこう言ってくれてるし」
「・・・うん、そうだね」
美咲さんはそう言いながらもちらりと横に視線を向ける。
まだステージに未練があるみたいだった。


「理奈ちゃん・・・」
「どううしたの?冬弥君」
俺はその大食い大会の場所にきて呆然としていた。
「アイスじゃなくて、かき氷みたいなんだけど」
「あ、うん。そうだったみたいね」
大食いって・・・アイスとかき氷じゃ大違いだと思うんだけど・・・
死者がでるぞ。かき氷の大食いなんて
と、いつの間にか理奈ちゃんが消えている。
辺りを見回すと・・・いた・・・って受付!?
慌ててそっちに駈け寄ろうとしたが、それより早く理奈ちゃんがこっちに帰ってきた。
「申し込んでおいたわよ、2人」
分かってるけど、確認する。
「2人って・・・だれ?」
「冬弥君と、そっちの新しい彼女」
そういう言い方やめてってば。
「さ、並んで並んで。もうすぐ始まるそうよ」
文句を言おうとした俺と美咲さんは理奈ちゃんに押されるように所定の場所に連れて行
かれた。
「どうしよう・・・冬弥君」
目の前にはすでにかき氷が用意ある。
その先にはわんこそばみたいにおかわりが用意までされている。
「ま、ゆっくり食べればいいんじゃない?美咲さん」
「うん・・・そうだね」
さて、開始の合図はまだみたいなので周りに目をむける。
他にはどんな人が参加するのかも気になった。
10人程度いるようだ。
隣の人は・・・っと
・・・俺を・・・ジト目で見ていた。
「藤井さん。なんでこんなとこにいるの?」
「あ、あれ、マナ・・・ちゃん?」
そういえば、マナちゃんに会うのも久しぶりだ。
家庭教師が終わってからは街中で偶然ってことがたまにあるだけだった。
「藤井さん。かわいそうにかき氷を買う金もないの?そんなだからお姉ちゃんに捨てら
れるのよ」
買う金がないわけじゃないんだけど。
「でも、マナちゃんだってここにいるじゃない」
その言葉はマナちゃんのお怒りにふれたようだ。
マナちゃんの右足の動きを視界の端で捕らえる。
俺はとっさに左足をひく。
散々くらっているのでほとんど条件反射だ。
ガッ!!
「いてっっ!!」
なんと俺の右足にスネ蹴りをしてきた。
クロスファイアーだ(謎)
「ふん、自分の事棚においてそんな事言うからこういう目にあうのよ」
それはマナちゃんの方だ・・・とは言えなかった。

俺が右足をさすっていると、どうやら開始の時間になったようだ。
簡単な説明が行われる。
3分でどれだけ食べられるか・・・らしい。
「では、開始!!」
合図に合わせて、目の前のかき氷を食べ始める。
やるからには、ちょっとは勝ちたいので早めのペースでいく。
ちらりと右隣の美咲さんを見る。
競争する気はないらしく、ゆっくりと食べている。
左のマナちゃんは・・・俺をにらみつけながらすごい勢いでがっついている。
どうやら、俺には絶対に勝つ気でいるようだ。
よし、ここはマナちゃんの挑戦を受けて立とう。
適当にすませたら何いわれるか分からない。
かき氷を食べる速度を早める。
「50秒・・・55秒、6,7,8,9、1分経過」
アナウンスがある。
なんだ、そのカウント方法は。
とにかく、食べまくる。
皿の中がなくなると、どんどん次のがやってくる。
残り時間と今までのペースを考慮してラストスパートに入る。
だが、ちょっとスパートのタイミングを誤ったようだった。
「うおおぉぉ・・・」
おもわず声が出でしまう。
もうちょっとゆっくり食えばよかったと思ってももう遅い。
俺が苦しんでいるところで、「終了〜」との声が耳に入ってきた。
「ゲームセットだな、青年」
それはもういいって・・・
ん?今の声は英二さん?
顔をあげて確認したいが、苦しくてできない。
「優勝者はこちらの女性に決定しました」
アナウンスが聞こえる。
「お名前をどうぞ」
「みさきだよ」
えっ!!?
びっくりして頭を起すが、痛みであがらない。
「ぐはっ」
再び机に突っ伏してしまう。
「大丈夫?藤井君」
美咲さんが横から心配そうに声をかけてくれる。
さっきのは美咲さんとは違う人らしい・・・ってあたりまえだよな。
美咲さんは俺の背中をさすってくれているようだが、食べ物を詰まらせた訳じゃないの
であまり効果はない。
回復にしばらく時間がかかってしまった。

なんとか、復活するとやはりそこには英二さんがいた。
その先の方ではマナちゃんが担架で運ばれている。
「英二さん。なんでここにいるんです?」
「理奈ちゃんが逃げ出したから、追いかけてきたんだ」
逃げ出したって・・・
英二さんの横の方では理奈ちゃんが弥生さんに捕獲されていた。
「それにしてもよく理奈ちゃんの居場所がわかりましたね」
その言葉に英二さんは目で笑った。
「理奈から出てる電波をキャッチしてるんだ」
あの、英二さん?
「電波って・・・」
英二さんは他の人に聞こえないように俺の隣までやってきて耳元で小さな声でこう言った。
「実はね、理奈は僕が芸能界征服のために作ったロボットなんだ」
ってどっかで聞いたような話・・・
そんなことあるわけないけど・・・
でも、英二さんならもしかしたら・・・ってつい思ってしまった。
・・・まぁ、俺には関係ないけど。
ん?
この時あることに気いた。
ここに弥生さんがいるってことは・・・
「英二さん・・・その、由綺・・・も来てるんですか」
「ああ、来てるぜ。君と話すのまだつらいから草葉の陰から応援してるってさ」
草葉の陰・・・それって、言葉の使い方が・・・
英二さんが顎である方向を示す。
ゆっくりと、そっちに目をやると・・・
そこにはデパートの観葉植物の陰に、なぜか小さな日の丸の旗を手に持った由綺が・・・
隠れていた。


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