夏の一日

「はぁ〜ぁ、ねえ耕一、なんで大学生にもなって宿題なんかやらなきゃいけないのかなぁ。」
「宿題じゃなくて試験代わりのレポート。出さなきゃ単位貰えないんだぜ、梓。」
今は夏休み。アパートの部屋には冷房がないので、俺たちは大学の図書館に涼みに来ている。一応、課題のレポートを片づけるという名目付きだ。
「適当に済ませちゃおうよ、耕一。」
「あの教授は採点厳しいからな。ちゃんとやらないと赤点だぜ?」
「どれくらい厳しいわけ?」
「俺が今年もレポート書いてる位。」
梓は納得したらしい。しばらく真面目に筆を走らせていると、俺の腹の虫が鳴った。

「……。」
「お昼にしようか、耕一。」
「ああ。今日の弁当は何だ?」
「鮭のおにぎりと茄子の浅漬け。」
「ここは飲食禁止だし、お茶が欲しいから学食へ行くか。あそこにも冷房も入ってるし。」
「うん、外のベンチはさすがに暑いからね。」
学食でお茶だけ貰って、昼食を取った。

食事の後、図書館へ戻る途中、
「耕一、ちょっとまってて。」
そう言って、梓は購買部の方へ行ってしまった。
「おまたせ。」
しばらくして帰ってきた梓の手には、アイスクリームがあった。早速封を開けて食べはじめる梓。
「よく入るな〜、梓。」
「甘いものは入るところが別なの。」
「太るぞ。」
「お生憎様。あたしは運動してるから、大丈夫。」
「そんなもんかね?」
「そんなもんなの。」

再びレポートに取り掛かった俺達だが、すぐに飽きたみたいで梓が甘えた声を上げる。
「ねぇ〜、耕一ぃ〜。海行こうよ、海ぃ〜。」
「何が悲しゅうてわざわざ金払って人混みの所へ出かけて、くらげに刺されにゃならんのだ?」
「みんな海行って真っ黒に日焼けしてるじゃん?」
「皆はみんな、俺達はおれたち。」
「今年はちょっとキワドイ水着を新調しようかと思ってるんだけど…。」
「梓の水着姿を他の男どもに見せるのは癪だ。却下。」
「…」
「…俺はな、梓。別に海なんかに行かなくたって、梓と一緒なら十分なんだ。」
「…耕一…。」

夕方。外もだいぶ涼しくなってきたし、そろそろ帰る時間だ。
「いい時間だし、そろそろ帰るか、梓」
「そうだね。今日はスーパーの特売があるから、帰りに寄ってくよ。」
「オーケイ。」

袋三つ分買い物をした帰り道、突然の雨に襲われた。
「天気予報じゃ降るなんて言ってなかったぜ?」
「夕立じゃしょうがないよ。ほら耕一、走るよ!」
「待てよ梓、俺は荷物があるんだぜ…。待て、待てったら。」
慌てて走って、晩御飯のおかずが卵づくしなんてのは嫌だからな。多少濡れるのは我慢して、早足でアパートへ向かった。

晩飯を食ってのんびりしていると、遠くの方から「どどーん」と音が聞こえた。
「あれ何だ?」
洗い物を終えた梓が台所から出てきた。
「そう言えば、河川敷で花火大会とか町内掲示板にあった様な…。」
「ちょっくら、見に行くか?」
「海には行きたがらなかったくせに…。」
「近所の花火大会なら、金かかんないからな。それに、すぐに帰ってこれるし。梓、浴衣持ってきてるだろ?」
「水着は着せたくないとか言ってたくせに…。」
「そんなこと言わずにさ…、な、梓?」
「一人で見てきたら?」
「梓と一緒でないと、意味がないだろ…。」
「ふふっ、しょうがないね…。」

二人で浴衣を着て出かけた。途中でビールを何本か買い、飲みながら花火見物だ。
花火が終わる頃には、すっかり二人とも出来上がっていた。
二人で寄りかかり会う様にして部屋へ戻り、ごろんと横になった。
「花火、綺麗だったな…。」
「うん、綺麗だったね…。」
「梓も綺麗だ…。」
「…。」

かくして、夏の夜は更けていく。

(終)


二次創作おきばへ戻る    感想送信フォームへ