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お題 “学園祭” |
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「GAKUEN-KING」
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>SCENE.1
ズシャーーン!!!
ひっきりなしに振動が、彼らの立っているリノリウムの床を揺さぶる。
目の前の巨大なスクリーンには、正体不明の巨人?がこちらへと接近して
くる映像が映し出されている。
「あ、あのあの、えーっと……「目標直上地点到達まで、あと306秒」ですぅ」
緑色のショートカットを揺らしながら、オペレーターが懸命にレーダーの数値
を読み上げる。クリーム色の制服に身を包んではいるが、童顔なため、まるで中
学生のようにさえ見える。緊張のせいか、顔を真っ赤にしている今はなおさらだ。
警報と怒号が飛び交う司令室に、ストレッチャーに乗せられて、ひとりの少女
が運び込まれてきた。身体中に包帯を巻き付けられてはいるが、袖のないレオタ
ードのような服に包まれた体はきわめて均整のとれた代物であることがわかる。
顔の半面も包帯で覆われていたが、美しい真紅の髪とルビー色の右瞳が印象的
な彼女は、本来美少女と呼ばれてしかるべき存在であることは確かだった。
無言のまま何かの操縦席のようなものに運ばれ、自ら立ち上がろうとする少女。
ちょうどその時、足元を襲った振動のためかベッドから転がり落ちる。
少年は慌てて少女のもとへと駆け寄り、抱き起こす。
(う……か、かわいーじゃねえか)
一瞬不謹慎なことを考えた彼の頭上になぜか金ダライが落っこちてくる。
だが、タライは彼に当たる寸前で、何かにはじかれたように軌道を変える。
「えーと…「あ、ありえないわ、いんたーふぇいすもなしに!」」
白衣をまとい、赤味がかった髪をオカッパにした女性が棒読み口調で驚くと、
長い黒髪を無造作に垂らしたボディコン風の美女がパチリと指を鳴らした。
「いける!!」
やや大袈裟にぜいぜいと息を荒げる少女を抱きかかえながら、少年は辺りを
見回すようにして、見えを切った。
「わーったよ。オレが乗る!」
>SCENE.2
学校の屋上らしき場所に、赤いジャージを着て眼鏡をかけた少女が遠くの山並
みを眺めている。
「えらい遅いな。もう避難せなあかん時間やで。おとんのデータからちょろ
まかして見たんやさかい、この時間で間違いないはずやけどなぁ……」
少女の独り言が終わるまえに、山すそから紫色の巨人が姿を見せる。
「エヴァや!」
続いてもう1体の巨人も姿を現わす。
少女は見えないコトを承知で懸命に2体の巨人に向って手を振った。
山頂付近に設けられた仮設の作戦司令部らしき場所で、第壱中の制服に身
を包んだ少年と少女が、彼らの上司にあたるふたりの女性から、今回の作戦
についてレクチャーを受けていた。
「こォんな野戦向きじゃない兵器、ホントに役に立つのかよ?」
巨人の足元に置かれた不格好な銃−ポジトロンライフルに疑惑の目を向ける
少年。
「ゴメンね、間に合わせだからガマンしてね。でも、理論上は大丈夫だから」
白衣を着た赤い髪の女性がすまなそうに少年をなだめる。
「ただ、銃身や加速器がもつかどうかは、撃ってみないとわからないの」
「オイオイ……」
呆れる少年。少女のほうは無表情無言のままだ。
そこへ長い黒髪の女性のほうが口を挟む。
「作戦における担当を発表します。浩…シンジくん、初号機で砲手を担当して」
「おう」
「セ…レイは零号機で防御を担当」
「−はい」
「これはね、浩之ちゃん……じゃなかった、シンジちゃんのほうがシンクロ率
が高いからなの」
白衣の女性が嬉しそうに言った言葉に、すかさず少年が突っ込む。
「オメー、なんでシンクロ率が高いと砲手なのか、説明できんのか?」
「え!? えーと、えーと……」
泣きそうな顔で必死に台詞を思い出そうとする彼女の頭をポンと叩く少年。
「バーカ、今回の作戦にはより精度の高いオペレーションが必要だからだろうが」
「あ、そっか。えーと、「最後に真ん中のマークがそろったらスイッチを押せば
いいの。あとは機械がやってくれるわ」…だっけ?」
じゃれあうふたりを尻目に紅い瞳の少女が口を開く。
「−私はこの楯で初号機を防御すればいいんですね?」
「あ、うん」
「−わかりました」
「時間よ、二人とも着替えて」
キビキビとした口調で、黒髪の女性がふたりを促した。
「しっかし、こんなアバウトな作戦じゃ、死ぬかもしんねぇな」
カーテンで仕切られた簡素な更衣室で、少年がポツリと呟く。
「−どうして、そういうコトを言うのですか?」
「わりぃ、オマエを信用してないワケじゃねぇんだ」
「−あなたは死にません」
シャーッとカーテンが引かれ、白いプラグスーツを着た少女の姿が月をバック
に浮かびあがる。
「−私が守りますから」
「え……」
その凛とした雰囲気に一瞬見とれる少年。
「−時間です。行きましょう」
歩きかけて、振り向く少女。
「−さよなら」
零号機の捨て身の活躍のおかげで、なんとか敵を撃ち倒した初号機。
初号機からとびおりた少年は、もうもうたる湯気をあげる零号機のエント
リープラグのハッチを、素手でこじ開ける。
「セリ…じゃなかった、綾波っ!」
力なく席に横たわり目を閉じていた少女が、ゆっくりとまぶたを開く。
不器用な手つきで少女を抱きしめる少年。
「その……なんだ。別れ際に「さよなら」なんて哀しいコト言うのは、ナシに
しようぜ」
「−なぜ泣いているのですか?」
言われて、初めて自分の目に涙がにじんでいるコトに気づく少年。
「−すみません。こんなとき、どういう表情をすればいいのか、データに
ないんです」
「あ……その、笑えばいいんじゃねぇか?」
内心、思いっきり恥ずい台詞を言ってしまったと、顔を赤らめる少年だ
ったが、つぎの瞬間、そんなコトも忘れて、少女の顔に見とれる。
月をバックに、かすかに微笑む少女の笑顔が、たとえようもなくキレイ
だったからだ。
>SCENE.3
どこまでも広がる海に浮かぶ大型空母。
その甲板上で、黄色いワンピースを着た金髪の少女が蒼い大空を背に仁王
立ちになっている。
風に煽られて、ひるがえる裾から、下着がチラチラ覗いているが、まったく
気にしている様子がない。
かえって向かいあっている少年少女たちのほうが、目のやり場に困っている
くらいだ。
「Hello、ミサト。元気でしたカ?」
「ま、ね。アンタは、あいかわらずうらやましいぐらい巨乳ねぇ」
「先月、また2センチ大きくなってましタ」
黒髪ボディコンの女性と知り合いらしく、そんな会話をかわしている。
彼女は、物珍しげにそこらへんを眺めている少年たちに向き直る。
「じゃ、一応紹介しときましょうか。この娘がレ……惣流・アスカ・ラング
レー。弐号機の専属パイロットのセカンドチルドレン、ってヤツよ」
「How Are You? ヨロシク、ね」
>SCENE.4
モニターには山間部から怪獣のようなものが姿を現わす様が映っている。
「来たわね。見てらっしゃい!」
指揮官らしき黒髪の女性が、別のモニターに映るふたりの少年少女に指示を下す。
「音楽と同時にフィールドを展開。あとは打ち合わせどおりよ。いいわね?」
「任せろ」「了解ネ」
限りなくカルいふたりの返事に、ややジト目になる指揮官。
(だ、大丈夫かしら?)
射出される紫と赤の巨人。空中に飛び出すととに回転してスタンと身軽に着地。
「ヒ…シンジ、最初からフルパワーでいくヨ」
「ああ。55秒、一発勝負だ」
巨人の背中につながっていた電源コードが外れる。
「「GO!」」
ダッシュする2体の巨人。
背景に流れる音楽は、なぜか「BranNewHeart」だ。
分裂する怪獣?。
怪獣?からの攻撃を華麗にバク宙でよける巨人たち。
「さすが、葵と好恵ね。いい動きしているわ」
黒髪の指揮官が謎の言葉を呟く。
巧みに怪獣?の攻撃をかわした2体が、同時に放った回し蹴りで、
最後のカタがつく。
チュドーーン!!
吹っ飛ばされた怪獣?が爆発。
作戦室は歓声に包まれた。
回し蹴りの姿勢のまま、巨人が仰向けにひっくり返ってるのは、
この際、ご愛嬌だろう。どうやら電源が切れたらしい。
「あっちゃー」
「浩…シンちゃん、カッコわるい」
指揮官と赤髪白衣の博士然とした女性が同時に呟いた。
>SCENE.5
「転校生の長…霧島マナよ。よろしくね、みんな」
ややシャギーの入ったショートカットの少女が教壇の前で元気に挨拶
すると、教室がウェーブの嵐に包まれた。
まだ教師の指示もないウチから、やや目つきの悪いやんちゃそうな少年
の隣りの席に座る転校生。
(おい!)
(なによ?)
(納得いかねーぞ。何でオマエが、こんなオイシイ役なんだ?)
(あ〜ら、我が校のアイドル美少女ナンバーワンの志保ちゃんに、
悲劇の美少女役はピッタリじゃない?)
(…完全にキャスティングミスだな。フッ、誤差も予測の範囲内って
ことか)
(ちょっと、どーいう意味よ!?)
「よろしく」「こちらこそ」「教科書見せてね」「ウ、ウン」といったホノボノ
したやりとりの影で、囁き声でし烈な口喧嘩が交わされている。
(見てなさいよ。麦わら帽子と白いワンピース姿のアタシを見たら、絶対、
ハマり役だって思うから)
(まぁ、期待しねーで、待ってるよ)
>SCENE.6
ドシン!
廊下の真ん中で衝突する少年と少女。
「だ、大丈夫か、先パ…山岸さん?」
少年の問いに艶やかな黒髪の少女はコクンと頷く。
「ホラよ、立てるか?」
少年の差し出した手を、ポッと赤くなりながら掴んで立ち上がる美少女。
「あ、本散らばっちまったな。拾うの手伝うぜ」
少女が抱えていたらしい書籍を床から拾い上げる少年。
じつに微笑ましい光景だが……本の題名が「心霊学概論」とか「無名祭祀書」
といったヒジョーにいかがわしいものばかりなのは、気のせいだろうか?
少年もそれに気づいたらしい。やや腰が引けている。
「え…と、本が好きなんだな」
「……ハイ……」
もっとも、囁くようなか細い声での返事に、すぐに気をとり直した様だが。
「あ、お詫びにオレがこの本運ぶぜ。どこ持って行くんだ?」
「…………」
「旧校舎の図書館か? よっしゃ、任せな」
「…………」
「すみませんって? いいって。力仕事は男の出番だぜ」
並んで歩く少年と少女の姿は、夕陽に照らされた校舎のなかで、妙に
ハマって見えた。
…………………………………………………………
CAST
碇シンジ 藤田浩之
綾波レイ HMX-13セリオ
惣流アスカ 宮内レミィ
葛城ミサト 来栖川綾香
赤木リツコ 神岸あかり
伊吹マヤ HMX-12マルチ
鈴原トウコ 保科智子
洞木ヒカリ 雛山理緒
霧島マナ 長岡志保
山岸マユミ 来栖川芹香
渚カヲル 佐藤雅史
碇ゲンドウ 長瀬源五郎(特別出演)
冬月コウゾウ セバスチャン(特別出演)
STAFF
プロデュース 来栖川綾香
監督/演出 藤田浩之
脚本 佐藤雅史 保科智子
特殊効果 来栖川芹香 姫川琴音
敵造形 来栖川エレクトロニクス有志一同
CGワーク 同上
アクションスタント&モーションキャプチャーモデル
坂下好恵 松原葵
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−−以上をもちまして、有志"藤田浩之と愉快な仲間たち"による映画
「実写版 新世紀」の上映を終了いたします。
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結局、オレたちの自主制作映画は今年の学園祭で、人気投票ナンバー1
の地位を獲得できた。
まあ、CG合成に来栖川の研究所のコンピューター借りたり、SFXに
超能力やら魔術やらを動員したり、アクションスタントに本物の格闘家の
協力を仰いだりしてるんだ。ハッキリ言って、そこらのB級シネマなんか
メじゃない。
もちろん、技術的なこと以外にも、委員長&雅史の合作シナリオと、
監督兼主演のオレの演技指導あってのがタマモノだろう……と、ここは
多少なりとも自惚れさせてもらう。
キャスティングに関しては意外性を狙ってみたんだが、案外評判は良
かった。ムリに芝居させずに、できるだけ普段の自分を出そうという方
向性は正解だったようだ。
というワケで、オレたちは今、賞金代わりの「学食半日貸し切り&食べ
放題」券を使って、学食の2階で打ち上げの真っ最中だったりする。
するのだが……。
「ちょっとヒロ、何よ、あのサークル名は?」
「センス悪いで、藤田くん」
だぁああっ、オレに言うなって。綾香のヤツが勝手に決めやがった
んだから。
オレだって恥ずいに決まってんだろ。
綾香いわく「スタッフもキャストも全員、浩之の知り合いってツテだから」
なんだそうだ。
まあ、綾香をはじめ、来栖川関係の人々には世話になったからな。
これぐらいのお茶目は許してやってもいいだろう。
「ホラ、マルチちゃん、口元におべんと付いてるよ」
「あ、すみません、あかりさん……」
祝いの席ということで、いつもは遠慮する(まぁ、確かに食べても
栄養にはならんのだが)マルチも飲み食いを楽しんでいるようだ。
もっとも、普段は味見程度しかしないせいか、テーブルの行儀作法は
まだまだのようだが、その点はあかりが甲斐甲斐しく世話をやいている。
ガラガラッ……。
「失礼しまーす」 「お邪魔する」
お、遅れていた葵ちゃんと坂下も来たみたいだな。
「あ、あのう、ホントに私たちも参加させてもらっていいんですか?」
何言ってんだよ。ふたりともリッパにスタントやってくれたじゃねーか。
相変わらず、葵ちゃんは律義だなぁ。
ふと、食堂の片隅を見れば、芹香先輩と琴音ちゃんが"不可視の力"に
ついて意気投合している。
「………」 「−はい」
うーむ、ふたりが仲良くなることに異存はないんだが……琴音ちゃん
までオカルト研に入部しちゃったら、ますます手がつけられなくなるかも。
「ほぉ〜ら、セリオ! もっと飲みなさいよォ」
「−綾香様、それ以上はお身体にさわりますよ」
別の方では、ほんのり頬を桜色に染めた綾香(ちょっと色っぽいかも)が
セリオにからんでいる……って、オイ、そりゃ何だ!?
「ヒック……浩之もいっぱい、どーお?」
あーあ、一応部外者は立ち入り禁止だからって、校内に堂々と酒、
持ち込みやがって……。
「はは、まぁいいじゃない。今日は無礼講ってコトで」
雅史! オレたち仲間内の良心とも言うべきおまえまで、そんなこと
を言うとは、オニイさんは哀しいぞ。
「いっちばーん! レミィ宮内、隠し芸やりますネ!!」
まあ、この手の宴会には不可避な展開になってきたな。
「誰カ、このリンゴ、頭の上に乗っけてくれませんカ?」
……そ、それはシャレにならんから、やめてくれ、レミィ。
「ううっ、こんなにたくさんただで食べられるなんて……ああ、
弟たちにも持って帰ってあげなきゃ!」
理緒ちゃん、片っ端からタッパに詰め込むのはちょっと……。
「3ば〜ん、志保ちゃん、「残酷な天使のテーゼ」歌いまーす!」
志保、どっからカラオケセットなんて持ってきやがった!?
× × ×
「フーッ、やれやれ」
阿鼻叫喚な様子を呈してきた会場を抜け出して、オレはテラスに
涼みにきていた。
あのあと、結局綾香に酒を飲まされたり、隠し芸の罰ゲームもどき
で走らされたりしたんで、結構身体が火照っているせいか、夜風が
気持ちいい。
「あ、こんな所にいたんだ……」
オレを捜していたのか、"彼女"も隣りにやって来ると、すぐそばに
寄り添って、ちょっと恥ずかしそうに頭をオレの肩に預けた。
そのまま、ふたりでしばらく星空を見つめ続ける。
「こんな…こんな楽しい毎日が続くといいね」
"彼女"の言葉は、もちろんオレの願いでもあった。
<終わり>
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