お題 “由宇と詠美” |
|||
「その日の辛味亭」
|
「なあ、休憩行っていいか?」 売り子の一人(男)が雇い主に聞いた。 「ああ、ええで。ま、その辺ぶらついとき」 「ちょうどええわ。ついでやから何か飲み物買って来て」 別の売り子がそう言って金をわたした。 「なあ、由宇」 「なんや?」 売り子をしてくれている友人がぽつりと言った。 「このごろ、元気ないんとちゃう?」 「そんなことないで」 「それやったらええけど…」 嘘だとはわかっていたが、彼女はそれ以上つっこまなかった。 先月のことがあって、それでも詠美はここに居ると聞いた。 会いに行こうかと思った。 しかし、もはや彼女のパートナーは自分ではない。 千堂和樹。 彼が新しいパートナー。 彼女の同人誌が見たかった。 しかし、買いに行けなかった。 どうしてかは、わからない。 ふと、自分は彼女に何をしたのだろうかと、考える。 何もしなかっただけじゃないか? ただ、彼女を苦しめただけじゃないか? そんな思いが、思考を支配していた。 「ただいま」 「おかえり……ってなんや?その同人誌」 「いや、なんとなく……よさそうだったから……」 「あんたまでオタクにならんといてや」 先ほどの売り子が帰ってきたようだった。 同人誌を見ると、見たことのある絵。 「ちょい、見してくれるか?」 「え?あ、ああ」 由宇の迫力にに押されて本を差し出す。 「……」 サークル……CAT OR FISH。 作者……大庭……詠美……。 内容は、元ネタなしの、オリジナル。 ……二人の同人作家の物語。 「あのアホ、こないなこと書きよって」 「?」 売り子二人には何の事かわからない。 しかし、由宇のなにかが晴れたことは、なんとなくわかった。
二次創作おきばへ | 後書きへ | 感想送信フォームへ |