お題 “志保”
Sidestory of "To Heart"
 

「回り道」


Written by SAY





 キャキキキキィィィィッッッ!!!
 けたたましいその音に、微睡んでいた俺の意識は急速に現実へと引き戻された。
 タイヤの軋む音だとは分かったが、その後に続くはずの音がしない。
 どうやら、事故ではないようだ。
 それでも不吉な感じがするのは、単なる気のせいなのだろうか?
 ピンポ───ン……。
 呼び鈴が鳴る。
 俺の中で、悪い予感は現実の物として確固たる地位を占めだした。
 気が重くなってくると、それを眠気に代替えして、俺は再び布団に潜り込んだ。

 ピンポ───ン! ピンポン! ピンポ─ン!
 ………。
 あいつの性格を考えれば、確かに俺の取った手段は失敗だったと言わざるを得ない。
 ピポピポピポピポ──ン!
 俺が出て行くまで、鳴らし続けるつもりなのはすでに明白だった。
 滅入ってくる気分に頭を抱えながら、玄関に辿り着くまでのわずかな時間が永遠にも感じられた。
「はいはいはい…」
 相変わらず鳴り続ける呼び鈴に答えながら、玄関のドアを開けると、想像通りの人間が立っていた。

「は〜い、ヒロ。って、何でパジャマで出てくるのよお。せっかく、このあたしが起こしに来てあげた、っていうのに。
正装して出迎えるのが筋、ってもんでしょお? しかも、何? その不景気そうな顔は。ま、あんたはいつも不景気
そうだけどね、あはは」
「朝っぱらからてめえの顔見れば、誰でも不景気な顔にもなるってもんだ」
「あによぉ。あたしのせいだって言いたいわけ?」
「それ以外の意味に受け取れるなら、受け取ってみて欲しいもんだぜ」
「むかつくわねぇ。ま、今日のところは許したげるから、とっとと着替えれらっしゃい。あんた、今日は授業あるんでしょ?」
「今、何時だ?」
「そうねぇ…10時ちょっと前ってところね」
 ヤバかった。
 あわててドアを閉めると、俺は自分の部屋目指してダッシュした。
 ドアの外で志保が騒いでいるのが聞こえたが、そんな物は無視してやった。

 着替え、洗顔、歯磨き、その他諸々。
 いつも以上に焦ったためか、必要以上に時間がかかった。
 玄関を出て、鍵をかける。
 走り出そうとした俺の目の前には、まだ志保がいた。
「何だ、まだ帰ってなかったのか?」
「失礼ねえ。それに、そんなこと言っていいの? あたし、車で来てるんだけど…」
 勝ち誇った笑み。
「足元みやがって…」
「あ〜ら、あたしはどっちでもいいのよぉ。ヒロの態度次第、ってところはあるけど」
 しかし、これ以上の遅刻するわけにもいかない俺には、軍門にくだる他はなかった。
 大学院生とは、大学にいてナンボだからだ。
 本来なら、授業がなくても朝から学校にいるのが普通であるとすら言える。
「……乗せてってくれ」



キャキャキャッ!!
 カーブを曲がる度に、後ろのタイヤが悲鳴を上げる。
 シートベルトは役に立たず、しこたま俺は肩をぶつける。
 志保の運転が下手なんじゃなくて、日本の道路事情を考慮していない運転をしているだけだ。
 実際に、タイヤがどれだけ鳴っていようと、車線からはみ出しているわけじゃない…ように思う。
 とにかくも、風景が見慣れた町並みになってきた。
 時計を見ると、10時半。
 授業開始が11時だから、結構余裕すらある。
 とにもかくにも、こうなったのは原因が一応はある。
 俺の1時限目の授業は、去年落としたヤツの再履修で、あかりにはそんな物はない。
 そして、その再履修の授業は初っぱなから休講。
 つまり、今日はあかりは1時限目から学校があり、俺にはない。
 あかりに起こしに来ないように言うのも、当然のことだった。
 心配したあかりに頼まれた。
 そう志保は言っていたが、こいつがそんなに素直に頼まれるとも思わなかった。
 言葉に出すのしゃくだから言わないが、このときはさすがに志保に感謝した。
 まさに、その一瞬だけだが……。

「で、ここはどこなんだ?」
「どこに見える?」
「………」
「………」
 誰が何というと、俺の眼前に広がっているのは、灼けた砂浜と蒼い海だった。
「さすがに半月遅らせると、誰もいないわねえ」
 潮風に髪を遊ばせながら言う志保は、どこからどう見てもうれしそうだ。
「まだ、遊泳禁止にはなっていないみたいね」
 ………は?
「水着はトランクの中にあるから、あそこのトイレで着替えてきましょ」
 動転している俺には、思考がついていかず、言われるままに水着を受け取るとトイレへと向かって歩き出していた。

 着替えを終えてトイレから出ると、ちょうど志保の方も出てきたところだった。
 困ったことに、こいつはかなりスタイルがいい。
 ライトグリーンの華やかな水着が、それを強調させる。
「着替えは、車の中に置いてきましょ。で、今度はパラソルを持ってくる、と」
「へいへい…」
 着替えている間に随分と気持ちは落ち着いたが、志保に対して怒るよりも、諦めの方が強くなっていた。
 どうでもよくなった以上は、楽しまなければ損だ。
 ……昔以上に、志保に振り回されているのが、しゃくにさわると言えば嘘になる。
 ただ、再会した時もこんな感じで無理矢理学校つれて行かれたのを思い出し、自然と口元が緩むのも自覚はしていた。



 結局、志保の飽きるまでつき合っていたら、日が暮れていた。
「ふぅ……遊んだわねえ」
 ピクニックシートに体を伸ばし、目を細めながら志保が言う。
「……はぁ」
 逆に、俺はため息をついた。
「あによぉ。そのため息は」
「進歩がねえな、ってな…」
「何の?」
「さっき思い出したんだけどな、再会したときもこんなだったよな?」
「そうだったっけ?」
 まったく、こいつは………。

こいつが戻ってきた2年前から、俺達の関係はいつもの4人に戻ってしまっていた。
 しまっていた、と言う言い方は正しくはないな。
 一番の驚きを見せた俺の、戸惑いの結果だ。
 あかりとの些細な進展というのも、志保のいなくなった隙間にあかりが入り込んでいた結果だけに、当の志保との
再会がもたらした俺の変化は言うまでもなかった。
 いい女になったな。
 そう思った時点で、あかりに頼っている必要はなくなった。
 それでも2年ほどだらだらとした3人の関係が続いたのは、雅史がクッションの役目を果たしていたのと、あかりに
対する俺の後ろめたさだった。
 志保の方も、あかりを恋敵と宣言した割には、以前と変わらない距離を保っていた。
 いろんな思惑が絡み合っての、昔通りの4人の関係が成立していた。
 それを破ったのは志保だったが、次に破るとしたら俺が原因になるのは明白だった。
 そして、今日のことはそのきっかけにはもってこいだった。



「灼けた肌に、潮風が気持ちいいわねえ。人のいない海、って言うシチュエーションもたまらないけど」
「たまらねえのは、俺の方だぜ…」
「何? あたしに悩殺された?」
「……」
「らしくないわねえ。図星?」
 それにも答えず、俺は体を伸ばしてキスした。
「んんっ!」
 久しぶりの、志保とのキス。
 それで、俺にはすべて吹っ切れた気がした。

 さすがに驚いたのか、志保が体を堅くする。
 その隙をついて、俺は体重を乗せるようにして押し倒した。
「ちょっ、ちょっと、あんっ! んんっ!」
 うるさい口はふさぐのが一番。
「たまりにたまった、6年分の思い、ってヤツを思い知らせてやる」
 唇を離し、俺はそう宣言した。
「それで精算しよう、って訳ね…いいわよ」
 幾分の緊張を見せる瞳で、志保は言う。
 翳りを見せるその表情から、志保に対してのけじめを付けるつもりだ、と俺が言ったんだと思ったようだ。
「たまってる分はな。これからは、その都度ぶつけさせて貰うぜ」
「……仕方ないわね。そのたびに、志保ちゃん、ラブラブ〜。って言うのよ」
 一瞬だけ目を見開いた志保の答えが、それだった。
 立ち直るのが早いのは、昔以上だ。

 むさぼるようにキスを繰り返す。
「ず、随分、焦るわね」
 俺の一挙手一投足に、志保は動揺を見せる。
「6年分だからな。一晩で出し尽くすには、焦るくらいでちょうどいい」
 志保が動揺しているので、俺自身が嘘をつくのに苦労はなかった。
 結局、あかりとはそこまで進んでいなかったから、勝手が分かっていないだけなのだ。
 キスする場所を首筋に移しながら、抱きかかえるようにして背中の紐を解く。
 志保が俺に抱きつくようにしてくれたので、さほど手間はかからなかった。

 少しだけ体を離すと、その隙間からするすると水着が抜けていく。
 形のよい胸があらわになると、始めて志保は顔を赤く染める。
 再び志保にキスすると、左手で彼女の胸を包み込むようにする。
 それにピクンと体をふるわせると、俺の首筋に両手を回してしがみついてくる。
 想像以上にうぶな反応に、俺は確実に冷静さを取り戻していた。
 たっぷりとした質感のそれを、やわやわと揉みしだく。
「は…あ……」
 押さえ気味に声を上げる志保。
 人差し指だけでその頂点を探し、軽く押しつぶすようにすると、少しずつ堅さを増してくる。
 そのたびにかわいい声を上げてくれるのが、俺には心地よく感じる。

窮屈ながらも顔をずらし、乳首を口に含みながら、左手を太股の間へとずらす。
「あっ!」
 水着の上から爪ではじくようにすると、ひときわ大きく志保が体を弾ませる。
 すでにしっとりとしていたそこが、だんだんと潤み具合を増してくるのが分かる。
 それに気をよくすると、右手で腰を抱え上げるようにして、左手を水着に引っかけて一気に膝のあたりまで下げる。
「あっ…ちょ、ちょっと!」
 志保の抗議には答えることなく、そのまま片足を抜いたところで、膝を押し開いて中心部に口づけした。

「ふああっ」
 ぴちゃぴちゃとわざと音を立てるように、舌を動かす。
 下腹部がビクビクと痙攣する間隔が、徐々に短くなってくる。
「あっ! あああぁっ!」
 蕾を優しくかんだとき、大きく背中をのけぞらせた。
 軽く、絶頂に達したんだろう。
 肩で息をする志保から体を話して、俺も水着を脱いだ。

 とろんとした目で俺を見る志保に、俺は無言でモノをあてがった。
「いくぜ…」
 コクンとうなずく志保は、24歳になろうという大人の女性には見えなかった。
 ゆっくりと腰を進めると、志保がうめいた。
「イッ…つぅ……」
 それと同時に、俺自身が何かに阻まれるのを感じていた。
「志保……お前…」
「あ、あによお…」
 涙目になりながらも、志保は強がる。
 その言動から、アメリカでは遊び倒していたんだと思っていた。
 そんなヤツだったら、昔の彼氏の元に返ってこようとしただろうか?
 自分から離れていった男のところに。
 俺は、何一つ分かっていなかったんだと痛感させられる。
 俺と同じで、こいつも6年分の思いをため込んでいたんだ。

「…バカだな」
「なによお、急に」
 照れ隠しに強がる志保に、どうしようもないくらいの愛おしさを感じる。
「なんでもねえよ。……続けるぜ?」
「し、仕方ないわね」
 思わず吹き出しそうになるのを必死でこらえ、プチンと何かが弾けるのを感じながら志保の一番深い部分まで俺は
入っていった。



「う〜」
「何、情けない声だしてんだよ」
「だって…違和感あって運転しづらいのよ」
「違和感?」
「まだ何か入ってる感じがするのよっ! こんなこと、いちいち女の子に言わせないでよっ!」
「男には分からない苦しみ、ってか」
 女の子って年でもないだろ、とまではさすがに言えなかったし、酸いも甘いも経験してきたかのような言動は、なりを
潜めていたのがうれしかった。
 俺をおいて大人になっていたと思っていた志保が、結局は俺と同じ土俵に立っていた。
 2人そろって、6年間も回り道をしていたんだな。
 それは、俺を安心させてくれると同時に、志保に対する気持ちを増幅させるのに役立ってくれていた。
「バカ言ってんじゃなっ…あん……」
「今度は何だよ」
「出てきちゃった……」
「何が? って、あっ…」
「……」
「……」
「う〜、うう〜、ううう〜〜、下着が気持ち悪いぃぃぃ…」
 俺の家につくまで、延々と志保はうなっていた。





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