written by ぐうたらトド |
「おっはよー、あかり」出来るだけ、平静を装って中学以来の親友に声をかける。
「あっ、志保」
振り向いたあかりの表情には、普段の明るさが無い。
普段と違うといえば、いつも一緒に登校している筈のあいつが居ないじゃない。「どうしたのあかり? 朝っぱらから暗い顔して似合わないわよ」
「べ、べつにそんな事無いよ」あかりはそう言って否定するけど、朝っぱらからうつむいてトボトボ歩いてるなんて落ち込んでる証拠じゃない
「はは〜ん、わかった今日はヒロが居ないみたいだけどそれが原因ね? どうしたのあんたの旦那様は? 今日はとうとう遅刻なの?」
「ひ、浩之ちゃんは今日は先に学校に行ったみたいなの」何かおかしい、あいつの名前を出した途端にあかりの表情が更に暗くなる。
普段あいつの話をするときの幸せそうな表情ではない。 何時も明るいあかりがこんな表情を するのはまたあの馬鹿が原因に違いない。
昨日までは良い雰囲気だったのに急に落ち込んでるって事は、あいつが昨日何かやらかしたんだろう。「まったあの馬鹿がなにかやらかしたのね。待っててあかり。 あたしが一発ガツンと言ってきてあげるわ」
あたしがそう言うとあかりは困った顔で、
「ひ、浩之ちゃんが悪いんじゃないの。 私が悪かったんだから。 だからお願い志保、浩之ちゃんを責めないで」
あの馬鹿。あかりにこんな顔させるなんて。 本来なら絶対許さない所だけど今回だけはあかりの顔に免じて黙っててあげるわ。
あたしがそう心に決めていると、キーン・コーン・カーン・コーン
「まずい、もう予鈴じゃないの。 あかり急ぐわよ」
「ま、まってよー志保」取りあえず、続きは授業の後ね。
・
昨日あの二人どうしたんだろ?
登校中に見たあかりの表情を思い出しながら、あたしは授業中にボーッとその事ばかりを考えていた。
昨日は確かあかりの奴ヒロんちに夕飯作りに行くって張り切ってたのに。
あかりのあんな顔を見るのは3度目ね。 最初は中学の時、あの馬鹿が何を考えたのかあかりを避けまくった時よね。
結局あの時は、この志保ちゃんの大活躍でなんとか二人の関係は元に戻ったのよねぇ。2回目はあれよね、あかりが矢島に告白された時よね。
告白されるだけだったら何とも無いんだけど、よりによって手引きしたのがあの鈍感馬鹿だったのよねぇ。 ヒロの前では強がったみたいだけど、あの日は『浩之ちゃん、私の気持ちに気付いてくれないのかな』なんて言っちゃって、 慰めるのに苦労したんだから。ここ最近のあたしの苦労も有って、あの二人は最近ちょっと良い感じだったのにねぇ。
こないだなんか風邪を引いて休んだあかりの家に、あいつ一人で行ったみたいなのよね。
普段はぶっきらぼうなくせに変な所で妙に優しい所も有るのよねぇ。 あたしがあかりの家に 行ったら丁度帰った所だったみたいで、あかりの妙に赤い顔が印象に残った。そういえば今年の花見も、体育の後で怪我をしてあいつに運ばれた時もそうだけど、結局あの子の 幸せってあいつと一緒に有るのよねぇ。
あの鈍感ヒロは気付いてないだろうけど、結局あかりが泣くのも笑うのもヒロが原因なのよね。
その事をあかり自身はどう思ってるか知らないけど、あたしはあの子にはいつも笑っていてほしいから・・・ だからあたしはあの子に協力してあげるの。
そう、そう決めたんだから。・
放課後、駅前でぶらぶらしているあいつを見つけた。
あかりにあんな顔させておいて、こんな所でのうのうとしているのを見逃す手は無い。「やっほー、ヒロ」
いつものノリで声をかける。
「オッス」
普段とあんまり変わらない返事が返ってくる。
こいつはあかりが今どんな気持ちでいるのかわかってるんだろうか?「なんだ、志保。用事が無いんなら俺は帰るぜ」
「ま、待ちなさいよ。 ちょっと話が有るんだから付き合いなさい」
「なんだよ、俺は忙しいんだまた今度にしてくれ」そういうと手を振りながらあたしに背を向ける。
「ちょっとあかりの事で話が有るのよ」
あかりの名前に反応してあいつの背中が固まるのがわかる。
一瞬だけ止まった後、「おまえに有っても、俺にはねーよ」
そういって背を向けたまま立ち去ろうとする。
「あんた達に昨日何が有ったか知らないけど、あかりを泣かせるような真似をしたら承知しないからね」
あたしの言葉に少し考えると、
「俺だって別にあいつを泣かしたいわけじゃねーんだ。 ただ今はあいつとの事を考える時間がほしい」
それだけいうと結局あたしの顔をまともに見ようともしないで帰って行く。
「あんたみたいな鈍感馬鹿でも良いって言ってくれるのはあかりくらいなんだから、大切にしないと絶対にバチが当たるわよ」
あたしの言葉が届いたかどうかはもうわからない、ただあたしの気持ちはあかりとあいつが幸せになる事を望んでいる。
だから大丈夫って思いたかった。・
次の日の夕方あたしはまだ落ち込んでいるだろう、あかりの家に直接向かった。
電話で話すより、直接会った方が良いと思ったからだ。「あ、おばさん。 あかりいます?」
「あれ、志保ちゃんじゃないの? ごめんねぇ あかりったらさっき出かけたわよ。 その前に電話してたみたいだけど じゃあ、あれ志保ちゃんじゃなかったのねえ」
「電話って、ひょっとしてヒロからですか?」声が震える、どうして私、こんなに動揺してるんだろ・・・
「違うみたいよ。 浩之ちゃんならさっきあかり探しに来て同じような事言ってたから」
え? ヒロが? じゃあやっぱりちゃんと考えたんだ。
「そうですか。 じゃあ今日は帰ります」
「ごめんなさいねぇ。 あかりが帰ったら伝えておくから」その言葉を最後にあかりの家を後にした。
ふーんヒロ、ちゃんとやってるみたいじゃない。関心関心。
そんな事を考えながらボーッと歩いてると、近くの公園が見えてきた。ちょっと寄って行こうかな。
ひょいと公園を覗くと、中に人影が二つ見えた。
見てると小さい方の影が飛びついて、影は一つに重なる。
こんな所で良くやるわねぇ、なんて思って見てたら、その人影に見覚えが有るのに気がつく。
あれってヒロとあかりじゃん。
へー、どうやら無事に納まる所に納まったみたいねぇ。
なんか夕日の中でしっかりと抱き合う二人を見てたら何故だか涙が出てきた。
二人の邪魔をするのもなんだし、ここは素直に退散するとしましょうか。夕日の中で無くした物を噛み締めながらあたしは決意する。
「よーし。 あたしも頑張って新しい恋を見つけるぞ!」
後書き
先に断っておきますがもし、多少でも似たようなお話が有りましたらごめんなさい。
取りあえずあかりシナリオの時に志保ってどう考えてたんだろうってのがあってそれを膨らませたら こんな話になりました。
こういう話に挑戦するのは始めてなんで読みにくい所とか分かり難い所も有るでしょうがご容赦を。
志保って結構良い子だと思うんですが中々主人公とラブラブってのが想像できなかったもんで。
って時間が無いのでこのあたりで止めさせて頂きます。