お題 “志保”
Sidestory of "To Heart"
 

「しほぱわー」


Written by いたちん


  朝、学校に来て自分の席につく。
 いつもと同じように……
「やっほー」
 うるさい奴がやってくる。
 いつもと同じように……
 いいかげんにして欲しいところだ。
「で、今日はどんなガセネタなんだ?」
 やってきたそいつに嫌々ながら聞いてみる。
 別に楽しみにしてる訳ではない……絶対に。
 もう、逃げられない運命だからだ。
 ならば、手早く済ましてしまうのが得策だ。
「ちょっと、ガセとは人聞きが悪いわね」
 結局、いつものように無駄なやり取りになってしまう。
 こいつの名前は姫川志保。
 中学に入った時からの腐れ縁だ。
 決して親友も恋人でもない。
 特徴……志保ちゃんニュースとか言ってガセネタを多く持ってくる。
 実際、信憑性は半々といったところだが十分に低い。
「それで、今日のネタは?」
 話を進めるために『ガセ』を取ってもう一度聞く。
「それがねーー、出るのよ」
「は?」
「夜の校舎に出るのよ」
 なんだ。
 どこにでもある、典型的な話じゃないか。
「ヒロ。今、幽霊の話かと思ったでしょ」
「ああ、違うのか?」
「違うわよ、女の子なのよ」
 幽霊以上に普通だな。
 まぁ、夜というのはあれだが……
「それが、剣をもってるんだって。噂によると魔物と戦っているとか……」
 魔物……?
 いいかげんな事を……
 でも、魔物がいたっておかしくないよな。
 幽霊がいるなら。
「それで?」
「それで、って驚かないの?」
「あまりな」
 どうせ、モップをもったマルチってのがオチだろう。
 夜にマルチがいるかどうかはともかく。
「それじゃ……」
 志保は俺のリアクションが不満で、次のネタに入ろうとしている。
「おい、そろそろ先生がくるぞ。教室に戻った方がいいだろう」
「あ、えーっと……大丈夫。実は先生は車で事故に遭って入院してるのよ」
 うそつけ。
 さっきの『えーっと』はなんなんだ。
 それに、それが本当ならさっきの話を真っ先に出してこないだろう。
 このネタを教室、いや学年中に広めているはずだ。
 でもこいつが、そういうネタを出すと……
 その時、急ブレーキの音が響いた。
 慌てて窓の外を見る。
 見た瞬間……一台の車が校門の門柱に激突した。
 そして派手に炎上した。
 もう、大パニックである。
「志保……」
「あはは。私は無関係だし〜」
 志保はあさっての方向を見てとぼけている。
 姫川志保には特別な力があった。
 ……超能力……
 自分で思い付いたガセネタを現実のものとしてしまう能力……
 迷惑この上ない。
 被害者は数え切れない。
 そして、今。
 また新たな、最大級の被害者が生まれた。


 めもめも……
 あかりが何かをノートに書いていた。
 いや、何かは分かっている。
 いつものアレだ。
 志保の『能力』による被害者リストである。
 そのノートを覗き込む。
 最初のページに被害者の名前が書いてあり、その横に『正』の字が並ぶ。
 ちなみに俺の名前の横の『正』はすでに11個目に入っていた。
「浩之ちゃん。さっきの先生ので延べ100人目だよ」
「今回はすごかったな」
 記念というわけではあるまいに……
 命には別状無い事を祈ろう。


「でもさ……」
 昼飯を食べている時に雅史が話し掛けてきた。
 今、俺達は屋上にいる。
 俺と雅史とあかりと志保。
 めったに無い事だが、あかりが4人分弁当を作ってきた時にこうなる。
「なんだ? 雅史」
 口の中のものを飲み込んでから聞き返す。
「今朝のあの事故って本当に志保の力かな?」
「きまってるだろ」
「あら。雅史は分かってくれてたのね。私の冤罪に」
 なにが冤罪だ。
「だって、志保は先生が遅れてたのは知らなかったんだし」
 今分かっているところで、先生はどうやら寝坊かなにかで遅れてきたそうだ。
 それで慌てていたために運転をミスったという話になっている。
 なんとなく、雅史の言いたい事が分かった。
「先生が遅れてたのは、志保がガセネタを思い付く前だった……という事か」
 というか、なぜ数年もこんな事を考えなかったんだろう。
「つまり、どういう事?」
 雅史に志保が聞いた。
 雅史がちょっと自信なさそうに答える。
「ひょっとしたら、予知能力じゃないかな……って」
「あかり、ノート」
「はい、浩之ちゃん」
 すっと差し出すあかり。
 ひょっとして……持ち歩いてるのか?
 気になったが、後回しにして俺はノートをめくった。
 俺はそこに書かれている、被害状況を改めて見ていく。
 予知能力で説明ができるかどうか……
 出来ないのがどれぐらいあるのか……
「志保ちゃんの力は予知能力だったのね〜」
 ふむふむ。
「誰にも迷惑かけてなかったわけだし〜」
 これはよし……
「志保ちゃんのジャーナリスト魂が事件を未然に察知してたのね〜」
 うるさい。
 志保は勝手に納得していた。
 結局、いくつか反論してみたものの……浮かれた志保には通用しなかった。


 その後……志保は変わった。
 いや、エスカレートしていった。
 思い付いたガセネタが『予知』かもしれないと考えるようになり、結果……デマ発生率が大幅上昇。
 しかも俺達にしてみれば、予知かもしれない、あるいは志保の力で無理矢理本当の事にされるかもしれないという恐怖。
 もう、どうにも手がつけられなくなってしまった。




 授業が終わって、俺は学校を出た。
「ヒロ〜」
 ちょうど黒焦げの校門を出たところで志保に捕まった。
「ヤック寄ってかない?」
「わりぃ。今日は用があるからパス」
 志保が何かに気づいたように変な笑いを浮かべた。
 嫌な予感がする。
「ひょっとして、デートね」
「そんなところか」
 普通のデートとはちょっと……かなり違うが。
 さっさと別れるとしよう。
「気を付けた方がいいわよ〜。今日ヒロふられるかもしれないしぃ〜」
「おい、それ予知か?」
「さぁねー」
 嬉しそうに志保はどこかへ行ってしまった。
 ……なんだか、気味が悪い。


 俺は、河原にやってきた。
 やる事はいつもと同じ。
 綾香と勝負である。
 セリオの掛け声で戦いが始まる。
 ジャブで牽制を繰り返した後、わずかな隙を見つけて右ストレート!
 しかし、綾香はそれを難なくかわすと体を低くして俺につかみかかった。
「うわっ」
 そのままタックルのような形で倒される。
 見上げると綾香は笑っていた。
「浩之。覚悟はいい?」
 そのまま俺の足を掴んで……
 ジャイアントスイングで振り回された。
 ……これが……予知か……









あとがき〜


ふう。
無理矢理ネタを絞り出しました。
相当消化不良の気がします。

今回、お題が『長岡志保』ではなく、『志保』だったところから思い付きました。
なんでフルネームじゃなかったんでしょうね。
あと、最後の綾香部分(おまけ的につけた)でPS版推奨を満たしています(笑)



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