第十六回お題 “寒”
 

「夢大陸サバイバル」


Written by いたちん






「けんたろ〜」
 スフィーの声が聞こえた。
 今、俺は布団の中。
 朝なので、起こしに来てくれたのだ。
 俺を襲う、眩しい光。
 そして、冷たい風。
 スフィーが窓を開けたのだと、そう思った。
 しかしその寒さは半端ではなかった。
 反射的に布団をカメのように背負って顔だけ出す。
 そこにスフィーの姿はなく……
 それどころか自分の部屋でもない。
 見渡す限りの白と、数匹のペンギンだった。
 ……
 ど、どこだここはー



 周囲には人はいない。
 いるのは俺(とペンギン)だけ。
 そして、俺の布団だけである。
 めちゃくちゃ寒いので頭から布団をかぶった。
 でも、寒いことにはかわりがなかった。
 状況を分析するに……ここは南極のようだ。
 いきなり南極に移動するなんてことは、ある訳が……
 いや、多分魔法かなにかだろうな。
 魔法の法則がどうなっているかは分からないので可能かどうかの判断はつかない。
 それより、このままでは確実に凍死する。
 助けは……スフィー以外は望めないだろう。
 待つしか手がなかった。
「スフィー……早く来てくれ……」
「来たよ。けんたろ」
 つぶやきにすぐに返事があった。
 顔を布団から出すと、そこにスフィーがいた。
「た、たすかった」


「それで、これはスフィーの魔法か?」
「ううん。多分、リアンの絵だよ」
 あ、あれか。
 昨日、リアンが描いた絵を1枚もらった。
 あわよくば売ってやろうかとも思っていたが、骨董的価値があるわけがなかった。
 とにかく、その絵の内容が、あのペンギンだったのだ。
 リアンがこっちに来たとき、連れてきたペンギンだ。
「んーとね。あの絵に、故郷に帰りたいっていうペンギンの思念が乗り移ったみたい」
「それで、こんな力が出るのか……」
 スフィーは首を振った。
 そして、ちょっと遠慮気味に言った。
「あたしがね、けんたろを起こすためにまじかるさんだー使おうとしたら、その魔力を利
用されちゃったみたい」
「おい……スフィー。なんて起こし方をしようとしたんだ」
「でも、被害無かったからいいじゃない」
「これは十分に被害だ」
 周囲を見回す。
 吹雪になっていた。
 スフィーの魔法のおかげで俺たちの周囲は大丈夫だが。
「とにかく、帰ろう」
 スフィーが俺の手をつかんだ。
 これから瞬間移動かなにかするのかな、と思った。
 しかし、スフィーはそのまま唸りはじめた。
「うーん」
「スフィー、どうしたんだ」
 心の中の嫌な予感を押し払いつつ聞いてみた。
「ここに来るのに、魔力使いすぎたみたい」
 ……そういえば、スフィーの来ている服が少しだぶだぶしていた。
 それに、昨日も大きな魔法を使っていた事を思い出す。
「俺たち、どうなるんだ?」
 このままここで凍死して氷付けになって、数十年後にでも発見されるのだろうか。
「えっと。移動は無理だけど、リアンに魔法で連絡して助けに来てもらうから」
 スフィーはのんびりと構えていた。
 凍死への危機感は感じられなかった。
 そうか。
「リアンは魔力の無駄遣いしてないから大丈夫だな」
「けんたろ。それじゃあたしが無駄遣いしてるって言ってるの?」
「ああ。魔力も金もな」
「お金は絶対に違うよ」
「毎度食いきれないか気分が悪くなるほどのホットケーキは金の無駄だ」
 結花にまけてもらっているがそれでも苦しい。
 と、その時、急に寒くなった。
 今まで俺の手前で止められていた風が体をうつ。
「おい、スフィー。悪かった。だから魔法を手抜かないでくれ」
「うー。魔力品切れ」
 周りの冷たさに負けない冷や汗が流れた気がした。
 再び俺の頭を駆けめぐる、遭難と凍死の言葉。
 寒さをしのごうと布団にもぐる。
 スフィーも一緒に入ってきた。
 さすがにこの場では追い返せない。
 そのまま、リアンを待った。



「うー。けんたろ、あたしもうだめ……」
「おい、スフィー。寝るな、寝たら死ぬぞ」
 俺もいっしょに。
 かろうじてスフィーの魔法で最低限の温度が保たれているのに。
 必死でスフィーの体を揺する。
 しかし、俺の頑張りむなしくスフィーの目が閉じられ……
 一気に冷気が襲ってきた。
 急激な気温の変化は最初から外にいるよりもつらい。
「うう……」
 やがて、俺も意識が途切れてゆく。
 そして最後の瞬間……ようやく……
「姉さんーー」
 という、リアンの声が聞こえた。
 幻聴でなければ……







おまけ

「けんたろ、あそこに入ろう」
 布団で寒さをしのいでいる時、スフィーがなにかを見つけた。
 その視線の先には……
 氷の大地に割れ目が入り、穴が空いていた。
「あの中に入ったら即死のような気がする」
 しかし、スフィーはもぞもぞと器用に布団と一緒に這ってゆく。
 俺が同じ布団の中にいるのに、それすら意に介さず。
 こ、これも魔法か?
 だったら、魔力の無駄遣いだ。
 しかし、俺の制止もきかず……スフィーは進む。
 俺たちはその割れ目に落ちていった。



 しかし、そこで待っていたの死ではなく……

「いらっしゃいませ」

 なぜか、お店とスロットマシンだった。






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