written by NETTLE |
「あ、来栖川先輩こんちは。え、手伝って欲しいことがあるから部室に来て欲しい? いいすよ。」 秋も深まったある日の放課後。 オカルト研の部室で待っていたのはもう一人のお嬢様だった。 「たしかあんたは・・・・綾香さんだったよな。」 「おひさしぶりね。藤田クン。まあとりあえずそこら辺に座ってくれるかしら。」 芹香が入れてくれたお茶を飲みながらの雑談も一段落着いたところで綾香が切り出した。 「じつはね。頼みたいことがあるんだけど」 そのとき浩之はちょっといやな予感がした。 「ユーレイ退治をやって欲しいのよ」 「おいおい、俺は霊媒師じゃないぞ。」 飲んでいたお茶を吹き出しそうになりながら浩之があわてる。 「別に君が退治する訳じゃないのよ。それは姉さんの仕事ね。君には姉さんの護衛を お願いしたいのよ。」 「俺よりもあんたの方が確実だと思うけど。」 「か弱い女の子にそんなまねができると思う?」 芹香と浩之の目はそれぞれ「うそつくな」といっていたが、綾香は気づかなかったふ りをして浩之の耳元でささやいた。 「報酬出るわよ」 一瞬、彼の頭の中に今月の残金が出る。 (この前CD買っちゃったしなぁ、厳しいんだよなぁ) そこに追い打ちをかける綾香。 「それにこれは株を上げるチャンスじゃないの?」 ・・・・それはそうかもしれない 「藤田クン、引き受けてくれるよネ?」 「・・・・よし、わかった!先輩は俺が守る!」 打算に満ちた決断を浩之は下した。 「・・・・・」 「単純ね・・・・」 来栖川姉妹は浩之を見ながら確かにそうつぶやいた。 「でけえお屋敷だなぁ・・・」 浩之は連れてこられた家を見て素直に驚いた。 彼らが連れてこられたのは旗山重工の会長、旗山功の屋敷だった。 「こんなにでかけりゃユーレイがいてもおかしくはないよなぁ」 「・・・・」 「ユーレイが出るのに家の大きさは関係ない?そんなもんなのかな?」 「そんなもんです」と芹香が答えると浩之も「そうかぁ」と納得してしまう。 「そういえばセバスチャンはどうしたんだ?俺よりもセバスチャンの方が役に立つだろ?」 当たり前と言えば当たり前の疑問が浮かんだ。 そういえばこの車の運転手も綾香の執事である。 「・・・・・」 「え?セバスチャンはユーレイが嫌い?そうなのか? そういえばセバスチャンが 先輩の部室に来たこと無いもんなぁ。」 浩之がへっへっへとほくそ笑む 「セバスチャンの弱みを握った・・って、え?セバスチャンをいじめてはいけません? 誰でも苦手なものはある?」 かすかに先輩の目に非難の色が写る。 「そうだよな。わかったよ。そんなことしないよ。」 そんなやり取りをしているうちに車が玄関前に着けられた。 マルチタイプのメイドロボが二人を出迎えた。 「有美様がこちらでお待ちです。」 二人が通された部屋は庭に建てられた離れにある一室だった。 離れといっても浩之の家と同じくらいの大きさはある。 つくづくあるところには金があるもんだ、そんなことを考えていると有美がやってきた。 「初めまして、畑山有美です。こんなお願いしてすみません。」 有美が頭を下げると浩之と芹香もつられて頭を下げてしまう 「あ、いえこちらこそ」 「えっと、そちらが芹香さんですよね。それで・・・えっとあなたは?」 「あ、初めまして藤田浩之です。」 「藤田さんですね。どうもはじめまして」 一通りの自己紹介が終わると話は本題に入り始めた。 「・・・・」 「はい、私が何度かユーレイを見ました。」 有美の話を要約すると、幽霊を見始めたのは今から三ヶ月ほど前であった。 それから深夜に家の中をうろついているのを何度か見かけた。 そのころから誰かに見られているような気がすると言うことだった。 「・・・・」 「誰かに見られているって、不審者が進入しているということはないんですか?」 「私も初めはそう思っていたんですけど、このお屋敷に不審者がいる様子はないんです。」 「・・・・・」 「おねがいします。引き受けていただけますか?」 芹香が浩之の方を見る 「どうしますか?俺は先輩の判断についていくよ。」 「・・・・」 「ありがとうございます。」 有美が頭を下げて礼を述べる。 「これから義母に会ってくださいませんか?母屋の方にいますので・・・」 「そうだね。会ってみてもいいと思うな。先輩はどう思う?」 こくん 「そうですか。それではご案内しますわ」 案内された母屋は文字通りお屋敷だった。 悠然と進む芹香に対して浩之は驚きっぱなしだった。 (やっぱ先輩ってお嬢様だよな) こういう場所での振る舞いの一つ一つが絵になる。 先輩が「お嬢様」だということを改めて認識するのだった。 二人が通されたのは19世紀の英国風に統一された応接間だった。 「すげぇ・・・・」 浩之の口からそんな感嘆の言葉しか出てこなかった。 しばらく待たされている間、浩之はずーっときょろきょろしっぱなしだった 「ごめんなさい、お待たせしてしまったようですね。はじめまして、旗山恵子です。 芹香さんとはお爺様と一緒で何度かお会いしたことがございましたね。お爺様は お元気ですか?」 「・・・・」 「そうですか。御健壮でなによりですわ。」 こんこん 「しつれいします。有美様お電話が入っておりますがいかがなさいますか?」 「そう?ちょっと失礼します。」 そういうと有美は部屋から出ていってしまった。 「あの娘はとてもいい娘なんですけど、結婚してもう三年。 早く孫の顔が見たいものですわ。」 有美の出ていった扉を見ながらため息混じりにつぶやいた。 浩之はその顔にかすかな不安を覚えた。 「あら、ごめんなさい。変なことを聞かせちゃったわね ところで、その幽霊退治はどのくらいかかりますの?」 「そうだぜ先輩、学校もあるし・・・・え?この土日で片が付くと思う?」 「あらそうなんですか?それはよかった。」 「・・・・・」 「今夜はこちらで?・・・わかりました。皆に伝えておきますわ。」 そうしているうちに有美が戻ってきた。 「お話の方はまとまったようですね。じゃあ、お二人の部屋の方へ案内させていただき ますわ」 「じゃあお願いしますね。有美さん」 芹香と浩之は、有美に部屋の方へ案内された。 「あの、一つの部屋でいいですか?もう一つの客間は今使えないんですよ。」 「ちょ、ちょっと待ってくれ。そりゃまずいよ。」 「・・・・・」 「私は気にしません?そりゃ嬉しいけど・・・・え?勘違いされてますって? 今夜は徹夜で幽霊を見つけだすから寝てる暇なんか無い?」 浩之がちょっと残念そうな顔をすると先輩が頭を撫でてくれる。 「うーん」 落ち着きましたか?と芹香が問いかける。 「ああ、もう大丈夫っす」 「そうなんですか?じゃあ、そうしておきますので。」 こくん 「何かあったらそこのインターホンで連絡してくださいね」 そういうと有美は自分の部屋へと帰ってしまった。 時は移り午前1時。 「・・・・」 それまで雑談で暇をつぶしていた二人だったが、妙な気配で振り返った。 「先輩・・・」 「・・・・・」 懐から二枚のお札を出すと一枚を浩之に渡した。 「これを身につけていれば大丈夫だって?ありがとう。」 二人は部屋から出ると妙な気配を追っかけていった。 「ここはゆみさんの部屋だよな」 「・・・・」 「ここから気配がするって?じゃ、そっと入ってみよう」 静かにドアを開けるとベッドで寝ている有美にの上に白い影があった。 白い影にのしかかられて有美はうなされている。 「・・・・・」 「ああ、俺にも見えるよ。あれが幽霊?」 ふるふると首を振る。 「あれは幽霊じゃない?悪魔みたいなもの?それもっとやばいじゃないか」 あわてる浩之に対して芹香は落ち着いていた。 「・・・・・・」 「大丈夫?何か原因があるからそれを断てば大丈夫?じゃあそうしよう。」 二人は一度廊下に出た。 「・・・・・」 「念糸を見えるようにする?」 浩之にはよく理解できなかった芹香を信頼することにした。 芹香は呪文を唱え始めた。 「・・・・ぁ・・・・・っぇ・・・・つぃ・・・」 小さな声で呪文を唱える芹香。 すぐに効果が現れ、部屋から白い糸がすぅっとでていく。 「・・・・・これを追いかけていけばいいんだね。」 こくん 「よし、いこう」 「ここは?」 二人は母屋の中に入り二階へと足を進めた。 その中の一室に糸は続いていた。 「ここか・・・」 途中であったメイドロボの話ではここの階には恵子さんと彼女の旦那さんの功氏しか いないという。 「入ってみよう・・・」 浩之がそっとドアを開けると応接室とにたような色調を持つ部屋が現れた。 そして寝ていたのは恵子さんだった。 二人がすっと近づいても彼女は目を覚ます気配を見せない。 「え、悪魔に魂を抜かれている?それってすごくまずいんじゃないの?」 こくん 「先輩なんとかならない?え、だめです?エクソシズムは専門じゃないからできない?」 「・・・・」 「別に責めてるわけじゃないけど、じゃあこの人はこのままなの?」 ふるふる 「大丈夫なんだ。え、でも危ない状態なのには変わりません?」 「・・・・・」 「うーん、とりあえず明日の朝に考えようや。」 二人は意外とあっさり片づいた結末に多少拍子抜けしながらも自分たちの部屋に戻った。 「・・・・ということです。」 恵子夫人は結果を知ると見る見る顔が青ざめていった。 「・・・・やはりそうでしたか・・・ 実は私自身心当たりがあるのですよ。 半年前にイギリスで買った宝石が曰く付きの品だったんですよ。 そんなの迷信だと思っていたんですけど・・・・・」 (そんなもん買うなよ) 浩之はそう思っても口には出さない。それは (先輩もあればきっと買っちゃうんだろうな) などと考えていたからである。 「でも、何でその悪魔は私を襲ったんだろう?」 有美の何気ない質問に恵子はさらに顔を青ざめていった。 「・・・・それは私があなたを憎んでいるからよ。」 浩之は夫人の告白に納得するものがあった 『あの娘はとてもいい娘なんですけど、結婚してもう三年。早く孫の顔が見たいもので すわ。』 このとき、浩之が感じていたものと一緒だった。 「有美さん、あなたが寛さんと結婚するのに私は反対だったんですよ。だってあの子に は立派な許嫁がいたんですもの。でも寛さんはそれを振りきってあなたと結婚してしまっ た。私と違って!自分の好きな娘と結婚してしまったんですもの。」 そこまで言うと夫人は泣き始めてしまった。 「私は憎かった。私の言うことを聞かずに結婚してしまった寛が。そしてあの子を奪っ ていった貴女が。こんなこと考えているから悪魔につけ込まれるのよね。」 ここまで喋ってしまうと再び泣きはじめた。 すると芹香が夫人の頭を撫で始めた。 「!?・・・・」 なでなで 「・・・・・・」 なでなで 「優しいのね、芹香さんは」 夫人はまた涙をこぼした。 「私もお義母様がそんなに苦しんでいられたとは存じませんでした。 でもこれからでも遅くはないですよ。一緒にがんばっていきましょう」 (なんかすごく疲れる茶番につきあった気がする) 浩之が芹香の方を向くと彼女も少し眠そうな顔をしていた。 あれから数日後、浩之は学校裏の神社にいた。 「あれ?葵は一緒じゃないの?」 いつの間にか綾香が後ろに立っていた。 「葵ちゃんは今日は来ないよ。」 浩之は神社の欄干に肘をつきながら、気のない返事する。 「なんかあったの?」 「ちょっとな」 「ふーん」 綾香が欄干に腰掛けると、この間の幽霊騒動のことを聞いてきた。 「別にどうと言うことはないさ。金持ちの道楽につき合わされたような気がするだけさ」 「悪かったわね、妙なこと頼んじゃって」 「別に」 「・・・・なに考えてるのか当ててあげようか?」 綾香が浩之の前に回り込む 「・・・・」 「姉さんとこのままで良いのかなって考えてるでしょう」 「おー当たりだ。賞品ははなにも出ないけどな。」 浩之は動じることもなく受け流す。 「そうよねーあの旗山さんって割と成金趣味なのよ。昔からの家なのにね。」 「ほー」 「あんたのことだからあの家を見て「こんなのについてけねーぞ」とでも思うと、思っ てたんだけど」 浩之はニヤリと笑うと「そいつははずれだ」とだけ言った。 「ふーん、じゃあなにが問題なの?」 「先輩を嫁に貰うときはなにが障害になるかなーって思って」 「そうねぇたぶん来栖川全部を敵に回すことになるわね。でも婿に来る分には障害は 長瀬だけよ。うちの両親って割と物わかりが良いのよ。」 浩之は綾香を見ながら、今まで不安がっていた自分が馬鹿らしくなった。 (今考えたってしょうがないことはしょうがないしね) 「そうそう、この間の報酬なんだけどヤックをおごるってことで良い? 今月さ、 ちょっと厳しいんだよ」 浩之は笑いながら「別に」とだけ言った。 「坂の下で先輩が待ってるんだろ?行こうぜ?」 「あれ?私そんなこと言ったっけ?」 浩之はニヤリと笑うと 「何となくな」 呟くと先輩のもとに向かって歩き始めた。
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