(Leaf Visual Novel Series vol.3) "To Heart" Another Side Story

for 「本日のお題」

 

お嬢様の夜宴

Episode:来栖川 芹香

 

Original Works "To Heart"  Copyright (C) 1997 Leaf/Aqua co. all rights reserved

written by レイ


 …………ピンポーン

 ある日の夜、TVも見飽きた俺がそろそろ寝ようかと思っていると、突然に
 玄関のチャイムが鳴ったのだった。

 「お〜い、セリオ〜……って、そうか、2人は研究所だっけ…………」

 そう、今日は2人で揃って点検の為に、研究所の方に戻っているのだった。
 家にセリオとマルチがいる生活にすっかり馴れてしまっていた俺は、今日の
 昼に2人を研究所に送っていった事も忘れて、声をかけてしまっていたのだ。

 そんな自分の間抜けさにちょっと苦笑しながら、俺は玄関へ行くと、ドアを
 開いたのだった。

 ………がちゃ

 「ハーイ! 浩之さぁ〜ん、まだ起きてたぁ〜?」

 ドアを開けた俺の目に飛び込んできたのは、軽くウェーブのかかった艶やか
 な長い黒髪の女性だった。俺は、せり…と言いかけて、その挨拶のノリに、

 「………………あ、綾香か?」

 妹の方の綾香が訊ねてきたのかと思ってしまい、そう言ったのだったが、

 「んもぉ〜、失礼しちゃうわねぇ〜、わ、た、し、よ。 せ・り・か☆」

 と、いつもの芹香さんからは想像もつかないしゃべり方で、自分は芹香だと
 言うのだった。

 「ゴメン、浩之。私が変なこと言っちゃったから……………」

 すると、それを肯定するかの如く、申し訳なさそうな顔をした綾香が、芹香
 さんの後ろから現れたのだった。
 俺は「きゃはは」と笑う芹香さんと、逆にしょんぼりしている綾香を交互に
 見つめると、

 「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 と、夜遅くだと言うことも忘れて、叫び声を上げてしまっていたのだった…。

  ・
  ・
  ・

 「じゃ、かんぱぁ〜い!」
 「か、かんぱーい」

 俺と綾香はちょっとひきつった表情のまま、手に持ったグラスで乾杯した。
 そう、なんと芹香さんは俺の家に宴会をしに来たのだった。今の芹香さんに
 逆らうと恐そうなので、俺も綾香もおとなしく宴会に参加しているのだ。

 ……………ぐびぐびぐび

 冷蔵庫にあったビールと、ちゃっかり持参してきたおつまみの類をリビング
 のテーブルの上に並べた芹香さんは、さっそく手にした缶ビールを、一気に
 飲み干してしまっていた。

 「せ、芹香さ〜ん、そんなに急に飲んだら危険だって」
 「だぁ〜いじょぶ、大丈夫〜。ワタシね、けっこう強いのよ〜」

 そう言いながら、「イカくん」をくわえた芹香さんは、次の缶ビールに手を
 伸ばすのだった。何を言っても無駄と感じた俺は、隣で心配そうに芹香さん
 の様子を見ている綾香に声をかけた。

 「な、なあ。一体ナニがあったんだよ?」
 「そ、それがね……………」

 綾香はヒソヒソ声で、この芹香さんの変わりようについて説明してくれた。

 事の発端は、なにげに綾香が「姉さん、もう少し積極的に行動したら〜?」
 と言った事らしい。それを聞いた芹香さんが、「それならちょうど良い物が
 あります…」と、綾香に待っているように言って調理場へと行ったらしい。
 しばらくすると、トレーを持ったシェフと共に現れたかと思うと、綾香の前
 に湯気の上がった一つの皿が置かれたのだった。なんでも、知り合いの女性
 が教えてくれたいう、とても元気になる料理との事だった。

 さっそく一緒にいた執事の長瀬も加えて、3人で食べましょうと言うことに
 なったのだが、フォークで料理をつついた綾香は、その中に怪しげなキノコ
 が入っているのに気づき「コレはナニ?」と聞こうとしたが、時すでに遅く、
 残さず綺麗に食べてしまった芹香さんは、すっかり今の状態になってしまっ
 ていたのだそうだ。

 「な、なんなんだよ、そのキノコ料理って?」

 俺が、呆れながら聞くと、

 「せ、性格が反転してしまうキノコだって、キノコ図鑑に載ってたわ………。
  一応、数時間で元に戻るって…………」

 と、綾香は溜息をつきながら答えるのだった。なるほど…と俺が納得して、
 芹香さんの方に向きなおると、芹香さんは嬉しそうに俺の空になったコップ
 にビールを注ぎながら

 「あはははは〜〜〜。浩之さ〜ん、飲んでるぅ〜?」

 と、既にすっかり出来上がってしまっていたのだった………。

  ・
  ・
  ・

 「それでね、浩之さん。ちょっと聞きたいんだけど…………」

 なんだかんだでテーブルの上のビールも8割方片付いてきた頃、芹香さんが
 突然じっと俺を見つめると、質問してきたのだ。

 「ズバリ! 私と綾香、どっちが好き?」

 突然真顔になった芹香さんから浴びせられた質問に、俺は思わず口にしてい
 たチーズの欠片をブッと吹き出してしまう。

 「そうよそうよ〜。私もこんなに誘ってるのにぃ〜〜、ちっとも振り向いて
  くれないんだもん〜〜〜〜」

 なんて言いながら、綾香は手にしたグラスを一気に空ける。そして、空いた
 グラスに芹香さんが嬉しそうに、新しいビールをコポコポと注いでいる。

 「あ、綾香、お前酔っぱらってるだろ?」

 「わたしは、れんれん酔ってなんかいないわよぉ〜〜〜」

 しっかり芹香さんに飲まされてしまった綾香は、真っ赤な顔でそう言うのだ
 ったが、どう見ても酔っぱらって呂律が回ってないようだ。
 そんな2人の酔っぱらい…いや、一人はキノコ中毒の人に、どうやって答え
 ようかと悩んでいると、

 「それとも……そう、きっと他に好きな子がいるのね…………およよよよ」

 と、芹香さんは泣いたフリまで始めてしまうのだった。

 2人がこんな状態とは言え、下手なことを言うと2人の気持ちを踏みにじる
 事になってしまうだろう……。俺は俯きながら必死に考えた末に、

 「お、俺は…………………って、あれれ?」

 と、顔を上げて話し出そうとすると、既に2人は俺の言葉を最後まで聞く事
 なく、夢の世界に旅立ってしまっていたのだった。

 やれやれ…と俺は溜息をつくと、綾香が「どっちなのよぉ…」と寝言にまで
 言っているのを見て、ちょっと苦笑するのだった。
 俺は、どっこいしょ…と立ち上がると、起こしてしまわないように気をつけ
 ながら、2人を俺のベットへと運ぶのだった。

 そして、布団をかけながら2人の頬に軽くキスをすると、

 「おやすみ……2人とも………俺の大切な人だよ…………………」

 と言うと、自分は居間のソファで寝るために、そっと部屋のドアを閉じたの
 だった…。

  ・
  ・
  ・

 ………ちゅんちゅんちゅん

 「ほらっ、浩之、朝よ〜っ! 起きなさぁ〜い!!」

 突然、そんな大きな声が聞こえたかと思うと、俺は掛けていた布団を一気に
 ひっぺがされたのだった。

 「あ、ああ………おはよう…………ふぁぁぁ〜〜」

 やはり、馴れないソファで寝たせいだろうか、いつも良くない寝起き寝起き
 が、さらに悪いようだ。そんな俺の様子をみて、綾香はクスッと笑うと、

 「もぅ、顔を洗ってしゃっきりしてきなさいよ。もう朝御飯の用意、出来て
  いるわよ?」

 と、笑いながら言うのだった。そう言われて、俺は味噌汁のいい匂いがして
 いるのに気づいた。多分、2人で作ってくれたんだろう、馴れない事をした
 せいか、芹香さんの手に絆創膏が貼られているのを見つけてしまったのだ。

 「あ、ああ………。ところで芹香さん、大丈夫?」

 俺はそんな2人の心遣いに感謝しながらソファから起きあがると、芹香さん
 に体調は大丈夫かと聞くのだった。
 俺と綾香はそれほど飲んだ訳でもなかったので、ほとんど二日酔いにはなら
 ずに済んでいたのだったが、芹香さんはビールとは言え、かなりの量を飲ん
 だはずなのだ。

 「…………」
 「え、大丈夫です……? そ、そうか、よかったよかった。急にあんな風に
  ぐびぐび飲むもんだから、心配したんだぜ?」

 芹香さんは、俺がそう言うと、キョトンとした顔で聞き返してきた。

 「……………」
 「え? 昨日、私が何かしたんでしょうか…だって? 全く覚えてないの?」

 芹香さんは「こくり…」と頷くと、不思議そうな顔をしているのだった。

 『どう言うことだよ、綾香?』
 『…どうも、キノコで性格反転していた間の記憶は、きれいさっぱり消えて
  いるみたいなのよ……。で、その副作用か知らないけど、お酒も全然平気
  みたいね。ま、あんな記憶が残っていたら、姉さんショックで倒れちゃう
  だろうから、ちょうどいいんじゃない?』

 俺と綾香がひそひそ声で話していると、「どうしましたか」と、芹香さんが
 心配そうな顔で訊ねてくる。俺は、慌てて「な、何でもないよ!」と言うと、
 「ははは……」とぎこちない笑いを浮かべるのだった。

 「…………じゃ、朝メシ食べよーぜ」

 気を取りなおした俺がそう言うと、2人は嬉しそうに頷いて、俺の手を引っ
 張りながら食卓へと向かうのだった………。

                             −おしまい−









後書き

 こんにちは。レイです。

 今回のお題「芹香さん」ですが、全然芹香さんじゃないですね(笑)

 実は降霊会ネタで書きかけていたんですが、オールキャストになった時点で、
 締め切りに間に合わないと判断して、急遽ネタの変更と相成りました(^^;

 芹香さんの性格が、どことなく某キャロットのおねえさんに似ているのは、
 わざとです(爆) アレが、今回の思いつきの原点でしたから(^^;

 間に合わなかった降霊会ネタSSは、自分のHPにでも貼ることにします(笑)

 それでは、また。

                      レイ rei@pa2.so-net.ne.jp



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