(Leaf Visual Novel Series vol.2) "痕" Another Side Story

for 「本日のお題」

初雪の夜

Episode:柏木 初音

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written by NETTLE


 
「さむいよぉ・・・」
 初音はとぼとぼと廊下を歩いていた。
 夕べは千鶴が買ってきたお饅頭が美味しくて、ついついお茶を飲み過ぎてしまった。
 それが今になって仇となり、トイレに行きたくなってしまった。
 初冬の夜はとても寒い。
 一応、半纏を羽織ってはいるが、そのかいもなく肩が震えてしまう。
 そして何よりも足下が冷たい。
(早く用を済まして寝よう・・・)
 うずくような尿意に耐えながらトイレへと急いだ。
・
・
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 用を済ました帰り、妙な静けさが気になった初音は縁側に出てみた。
「あっ!」
 窓の外は雪が降っていた。 
 今年の初雪。
 初めは舞うように、そして徐々に数が増えてくる。
 その幻想的な風景に見入ってしまう初音。
「どうしたの初音?」
 突然に後ろから声がかけられ振り向くと、後ろに楓が立っていた。
 楓も夕べお茶を飲み過ぎて、眠れなくなってしまい起きていたのだった。
「あっ、楓お姉ちゃん。ほら、雪」
「・・・・」
 楓も初音の隣に来て降りゆく雪を眺める。
 初音はそっと引き戸を開ける。
 冷たい空気が二人を撫でる。思わず武者震いをする二人。
 しんしんと降り積もる雪。
 庭が少しづつ白く染まってゆく。
 空は淡く輝き、辺りは物音一つ聞こえてこない。
 かすかに匂う雪の香りに、魅せられる二人。
 楓がそっと外に手を出す。
 手のひらに一片の雪が乗る。
 そして瞬く間に溶けてしまう。
 雪は一瞬の儚い夢。
 初音の脳裏にそんな言葉が浮かぶ。
 ふと顔を上げると庭はすっかり雪で化粧されていた。
 松に白い帽子がかぶせられ、椿に白い衣が着せられる。
 そして玉砂利は純白の絨毯に変わっていた。
「きれい・・・・」
「うん・・・・」
 白い妖精達の静かな舞台も終演に近づく。
「止んじゃいそう・・・」
 初音が残念そうに呟く。
 一片一片舞うように落ちてくる雪。
 そしてすぐに止んでしまった。

 くしゅんっ
 初音がくしゃみをする。
「もう戻りましょ?風邪をひくといけないから。」
 楓が妹の顔を見る。
「うん、そうだね。」
 初音はニコリと笑うと、引き戸を閉めた。
 そして冷たい廊下を歩いて自分の部屋へと帰ってゆく。
「楓お姉ちゃん、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
 姉と部屋の前で別れると自分の布団に潜り込む。
「ちょっと冷たい・・・」
 主をなくして冷たくなっていた布団の中で、今宵の風景を胸に眠った。







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