コアサーバーV2プランご契約でドメイン更新費用が永久無料

おまけ ~ 今年はじめての雪の日      ふうら


 しゃり、しゃり、しゃり…。さく、さく、さく…。
「あぁ、寒い」
 はぁああぁ。ふうっ。てのひら、すりすりすり。
「つめたい…。てぶくろ、してくればよかったな」
「そーですねぇ。わたしもてぶくろ、してません」
「…………」
「…え?その毛皮の手袋を?…あ、いえ、そんな、いいんですいいんです、御主人様。
用意していただいたのに、うっかり忘れたわたしがいけないんですぅ。…それに、わたし
はメイドロボットですから、寒さは…」
「…」
「はうっ、そ、そーでしたぁ、ごめんなさいっ、それは言わない約束でしたぁ、もー
言いませんですぅ」
「………」
 なでなでなで、なで。
「…ありがとうございますぅ」
「マルチちゃん、気持ちよさそうね~」
「はいっ。とっても気持ちいいです」
 さっく、さっくさっく、さっく…。
「……」
「あ、もうすぐですよ、御主人様。その角を曲がったところです。…の、はずなんです
けどぉ…、あのっ、あかりさん、わたし、あってますよね…?」
「ふふっ。ええ、ええ。その通りよ、それでいいのよ」
「…………」
 なでなでなで。
「あうっ、ありがとうございますですぅ」

 ぴんぽーん。
 …。
 ぴんぽーん、ぴんぽーん。
 …。
「ひろゆきちゃーん」
 …。
「ひっろゆーき、ちゃーん」
 ぴんぽんぴんぽん。ぴんぽーん。
 …。
「ひ~ろゆ~きちゃ~ん、ね~え、おきてよぉ~!」
 …。
 ドタドタドタドタ…、どてっ。
 …しーん。
「…?」
 ばたんっ!
「こらっ!あかりっ、しょーがつそーそー、ひとんちの前で何やってんだっ!」
「きゃっ」
「…」
「あわわわっ」
「あれっ?!…お、おいおい、マルチじゃねーか!それに先輩も!」
「ひ、浩之さん、お久しぶりですぅ」
「………」
「あけましておめでとうって?あ、そっか、先輩は来れなかったんだっけ、元旦の朝の
初日の出。志保だの委員長だの、うるさい連中引き連れて行って来たんだぜ」
「…浩之ちゃんが一番、はしゃいでたと思うけどな」
「あかりは黙ってろって」
「…(しょぼん)」
「気を落とさないで下さいね、あかりさん」
 御主人様の真似して、なでなでなで。
「うう、ありがとぉ、マルチちゃん」
 ひしっ!抱きつきっ。
「はわわわっ」
 よたよたよたっ。
「…あかり、オマエ、新年で浮かれてんだろ。おとそでも飲んだのか? キャラクター
変わってんぞ」
「………」
「ああ先輩、そりゃ、しょーがねーよ。年越しパーティだなんだで大変だったんだろ?
あーゆー場には、やっぱり、ドレスアップした先輩がいないとな、おてんば綾香じゃ
ダメだって。…いいじゃん、こーして遊びに来てくれたんだから。嬉しいぜ、オレ」
「………」
「御主人様、赤くなって照れてますぅ」
「御主人様?先輩のコト?…あ、んじゃあ、もしかして」
「マルチちゃん、お仕事は全部終わって、三ヶ月くらい前から来栖川先輩のお宅に引き
取られてたんですって」
「三ヶ月前?マジかよ!?…先輩っ!何で教えてくんねーんだよ!ひどいじゃんか!」
「あ、あっ…、ち、違うんです、ご主人さ…じゃなくて、浩之さんっ。わたし、外出許可
が出なかったんですぅ」
「へっ、外出許可?」
「最低三ヶ月間、御主人様専用のメイドとしてのエイサイキョーイクです。みっちりです」
「え?」
「お掃除からお料理からお洗濯から、御主人様に対する気配りのポイントまで。前の方に
ついて、一生懸命、修行してたんですよ~」
「前の方って、あのセバスチャン?」
「あ、セバスチャンさんは違います。あの方はボディガードさんのお役目の方が…えっと、
そう、大きいんです。だから、違う方です。…えっと、それで、わたしが言わないで下さ
いって、御主人様にお願いして」
「そっか、どーせ会えなかったわけか…。あ、先輩、オレ…、あの、ゴメンな」
「…………」
「内緒にしておいて驚かせようと思ってました、って?ああ、ありがとな。確かに、
こーしていきなり会えた方が嬉しいと思うぜ。驚きもしたしな。…んー、けど、天下の
来栖川財閥ともなると大変なんだなぁ」
「マルチちゃん、もう少ししたら学校にも来られるんですって」
「へぇ~、ホントかよ。いや、そいつぁめでたいぜ、良かったなぁ、マルチ」
「はいっ。わたし、セバスチャンさんと綾香さんに護身術を習ってるんですよ。だから、
学校での御主人様のボディガードなんですっ」
 びしっ!靴のかかとを揃えて、敬礼。
「…………」
「あわわ、そんな、悲しい目をしないで下さい~。ごめんなさ~い、御主人様っ。あ、
あの、えっと、キホンはお友達で。…その、ちょこっとだけ、ボディガードですぅ」
 泡食って、おたおた。慌てて訂正。
「はははっ、流石だぜ、先輩」

「…んで、先輩とマルチはいいとして、なんであかりまで?」
「浩之ちゃん、その言い方ってば、ううっ(…くすんっ)」
「おいおい、あかり。オチャメが過ぎるぞ。わざとらしいっての」
「えへへ(ぺろっ)。えっとね、商店街で会ったのよ。それで、やっぱり丁度、浩之ちゃ
んのトコへ行くって言うから、一緒に」
「成る程ね。あれ、今日はリムジンじゃないのか?…ふーん、マルチの道案内ね。バスに
も乗ってみたかったって?正月で空いてるから、危険も少ないらしい…って、それ、
セバスチャンか。まったく、過保護なジジイだな。…あ、気にするなよ、先輩」
「セバスチャンさんはですねぇ、今はお正月休みで、故郷の方へ帰っておられるんです」
「へぇ。執事でも休みがあるんだな…え、無理矢理に休暇を取らせた?ああ、そーだろー
なぁ…」
 くしゅんっ。
「お、あかり、だいじょぶか?わりぃわりぃ、さっさと中に入れてやりゃ良かったな。
しっかし、今日は冷えるなぁ。なんでだ?」
「白い雪が降ったからじゃないでしょうか?わたし、雪、初めてなんですよ」
「へぇ、雪がね。マルチは初めてか…って、おいっ、そーいや、雪っ!?うわっ、ホント
だっ!」
「浩之ちゃん、目の前の景色に、今まで気が付かなかったの?」
「わ、わるかったな。ついさっきまで寝てたからよ。今だって、何か違和感はあったん
だけど…。うーん、どーりで外が明るいわけだ」
「………」
「へぇ、この時期としては記録的な積雪なのか。たったの一晩で、こんなにねぇ。いや、
すげえな」
「雪だるまだって作れるよ、浩之ちゃん」
「雪だるまって…あ、絵本で見たことありますぅ。お掃除のバケツかぶって、ほうきの
手と、ニンジンとかセロリとかで目やお口やお鼻が…」
「いや、べつに野菜じゃなくてもいいんだけど。…よし、後でつくろーぜ」
「は~いっ」

「きたねートコだけど、入ってくれよ」
「おじゃましますぅ~」
「…………(ぺこり。しずしず)」
「おじゃましまーす。…浩之ちゃん、おじさんとおばさんは?…仕事、じゃないわよね、
まだ」
「あ、うん、ばーちゃんちに行っちまったよ。そーいや言ってなかったっけ。メンドー
クセーから、オレだけこっち残ったんだ」
「え!? じゃあ…」
「あ?…そうだ、なぁあかり、それ、その買い物袋、食いもんの材料か? ありがてー
ぜ、こっちは正月三箇日(さんがにち)、もち焼いて食って、あぶって食って、炒めて
食って、茹でて食って…もち尽くし。いくら好きだからって、さすがに食い飽きた」
「…ふぅ。浩之ちゃんは、いつも以上に凄い食生活なのね。…ねぇ、何が食べたい?」
「あ、先輩たち、おこたでくつろいでてくれよ。マルチ、テレビのリモコンはそこ、
うん、それ。…えっと、あかり、それは何の材料なんだよ」
「コレは一応、お雑煮作るつもりで…あ、でも、応用はきくよ。そうね、カレーライス
くらいなら」
「おいおい、なんでぞーにがカレーになるんだ?…いや、ま、ありがたいから深くは追求
しないでおくけどよ。うん、よし、それ頼むわ」
「うんっ。お台所、借りるね」
「御飯は昨日セットしておいたから、ダイジョブなハズだぜ」

「え?マルチも手伝うって。…あ、先輩も?大丈夫?…へぇ、調味料の扱いには自信が
あるの?…不安だなぁ」

「わっ、マルチ、手つきが怖いっ!イモじゃなくって、指、切るぞ!」

「先輩先輩、そんな、カレー粉の配合比率なんて、テキトーでいいって…」

「…おい、あかり。材料、何を、何日分持ってきてたんだよ。オレ一人じゃ、三日は
カレーだぞ、コレ。…えへへじゃないぜ、まったく」

「…さて。皆さん、一応はここで。ご苦労様でした」
「わぁ、ぱちぱちぱち」
「あとは、弱火でコトコト、二時間くらい煮込めば…」
「出来上がりってわけだな」
「そーよ」
 つんつん、つん。
「………」
「えっ、雪だるま?あー、そーだなぁ。これ煮込んでる間に、雪だるま作ろーぜ」
「あっ!」
「な、なんだよ、あかり。どーかしたか?」
「ごめんなさい、マルチちゃん。ニンジン、全部使っちゃったわ。…ほら、雪だるまの顔」
「あ…、そ、そうですね、使っちゃいましたですね」
「………」
「え、他の絵本の挿し絵では…?えっと、えっと…あ、はい、そーいえば。スプーンの
もありましたです」
「マルチ、雪だるまなんてのはその場にあるモンで、何だって良いんだぜ。ほら、ここ
にある蜜柑な、コレを目ん玉ってのはどーだ? ちょうど二つあるし、日本の雪だるま
じゃ、結構定番だと思うけど」
「あ、はい、そーですよね。そーしましょう」
「そういやうち、ほうきもねーや。…ま、いいよな、雪だるまだもんな。だるまさんに
手はいらねーよな」
「はい。それでいいですっ。ささっ、行きましょうっ!」
「おいおい、はりきってんなぁ」

「ほれ、マルチ」
 ぽふっ。
「あ、毛糸のお帽子です」
「おっ、なんかイイ感じだな」
「浩之ちゃん、それ…」
「ああ、そうだよ。…マルチ、これな、去年あかりに編んでもらったんだ」
「え?あかりさんの手作りですか?あ、あ、それじゃ、そんな、わたしじゃなくて…」
「いいのよ、マルチちゃん。…ふふふっ」
「ジツはな、あかりのヤツ、失敗しちまってよ。オレにはサイズ的に、チョイ、ちっちゃ
いんだ。無理にかぶって伸ばしちまうのもカッコワリィし、のっけとくだけだとすぐに
ずり落ちるし、で」
「だから今、新しいの、編んでるの」
「そーゆーこと。…けど、あかりぃ、おまえ、2月までに編みあがるのかぁ? 期待し
てるんだぜ」
「うん、大丈夫だと思う」
「編み物ですかぁ…」
「…………」
「そうですね、御主人様。編めたら楽しいですよね。一緒にお勉強しましょう。わたし、
黒猫さんにマフラー編んであげたいです」
「おいおいマルチ、まずは、オレにくれるんじゃないのか?」
「えーっと、でも…浩之さんは、あかりさんに編んでもらえますから。黒猫さんには、
あかりさんはいないです」
「う。そりゃそーだけど…あ、それじゃ先輩、先輩は?オレに編んでくれない?」
「…浩之ちゃんてば、もう。子供みたい」
「………」
「あ、そっか。そりゃそーだよな。…うん、セバスチャン喜ぶよな、きっと」
「…………」
「ダイジョブだって。先輩ならすぐ編めるようになるって。…いや、オレは知らないん
だけどさ。なぁ、あかり」
「ええ、けっこう簡単なんです。あの、わたしで良ければ…ええ、マルチちゃんも一緒に」

「んしょ、んしょ…」
 ごろ、ごろ、ごろ、ごろ。
「よいしょ、よいしょ」
 ざっく、ざっく、ざっく。
「このくらいでいいですかぁ~?」
「ああ、マルチ、オッケーオッケー。そんなもんだろ。ちょっと待ってろ」
「あ、いいから浩之さんは休んでて下さい」
「浩之ちゃんは最初に頑張ったんだから、もういいよ。…それじゃマルチちゃん。いっ
せーのぉせっ、で…」
「はいっ」
 …んっ。ごろんっ、と。
「おっ、乗った乗った。ホラ、先輩、もう少しだよな」
「………」
「えっ?いいって、いいって。しょうがないぜ、マルチが元気すぎるんだ。雪だるまは
元気なヤツらに任せて、疲れちまったオレたちは、ここで見てればいいの。…な」
「…」

「バケツ取ってきまーす」
「まるちぃ~、たぶん、玄関のトコに転がってるはずだ。…ど~だ?」
「…ありましたぁ」
「蜜柑のおめめと、スプーンのお鼻。口は…」
「ホラあかり、この木ぎれ、使えねーか」
「うん。…ハイ、これがお口、と」
「持ってきましたぁ。バケツのお帽子、かぶせますよ~!」

「…………」
「何、先輩?あ、それ、カメラ?…んーと、デジカメってヤツじゃないのか?…ふーん、
みんなで撮ろうと思って持ってきて、忘れてたって?」
「……」
「あ、いいねぇ。ちょうど完成した瞬間、撮ってやんなよ」

「あ~、手が冷た~い。…はぁ~っ」
「…こーやって、えっと…よいしょっと!」

 パシャッ!

「雪だるまさん、出来ましたぁ~!」


...END



ふたこと・みこと

 これ、本編とは関係ありませんです、ハイ。

 起承転結も、バランス配分も、計画性皆無で何もナシ、です。
 あるのは勢いだけ。全ては、部屋に置いてある「りーふ特製紙袋」のせいでして。…のわりに、
不必要な記述が増殖してしまいましたが。
 んでもって、全体的に、あかりが先輩に喰われちゃいました。さらに締めは、マルチが持って
いってしまって。あわれ、あかり。
 こんなん、あかりSSじゃないや~い!…ハイ、だから、オマケです(逃げ)。

 芹香サマ付きメイドとしての英才教育。…となると、財閥の主の邸宅だし、きっと。馬子にも衣装、
まるちに古風なめいどふく、と。
 …うーん。
 あ、LF97の量産型さんかな。
 いや、あれは現代的、新大陸的で、シンプルですからなぁ。青色の生地も丈夫そう。
 好みとしてはもーちょっと、やわやわの生地でふりふりの装飾、実用よりも格式を重んじるタイプの、
旧大陸&旧教圏下的な装束の方が…。
 当然、第一印象は清楚さ。

 …何を書いてるんだ、ワシは?


二次創作おきばへ戻る    感想送信フォームへ