(Leaf Visual Novel Series vol.3) "To Heart" Another Side Story

for 「本日のお題」

神様がくれた『キカイ』

Episode:HMX−13 セリオ

Original Works "To Heart" Copyright 1997 Leaf/Aquaplus co. allrights reserved

written by 神無風雅





 4月12日、土曜日。

 HMX−13『セリオ』
今日から4月19日まで、西大寺女子学院へテスト通学。
通学方法はバス。同時期開発で別校へ配属の“HMX−12『マルチ』”さんと一緒に、
学校近くのゲームセンター前のバス停にて離合する事になっている。

 −−−−−− 

 朝、研究員の方々に見送られて、バスに乗り込む。専用バスではなく、俗に言う路線
バスだ。
 そのバスの中、マルチさんが複雑な表情をしている。期待と不安が入り交じったよう
な表情…、まるで小学生の入学式のようだ。
私は、どうしてそんな顔をしているのか、それとなく彼女に聞いてみる。すると、ぴく
んっと身体を震わせたあと、ぎこちない笑顔でこう答えた。
「研究員以外の方々とお会いするのは初めてですから、正直ちょっと怖いです。でも、
それ以上に楽しみでもあるんです。例えば“ともだち”がたくさん出来るといいなぁー
とか…」
ともだち…、これでは本当に入学式前と変わらない。でも、私には友達を作るという概
念がない。そもそも、彼女のように表情豊かに話すことが出来ない。と言うより、必要
とされなかった背景があった。

 私とマルチさんは、研究室内に2つのプロジェクトチームが立ち上がって、同時期に
開発された。
それも、詳しいことはわからないものの、そのプロジェクトチームがどうやら長瀬主任
側と反長瀬主任側に分かれたようで、長瀬主任側は“より人間に近づけるコンセプト”
で『マルチ』さんを開発し、対する反長瀬主任側は、外見は人間に近づけつつも“機能
重視のコンセプト”で、私『セリオ』を開発した。
そういういきさつもあり、長瀬主任側が『マルチ』さんの“感情”を育てている間も、
私はひたすら知識ばかりを詰め込まれた。
当然ながらこちら側の理念は、“ロボットに感情などいらない”と言うものである。

 もちろんこの段階でどちらがいいのかの判断が着くわけはないが、どんと構えている
長瀬主任側に対し、こちら側はライバル意識旺盛な様子である。
もっとも私に言わせると、こちら側のスタッフの方が感情的になりすぎているとも思え
るのだが、いかがなものだろうか。

 −−−−−− 

 −1日目−

 とりあえず学校側に挨拶をし、編入教室に通される。
教室は「1−C」。マルチさん同様、高校1年生としてテストを行う事になっている。
「−−HMX−13型、通称“セリオ”と申します。来週いっぱいまでと短い期間です
が、よろしくご指導の程お願いいたします」
とりあえず自己紹介をする。
だが教室側の反応はほぼ予想通りで、疎んじがられるか相手にされないかのどちらかだった。

特に、授業中の教員側の態度によそよそしいものを感じた。彼らのメンツをつぶされる
とでも思われたのだろうか。

 結局この日、好意的に近寄ってくる人は、一人もいなかった。

 −−−−−− 

 帰りのバス、マルチさんがなにやら嬉しそうにしている。

 話によると、マルチさんの編入した学校の反応も、だいたい同じ様な感じだったらしい。

だがその一方で、ある意味“いじめ”とも思われ兼ねない程過酷な所用を押しつけられ
ていたようだ。
ただ、特にひどいものに関しては、一人の男子生徒に助っ人に入っていただいたとかで、
マルチさんは終日ごきげんだった。

 ======  ====== 

 4月13日、日曜日。

 学校は休業日。外に出る必要がないので、1日中メンテナンスを受ける。

 こちら側のスタッフに言わせると、行った早々“スクラップ”になっちゃかなわんと
のこと。
 そんなに“やわ”に造られてるとは思えないが、迫害されたとでも思ったのだろうか、
やたらと慎重にメンテナンスが行われた。

 ちなみに、マルチさんはそのあいだ、長瀬主任他のスタッフの方々とわいわい騒いで
いたようだ。
単純にデータだけ取り出すのではなく、彼女に「喋らせよう」という試みらしい。
 もちろん、私はデータだけ取り出されたのだが、言うまでもないだろう。

 ======  ====== 

 4月14日、月曜日。

 バスに乗車中、一人の老人が乗車してきた。
 どうやら足が不自由な様子だったが、誰も席を譲らない。
 私が席を譲ろうとすると、その前にマルチさんに席を立たれてしまう。
 彼女は優しく老人に席を譲った。

 その老人が下車する際、さっきのお返しとして、マルチさんが何か頂いたようだ。
 さすがにお金はいただけないが、確認の後クッキーと判明。
 結局、マルチさんが学校へ持っていくとのことで、この件については決着した。
 ただ、私たちは食物を摂取できない。マルチさんはどうするつもりなのだろうか。

 −−−−−− 

 −2日目−

 学校側の反応は相変わらずで、相手にされない方の比率が若干増えたように見える。
 さすがにこれだけの学校の生徒ともなると、一家に一台ぐらいはすでに“同僚”が働
いているのだろう、すでに興味の対象にされていないことが伺い知れる。

 −−−−−− 

 帰りのバスの中、マルチさんが笑顔で話しかけてくる。
「学校は楽しいですー。今日も犬さんが可愛かったので、朝のおばあさんに頂いたクッ
キーを差し上げたら、大変喜んでいただけましたー。」
 結局、朝のクッキーは犬のお腹の中に収まったようである。学校の中に犬がいるのは
不思議だが、まぁ学校にもいろいろあるのだろう。

 それにしても、マルチさんはいい表情をされている。本当に学校が楽しくてしょうが
ないといったふうである。
「それとですねー、おひとりの方に大変優しくしていただいて…」
 どうやら、先日助けていただいた方がよく話しかけてくるらしい。
 マルチさんに気があるならともかく、“我々目当て”で近づいてくるようなら問題で
ある。
 ひょっとしたら、他社のスパイである危険性もないわけではない。が、彼女の喜ぶ顔
を見る限りでは、その心配も杞憂に終わりそうである。
 …いずれにしても、その方に一度会ってみる必要がありそうだ。

 ======  ====== 

 4月15日、火曜日。

 −3日目−

 体育の授業、私は見学扱いになっているらしい。
 ロボットの私に生理などないが、研究室の方から“やらせないように”と要請があっ
たらしい。

 まぁ私を取り巻くこの雰囲気からは、和気藹々と団体行動をさせて貰えるとはとても
思えないが、少し激しい運動をさせるからこそテストだと私は思う。
 しかし、そんなに私の強度に自信がないのか、スタッフ側はやたらとナーバスになっ
ているようである。
 これでは運用テストにさえならないと思うのだが、いかがなものか。

 −−−−−− 

 放課後、ゲームセンター前のバス停で、マルチさんの言っていた学生と初めて顔を合
わせる。自己紹介のあと、とりあえず観察を試みる。
『藤田浩之:高校2年生〜多少図々しいところがありそうだが、悪人には見えない。ど
うやら純粋に、マルチさんに対する興味だけで動いているようだ』
 そのうち、私とマルチさんの性能差の話になっていた。マルチさん曰く、私の方が彼女
より性能が遙かに上で羨ましいという。
 なにやら落ち込んでいるようなのでとりあえず肩を叩いてみるが、性能差については
少し違うような気がする。
 単純なスペック比較から言えば私の方が確かに上かも知れないが、それはあくまで
『大砲実力主義』の産物であり、メンタル面に関しては彼女のほうが遙かに私を凌駕し
ている。いや、メンタル面無配慮の私と比べるのは、彼女に対し失礼であろう。そうい
う意味において、マルチさんの方が高性能だと思われる。
 藤田さんもその点は一目置いているようで、春木様という家に導入されているロボット
の話でマルチさんを励ましていた。
 もっともその家のロボットの扱いは最低レベルのものであり、マルチさんが怖がるま
でもなく、許されるものではない。
 だが、私たちの勤め先の人間が、すべてよいお方である保証はどこにもないし、実際、
この試験稼働中に私の受けている境遇を見れば、先述の春木家のような例がむしろ当た
り前なのであろう。そういう意味において、私はスタッフ側に対し、装甲強化の要請を
しなければならないだろう。
 ともあれ、藤田さんに関しては、警戒態勢をしばらく解くと共に、あえて敬意を込め
て「浩之さん」と呼ばせていただくことにする。

 ======  ====== 

 4月16日、水曜日。

 マルチさんが、「浩之さん」の話をするようになった。

 昨日、私と彼との“面通し”が済んで理解してくれたとでも思ったのか、今日のバス
の中での話題は終始「浩之さん」だった。
 よっぽどマルチさんのお気に入りになってしまったらしい。
 ただ、私たちのテスト通学は今週いっぱいで終わってしまう。
 もし、マルチさんがこれ以上「浩之さん」と親しくなってしまった場合、お別れの時
はどうするつもりなのだろうか。

 マルチさんを見ていると、とりあえずぼろぼろ泣き出すのは容易に想像できるとして、
問題はそれで済まなくなった場合。
 マルチさんが「帰らない」とか言い出す危険性もないとは言えないが、一番問題なの
は「浩之さん」がマルチさんに感情移入して「帰さない」と言い出すケースだ、なんと
なくだけど、そうなりそうな気がする。
 でも「浩之さん」には申し訳ないけれども、私たちは所詮“データ取り”の為だけに
存在する先行試作機。しかも、会社のみならず『来栖川財閥グループ』の最高機密でも
ある。
 もし彼が『最悪の選択』をした場合は、残念ながらそれなりの対処をしなければなら
なくなるだろう。

 −−−−−− 

 −4日目−

 マルチさんとは違い、こちらは平和なものである。
 かまってくる者もなし、直接攻撃を仕掛けてくる者もなしで、あるのは多少冷ややか
な視線のみ。
 それも警戒するレベルではないので少々物足りないような気がする。
 こんなことで果たして貴重なデータになりうるのか、少し不安になる。
 もっとも、私の意見が通ったのか、今日から体育の授業には参加させて貰えることに
なった。
 周りの反応は相変わらず冷たいが。

 −−−−−− 

 バスの中、マルチさんの「浩之さん」話。
 2時間目の休み時間、彼女がたまたま「芹香お嬢様」と一緒になった際、ちょうど近
くにいた「彼」がお金を落としたとかで、マルチさんに指名が入ってお金を探すことに
なった…とか、
 昼休みに同学級の生徒に頼まれた“おつかいもの”を「彼」に助けてもらった…とか、
 5時間目の休み時間に「彼」に『耳カバー下』を見せる羽目になった…とか、
 あげくのはて、放課後の清掃中に「捜査能力のテスト」をやらされた…とかで、
 最後の方のはちょっとした『いじめ』にも見えるものの、えてして優しくしてもらっ
たとかで、彼女は嬉しそうだ。

 ふと、朝の考え事が頭をよぎる。
『…お別れの時はどうするつもりなのだろうか?』
 あまりに悲しい結末にならなければよいのだけれど。

 ======  ====== 

 4月17日、木曜日。

 朝のバス。
 マルチさんは、相変わらずうきうきした様子。対する私は、静かに時を過ごしている。
 すると、なにげにマルチさんが話しかけてきた。
「…セリオ…さん? どうされたんですか。 なんか顔色が良くないみたいですけどー」
−−顔色が良くない…。そうマルチさんに言われて、私は静かに返した。
「−−私は試作機であるとはいえ“メイドロボ”ですから、顔色が変わることはないは
ずです。でも喜怒哀楽の表現できるマルチさんだからこそ、私みたいなのは陰気くさく
見えるのかもしれませんね」
 すると、マルチさんが怒ったような顔でこう返す。
「陰気くさいだなんてそんな…悲しいこと言わないで下さい。セリオさんも、もっと自然
に振る燐えれば明るくなれますっ」
 彼女はすっかり感情的になっている。私は冷静に返した。
「−−大丈夫です。私にはこれが自然体ですから」
「………そうですかー」
「−−はい」

 −−−−−− 

 −5日目−

 自然体…メイドロボにとって“自然体”というのはどうあるべきなのだろう。
 私は“ロボットに感情はいらない”というコンセプトのもとに開発されたが、マルチ
さんを見るにつけ、それは違うような気になってくる。
 朝のバスの中で、私はマルチさんに『自分は陰気くさい』と言った。もし、それだけ
のために私が学校側から相手にされないとするならば、少なくとも“笑顔”だけは標準
装備するべきなのだろうと思う。それも、マルチさんが表現されるような“心からのと
びっきりの笑顔”。
 『…心』
 『……こころ』
 『………ココロ』
 やはり、ロボットにも『心』は必要なのだろうと思う。でなければ、顧客である“ヒト”
に対して受けが悪いであろう。それは、マルチさんと私のデータを比較してもらえば
一目瞭然だ。

 だが、果たしてこちら側のスタッフがそれを認めるだろうか? いや、意固地になっ
ている彼らのこと、たぶん認めないであろう事は想像に難くない。
 …だとすると、私は…私の存在意義は…いったいどうなってしまうのだろう…。
 私自身では、まともなデータが揃っているとは思えない。彼らもそればかりは認めざ
るをえないだろう。だとすると、自分たちの非を認めようとしないであろう彼らのこと、
やはり“不良品”扱いされて、闇に葬られてしまうのだろうか…。それとも彼らの
『ナグサミモノ』に………

「…さん」
「…オさん」
「セリオさんっ」
 はっ!
 ………………………………。
 気がつくと、私は担当教諭から指名を受けていた。そう、私は授業中にあのようなこ
とを考えてしまっていたのだった。
 クラス一同の目が私に集中している。
「−−申し訳ありません、考え事をしておりました」
「最近のロボットは、考え事もするのねー。しょうがない。次は…と」
 油断した。今までは教師側が怖がってしまって、授業中に私を指名する事がなかった
ので安心しきっていたのだが、どうやら隙をつかれた格好のようだ。クラス一同が苦笑
しているのがわかる。
 ??
 『苦笑』?
 『隙』?
 もしかすると、私がおぼろげに探しているものが、そのあたりにありそうな気がする。

 今はまだよくわからないが、もう少し…、もう少し時間があれば、答えが見つかりそ
うな気がする。
 もう少し時間があれば…、
 とんとん…
 !? しまった!!
 再び物思いにふけったところへ、今度は肩を叩かれてしまった。
「セリオさん、考え事は授業中以外でやってね」
 クラス一同が、再び苦笑する。
 この担当教諭、侮り難し。
 とにかく、担当教諭の言うとおりだ。授業中は他のことを考えないようにしよう。

 その授業のあと、一人の生徒さんに“ぽんっ”と肩を叩かれた。
「しっぱいしちゃったね、えへへっ」
 その生徒さんは、そう言ったあとすぐに駆け出していった。どうやら、今の選択授業
でこっちの教室に来ていた、隣のクラスの生徒さんらしい。
「………………………………………………………………」
 なぜか、一瞬だけ胸の奥が暖まった様な気がしたのは…気のせいだろうか。

 −−−−−

 放課後、バス停に少し遅く着いた。
 バス停にはマルチさんと「浩之さん」がいた。
「−−どうも、こんにちは、浩之さん」
「おっす」
 なにげなくあいさつなどしてみたが、「浩之さん」はごく自然にあいさつを返してく
れる。
 世の中こういう人ばかりなら…と、ちょうどバスが来たので、「浩之さん」を残し、
乗り込んだ。
 マルチさんは、バスに乗り込むときも、そして乗ってからも、「浩之さん」に手を振
り続けた。


 バスの中、ついポツリと漏らしてしまう。
「−−私、マルチさんが羨ましいです…」
「え、えっ!? な、なんですか? いきなり−」
 マルチさんが、驚いてこちらを見る。
 私は彼女のほうを見ないで続けた。
「−−私、今日初めて生徒さんから声をかけられました」
「そうですかー、それは良かったですー」
 マルチさんは笑顔で答えてくれる。
 そこで私は彼女のほうをむき、
「−−でも結局それだけで終わって、お友達にはなっていただけませんでした」
 私がそう言うと、マルチさんが再び驚いた顔をする。
「…え? そうなんですか? わたしはてっきり、話しかけてくれた方はすべて“お友
達”だと思ってましたけどー」
 と、不思議そうな顔をするマルチさん。私は冷静に続ける。
「−−私はむしろ“浩之さん”の様な例は特殊だと思います。現にマルチさん、『浩之
さん』以外に親しく近寄られてくる方はいらっしゃいますか?」
 思い当たる節があるのか、さすがの彼女もちょっと困った顔になる。
「う、うーん、それは確かに…。でも、人に声をかけてもらえるということは、その人
にとって“わたし”が必要とされていると…そう思うんです。ですから、セリオさんも
じゅうぶん人の役には立っている…と思いますし、少なくともわたしは、セリオさんが
いて下さるだけで心強いですからー」
 再びマルチさんの満面の笑み。
 どうやら人に対しての考え方が、彼女と私では根本的に違っていたようだ。
 私はいつのまにか“人に親しくされるように望むだけの存在”になってしまったが、
 彼女は、人に喜んでもらおうと常に一生懸命である。
 おそらく、友達の出来る出来ないは、その努力の過程の積み重ねで決まってくるのだ
ろう。

 私は、賞賛の意味を込めて、マルチさんの頭をなでてあげた。
「−−マルチさんはえらいですね」
「え、そ、そんなー…ん、んふぅーっ」
 マルチさんが顔を真っ赤にして喜んでくれている。
 彼女にとっては、“これ”がいちばんのお気に入りなのだろうか?
 私は頭をなでながら続ける。
「−−だって、マルチさんはいつだって人の側に立って物事を考えてるじゃないですか。
私なんかは、とてもそこまで気が回りませんから」
「そ…そんなことは…ないとおもいま…すっ…、セ…セリオさんだって…わたしより
ずーっと優秀なんですから…出来ないはずは…ないで…すーーー」
 はたしてそうだろうか?
 マルチさんがいうところの『優秀』というのは、かの研究員たちがほとんど意地になっ
て“機械の究極”を目指したもの。
 それにひきかえ、マルチさんは“限りなく人間に近づけた”代物。似ているようでも、
全然違う。

「ごろごろごろごろ………」
 気がつくと、マルチさんはすっかり“またたびをあげた猫”みたいになってしまった。
私は少し休んで、彼女の小さな体を抱きかかえるようにしてあげる。
「−−でも、人間の立場とすると、喜んでいただけるのはやっぱり、私よりマルチさんの方だと思いますよ」
 我ながら“がんこ”だなと思う。でも彼女も負けていない。
「そんなことはないですー。わたしみたいにドジでおっちょこちょいなロボットは、た
いてい邪険にされてしまうと思いますー」
 そして、彼女は遠い目をしてこう言った。
「…今回は、“浩之さん”がいてくださったから…、わたし、救われたんだとおもいま
す…。もし、“浩之さん”がいてくださらなかったら…わたしは…わたしはー」
 彼女の目に、涙が浮かんできた。私はすかさず手持ちのハンカチを差し出す。
「あ、ありがとうございます………」
 彼女はそのハンカチで涙を拭ったあと、続けて鼻までかんだ。長瀬主任…そこまで凝っ
たつくりにしなくても…。


 それにしても、あと2日しかない。
 私は、所定の結果を出すことがはたして出来ているのだろうか。
 そして、マルチさんは…。
 彼女は「浩之さん」と決別することが出来るのだろうか…。

 いずれにしても、“わたしたち”の生命は、残り2日強しかないのだけれど…。

 ======  ====== 

 4月18日、金曜日。

 バスの中、なにげにマルチさんに話しかけてみる。
「−−あと2日で終わってしまいますね。」
「ほんと、あっというまでしたねー」
 いつもの笑顔、でも少し寂しそうな顔をして彼女は答えた。
 そして、少しうつむいたあと、それでも気丈にこう言った。
「…いいたいことはわかります。でもわたしはメイドロボの試作機ですから」
 彼女はこっちを向いていない。にもかかわらず、その横顔にはある種の決意みたいな
ものを感じる。
 マルチさんなりに、「浩之さん」とのお別れの時を考えているのだろう、顔は真剣そ
のものだった。

 それに引き替え、私はと言えば、やり残したことがたくさんあるようで、時間がとて
も足りないような感覚に陥る。
 もっとも、実際に私たちのスケジュールを決めるのは『上』だから、私たちに口を挟
む余地はないのだけれど…、
「−−他人にモノを言える義理じゃないですね」
「え? セリオさん、なんですかー」
「−−あ、マルチさん、ごめんなさい。なんでもないの。ちょっと考え事してたから」
「???」
 マルチさんをおどかしてしまいました。
 本当は順を追って彼女に説明できればいいのだけれど、説明するには時間が足りなそ
うだし、それに…マルチさんに余計な負担をかけたくないですから…ね。

 −−−−−− 

 −6日目−

「おはようございますっ♪」
 校門をくぐると、いきなり声をかけられた。
 見ると、…確か昨日、私が失態を犯したときに声をかけてくれた、隣のクラスの生徒
さんだ。
 昨日の不思議な感覚が蘇る。なんとなくだけど、胸の奥がだんだん熱をもってくるよ
うな…そんな感覚。
 でも、せっかく声をかけてくれたのに、いつまでも“ぼ〜っ”としている訳には行かない。

「−−おはようございます(ぺこ)。わたくし…」
「えっと…、セリオさんでしたよね。わたし“久遠寺 燐”。よろしくねっ♪」
 彼女は“にこにこにこっ”と自己紹介をすると、おもむろに私の両手を掴み、ぶんぶ
んと上下に振り出した。
「…は、はいっ、…よろしくおねがいしますっ」
 さすがの私も、手を掴まれてぶんぶんやられたら、喋るのがやっとだった。

 −−−−−− 

 昼休み。
 私は食事をとることがないので、いつも屋上に行って時間をつぶすことにしている。
 今日も屋上に行こうとしたのだけれど…
「セリオさーん、待ってくださーい」
 この声の主は…「燐さん」。
 彼女が息も絶え絶え走ってきて、私の右腕をひっ掴んだ。
「セ、セリオさん………、お、お昼…ご一緒して…いい………?」
 燐さんが汗びっしょりの顔でこう言った。
 教室からまだそんなに離れていないはずなのに、どこから走ってきたんだろう。
 とか思いつつ、
「え、えぇ。かまいませんけど…」
「やったー♪ じゃ、じゃあ、どこ行く? わたしお弁当だから、どこでもいいよ♪」
「では、私は食事をとらないので、屋上でよろしいですか?」
「もっちろん♪ よかったー」
 断る理由もないので承諾し、屋上に付き合ってもらった。


「暖かくて、気持ちいいねー」
「そうですね」
 屋上。
 4月も半ばを過ぎると、さすがに肌寒いということはない。
 私は、燐さんに腕を掴まれたまま、屋上設置のベンチに座った。

 彼女はお弁当を包みから取り出すと、器用に少しづつ食べ始める。しかも口を動かしながらだ。
「でも、外が暖かくて良かったー。わたし、肌寒いのはちょっと苦手だから…」
「確かに、寒いのが好きっていう人はあまりいないと思います」
「そうじゃなくってー。わたし、生まれつきからだが弱くて、ついこの前まで入院して
たの。でー、昨日から久しぶりに学校に出てきてるんだけどね」
 なるほど、からだが弱いのであれば、今までの動作も納得がいく。
 少しの距離でも走ると息が上がりやすいとか、一昨日まで見たことがなかったとか…。
「ご、ごめんなさい…。気が…付かなくって」
「いいよ。いつものことだもん。それよりも…、今朝かまってくれて…嬉しかったな…
わたし」
 ふと、燐さんが箸を止めてこっちを見た。心なしか、目が潤んでいるようだ。
「そ、そんな…。普通ああされたら、気持ちいいものじゃないのですか?」
「普通の学校ならそうなのかもしれないけど、ここは…ほら…普通じゃないから………」
 普通じゃない…。確かに生徒はともかく、教師に至るまで普通にはとても見えない。
『名門』と言われる所以なのだろうか。
 とにかく、この学校は“コミュニケーション”が不足しているように見受けられる。
 むしろ燐さんのように人なつっこい生徒は、ごくまれにしかいないのではないだろう
か。そうなると、燐さんの今の表情なども納得がいく。
「そうなのかも知れません。実際、生徒大旨の反応は、かなり冷たく感じますから」
「そうそう。みーんな『お嬢様』ってことで、お高くとまっているからねー」
 ふたたび、燐さんが箸を動かし始めた。『お嬢様』に対して、嫌悪感でもあるのだろうか。
「燐さんは『お嬢様』ではないのですか?」
「おじいちゃんが病院長やってるから、一応お金はあるんだけどね。でも、だからといっ
て『お嬢様』って言われるのもなんだかなーって思うな。わたしは」
 どうやら、彼女は『お嬢様』と言われることが好きではないらしい。

 …と、ここでふと、一つの疑問が頭をよぎった。
「では、燐さんはなぜこの学校に進まれたのですか?」
「おじいちゃんの話だと、ここの理事長が以前うちの病院で世話になったとかで、その
紹介なんだって。わたしって…ほら、からだが弱かったから、普通の学校だといろいろ
大変だろうからってことで、おじいちゃんが気を利かせてくれたみたい。でも…病院を
出たり入ったりの生活が続いてるから、お友達もぜんぜん出来ないの♪」
 なるほど。御祖父様の紹介なら、ここに通うのもある意味仕方ないのかも知れない。
 でも、燐さんの性格だと、この学内の雰囲気ではすぐにストレスが溜まってしまいそう。
「…そうだったのですか」
「だ・か・ら、そんなに暗くならないでよー。わたしまで気が滅入っちゃうじゃないー」
 燐さんが、ふくれっ面をしてこっちを見た。すでにお弁当は食べ終わっている。
「とにかく、セリオさんはわたしが高校に上がってからの最初のお友達なんだから、も
う離してあげないよー」
「そ、それは…その………」
 あの…、私、明日で終わりなんですけど………と言おうとして、彼女が再び腕をぎゅっ
と掴んで、潤んだ目を向けた。
「それとも、わたしみたいなの、いや?」
「…いえ、決してそのようなことは…」
「じゃあ決まりっ。これからもよろしくねっ♪」
「は、はい…」
 強引に押し切られてしまった。
 やはり彼女にしてみれば、気軽に甘えられるパートナーが欲しいということなのだろ
うか。
 でもいずれにせよ、私たちは明日でお別れである。
 彼女はどうやら、昨日から高校に上がったようなことを言っていたから、私の事情を
恐らく知らないのだろう。
 さて、どうやってこちらの事情を説明したものやら。相手が体が弱いと言うことで、
つい気を使ってしまいそうだ。

 −−−−−− 

 放課後。
 マルチさんとの待ち合わせには少し余裕があるので、時間つぶしに図書室に行った。

 ふと見ると、部屋の真ん中の大きなテーブルに、一人の生徒が元気なさそうにちょこ
んと座っている。
「燐さん…」
「あっ、セリオさん…、わたし…お迎え待ちなの。良かったら、少しだけお話しましょ」
「ええ。ありがとうございます」
 私は勧められるまま、燐さんの隣に座った。


 ………少し経って、彼女が横顔のままぽつぽつと喋りだした。
「聞いたよ。明日までなんだってね、学校」
「………はい。隠すつもりはなかったのですけれど…言いそびれてしまいました」
 私がそう言うと、彼女がゆっくりとこちらを向いた。瞳の奥は…濡れていた。
「また………ひとりになっちゃうんだね………、わたし………」
「………燐さん」
「…うっ………ううっ………………うわぁーーーーーーーーーーーーーーっ」
 燐さんが私にしがみつき、胸のなかで感情を解放する。
 彼女の『ココロ』が伝わる。胸の奥が………痛い。
 でも私は、ただただ彼女を抱きしめてあげることしかできなかった………。


 二人とも落ち着いたところで、ちょうど良い時間になった。
「…燐さん。私、そろそろ帰らないといけません」
「…そっか。セリオさんにも帰るところがあるんだもんね。もう少し一緒にいたかった
けど♪」
 燐さんが、再び笑顔を取り戻してちょろっと舌を出した。とりあえずは一安心。
「それじゃ、下行こっ。わたしのお迎えも、たぶん待っててくれてると思うから」
 彼女の手が私に伸びる。私はためらわずに手を取り、一緒に玄関に向かった。
 見ると、一台のリムジンと、いかにも優しそうな運転手さんが待っていた。
「−−おかえりなさい」
「ただーいまっ」
 おそらく、彼女の専属運転手なのだろう。お堅い言葉にならないように躾けられてい
る感じがした。
 運転手さんは静かに車のドアを開けると、彼女を中へ導いた。
 ふと、燐さんがこっちを振り返った。
「セリオさんっ、また明日逢いましょっ」
「はい………また明日」
 私がそう答えると、彼女は静かに車に乗り込んだ。
 運転手さんは車のドアを閉め、軽く私に会釈すると、運転席に乗り込み、車を発進さ
せた。
 静かに動き出す車の中、燐さんはいつまでも私に手を振ってくれていた………。

 −−−−−− 

 バスの中。
 人のことは言えないが、マルチさんもまた、落ち込んでいるようだった。
 そう。いくら人と仲良くなったところで、私たちは明日で役目を終わらせなければな
らない。
 冷たい言い方をすれば“お別れ”だ。
 さすがに“今の”私なら、マルチさんのつらさがよくわかる…つもりだ。
 たとえ、悲しみが彼女とは比べ物にならないほど小さかったとしても、今の私は…
一人じゃないから………。

 ======  ====== 

 4月19日、土曜日。

 テスト通学、最終日。

 私は、昨日密かに“長瀬主任”に「とあるもの」を用意してもらい、先程受け取った。
 さすがに、昨日私が彼の所にお願いしに行ったときは、たいそう驚いていた様子だっ
たが、私が用件を言うと、快く承諾してくれた。
 マルチさんにも内緒の「それ」を、私は丁寧に学生鞄にしまい込んだ。

 −−−−−− 

 バスの中、マルチさんが話し込んできた。
「今日で最後ですねー」
「−−そうですね」
「どうでしたか? 向こうの学校は」
「−−マルチさんほどではないですが、そこそこ得る物がありました」
「それは良かったですねー」
 マルチさんは、自然な笑顔で私に合わせてくれた。

 だが、もちろん“そこそこ”というのは大嘘だ。私は私なりに大変貴重な体験をさせ
てもらったと思っている。
 そう言う意味に置いては、さりげなく“細工”をしていただいた長瀬主任に対し、私
は心から感謝している。
 そして私は、『自分の意志』でその“細工”の仕上げをすることにした。自然と、膝の
上に抱えていた鞄を強く抱きしめる。

 ふと、マルチさんが「それ」を見て一言。
「…セリオさん、気合い入ってますねー」
 一瞬、私の後ろに大きな汗の滴が浮かんだような気がした。
「実は、わたしも今日は頑張るつもりなんですよー。なんといっても、最終日ですから」
 見ると、マルチさんもまた、気合いが入っているようだった。私と違い、彼女は臆面
もない。

 なにやら、二人して『ラストバトル』と言う感じがしたのは、私だけだろうか。

 −−−−−− 

 −7日目−

「おはようございますっ♪」
 校門をくぐり、声をかけてきたのは“久遠寺 燐”さん。学校でただ一人の『お友達』。
 今日も彼女の笑顔がまぶしい。私もすかさず、
「おはようございますっ」
と返してあげた。すると、彼女はいきなり私の右腕に掴まり、
「へへーっ」
とか言いながら、私を教室まで連れていった。
 そして「1−C」前で彼女は、
「また放課後待ってるからっ じゃね♪」
と言って、隣の教室「1−D」へと姿を消した。
 私は、燐さんの元気さに微笑ましいものを感じながら、自分の教室へ………“戻らな
かった”。

 −−−−−− 

 所用に3時間も費やしてしまったが、テスト通学は今日でおしまいである。
 堂々と自分の教室へ戻ると、ホームルームで最期のあいさつをした。
 クラスの全員は、私が3時間堂々と授業をさぼったことに不快感をあらわにしつつ、
それでも義理の拍手で送り出してくれた。
 私は一足先に教室から出ると、その足で図書室へ向かった。

 −−−−−− 

 図書室。
 なぜか“燐さん”が待っていた。
「はやかったね」
「最期ですから」
 二人で顔を見合わせ、笑い合った。

「寂しくなるなぁ、これから」
 燐さんがポツリと漏らした。
 私はとりあえず、正論で返すことにする。
「………クラスの方々は、どなたも相手にしてくださらないのですか?」
 すると、彼女が少し微笑んでこう返す。
「………話してなかったかな。ここ、エスカレーター式なんだよ」
「??」
「ここは、幼稚園から短大まである大きな学校で、わたしの同級でも、長い人なら10年
以上ここに通ってる人がいるの。わたしも小学校の時から通ってるからもうすぐ10年
経っちゃうけど、………そんなわけで、同級でわたしのことを知らない人はいないわ」
「………………」
「そして、あなたに言ったとおり、『お嬢様』体質が性に合わないヤツだから、結局い
つも孤立しちゃうんだ。まして、わたしは、入退院を繰り返してる身だから、たまに学
校に戻っても、“あら、来てたの”って言われるのが当たり前になりつつあるし………、
正直、もう参ってたんだ」
「燐さん………」
「でも、そこへあなたが………セリオさんが、あらわれてくれた」
 一瞬、燐さんが私の目をじっと見据え、強い表情を取り戻した。と思ったら、また柔
らかな表情になって続ける。
「おかしかったー。一見すると、とても冷たい感じにしか見えないのに、あーゆうお茶
目なことやってくれちゃって。」
「一昨日の…あれですか?」
「そう。あの先生もなかなかお茶目な人なんだけど、あなたはそれ以上だったもんねー。
つい声掛けちゃったよ、わたし」
 彼女は笑いを堪えているような表情だ。つい私も苦笑しながら返してしまう。
「思えば、あれが始まりでしたね」
「そして、わたしが次の日の朝、声を掛けたのよ。『おはようございますっ♪』って」
「あれには私もびっくりしました」
「でも、我ながら図々しかったと思うよ、そのあとの行動は」
「なんか、恋した女の子みたいでしたね」
「………………………………………………………………………………………」
 燐さんの話が止まった。
 ふと彼女のほうを見ると、とても静かな表情で私を見つめていた。
 そして、
「………そうかもしれない。……わたし、あなたに恋していたのかも………」
と、潤んだ瞳でそう言った。
 私は、見事に狼狽してしまう。
「………………………………………………燐さん、わたしは………………」
「わかってる。 わかってるけどわたし………、あなたが………………好き。できるこ
となら………、いつまででもずっと………………いっしょにいたい」
 彼女はそう言うと、再び昨日のように私の胸にしがみついてきた。
 泣いてはいない。でも昨日よりも力一杯、私を抱きしめてくる。
 再び彼女の「ココロ」が伝わる。私の胸は………熱い。
 私はそっと彼女の背中に手を回し、おどかすことがないように少しづつ抱きしめていった。


 しばらくして、彼女が真っ赤になった顔を上げて、もじもじしながらこう言った。
「あの…さ、まだ…時間……ある?」
 私は時計を見る。今日の待ち合わせは少し遅めに…とマルチさんと打ち合わせてある
ので、あと30分ぐらいは余裕がありそうだ。
「え、えぇ………まぁ、大丈夫ですけど」
 すると彼女は、
「…保健室へ………連れてって欲しいの」
と言った。
 確かに燐さんの顔は赤い。
「え…具合でも悪くされたのですか?」
「う、うん…ちょっと………ね」
「それは大変! 早速救急車を…」
 私は、装備されている“サテライトシステム”で救急車を呼ぼうとした。
 すると、彼女は、
「ち、ちょっと待って! きゅ、救急車はだめっ!」
と、激しく拒絶した。そして、
「わ、わたし…セリオさんと二人きりで…お話ししたかっただけだから………、だから………」
 再び静かな口調に戻して、そう言った。
「わ、わかりました」
 とりあえず、私は彼女に付き添って保健室に行くことにした。

 −−−−−− 

 保健室に行くと、白衣を着た養護教諭らしき女性が出迎えてくれた。
「いらっしゃーい…あ、あれ? 珍しい組み合わせねぇ」
 なんとその女性は、一昨日の授業中に私が「お世話」になった、あの先生だった。
「先日は…お世話になりました。………えっと」
「柊 妙子。よろしくねっ」
 私がとりあえず一礼すると、柊先生はきさくに返してくれた。そしてあっさり笑って
言った。
「ははは…さすがに授業中はまずいけど、でも普段はここで生徒たちのカウンセリングもしてるから、
気軽に話しかけてくれて良いわよー」
 はっきり言って、この学校に似つかわしくない、とても感じの良い先生だ。率直に私は
そう思った。
「ところで、どうしたの? きょうは。 燐ちゃんに何かあった?」
 先生が用件を問いただすと、その燐さんが口を開いた。
「先生…30分ほど、お部屋貸して欲しいんですけど………あいて…ますか?」
 すると、先生がすっと席を立って、左手を広げてベッドを指し示した。
「うん、いいわよー。………そっかぁー、やっと燐ちゃんにも『春』が来たかー」
「は、春だなんて…そんな………」
 燐さんは、また顔を真っ赤にしてもじもじしてしまう。
「なに考えてんのよ。やっとお友達が出来たってことを言いたかったのよ。このえっち娘ー」
 どうやら先生は、燐さんの事情も知っているようだった。やはり体が弱いと言うこと
で、すでに常連さんなのだろうか。
 それはともかく、先生はあっさりと部屋を貸してくれた。以前よりこう言う使い方も
されているのだろうか。
「じゃ、職員室にいるからねー」
 そう言って先生が部屋を出ていくと、保健室は私と燐さんの二人きりになった。

 まず燐さんをベッドに座らせ、続いて私も彼女の左側に座る。
 さりげなく、燐さんの左手が私の右手を握り、そして寄り添ってきた。
「やっと…ふたりきりになれたね…」
 そう言って、彼女の顔がこちらを向いた。
 顔は真剣そのもの。私は彼女のほうを向き、素で返した。
「燐さん…なにか………あったのですか?」
 ふたりきりでしかできないお話…彼女の“からだ”の事だろうか。
 と、私がむずかしい顔をしていると、
「…むずかしい顔………しないで」
 と言って、彼女は突然、私をベッドに押し倒した。
「!!@♯*‰刀H??」
 ちょっと頭が混乱した。この行動パターンを予測できなかったからだ。
 そのまま、燐さんのからだが、私の上に覆い被さる。そして、甘えた猫のようにすり
すりと、私の胸に頭を擦り付けてきた。
 −−すりすりすりすりすりすりすりすり………………
「セリオさんって………気持ちいい。暖かくって、それでいて柔らかくって、まるで人間
の女の子みたい………」
 なんだかくすぐったい。突然で驚いたけれど、でも燐さんが喜んでくれていることで、
私の中に得も言われぬ喜びがこみあげる。
 とりあえず私は、彼女の頭を撫でてあげた。
 −−なでなでなでなでなでなでなでなで………………
「セ、セリオさん………気持ちいい………気持ちいいよー………」
 燐さんが喜びの声を上げる。と同時に彼女の手が、私のからだをまさぐり始めた。
 私のからだを、くすぐったさと恥ずかしさが同時に攻めあげ、そのうちぴくんぴくん
と反応するようになっていった。
「り、燐さん………っ、私、わた…し………」
「セリオさん………かわいいっ、かわいいよー」
 だんだん、彼女の声がうわずってきた。興奮しているのがわかる。
 私も、じわじわとからだが熱くなっているような、そんな感じがしていた。
 と、燐さんがからだの動きをとめた。一瞬、くすぐったさから解放される。
 だが彼女が体勢を整え、再び私の上に覆い被さると、そのまま私の顔に自分の顔を近
づけ………そして、唇を重ねた。
「んんっ!」
 私はおもわず目を見開いてしまう。初めての感覚にとまどいを隠せない。
「んっ…んっ……んんっ………」
 彼女が夢中で唇を押しつけてくる。ほんのり暖かくて………そしてふわりと柔らかい。
「んっ! んんっ! ……んんっ」
「んっ…んんっ……んふぅ……」
 私のとまどいが快感に変わっていく。彼女はすっかり安心しきって、私の唇を貪り続
ける。
 そのうち彼女の舌が、私の中に侵入してきた。私はなぜか拒めず、初めての彼女の舌
を受け入れていた。
「んふっ……んふっ……んふっっ……」
「んっ……んんっ……んふっ……」
 私の舌も、そのうち彼女の中で踊り出し、ふたりでお互いの舌を貪り続けた。

 しばらくして、さすがに燐さんも疲れたのか、一息つくことになった。
 もともと、彼女はからだが強いわけではないので、夢中になっていたとはいえ、かなり
の体力を消耗しているはずだった。
 実際、呼吸は苦しそうだし、からだも疲れ切っているようで、一見すると、これ以上
からだを酷使するのには耐えられそうにない。
 彼女の場合、これらの症状は単純に快感だけのものではあるまい。
「…燐さん………お気持ちは…嬉しいのですが、あまり…無理をなさらない方が………」
 私はとりあえず彼女に提案してみた。が、
「セリオさん………だめ………………」
 やんわりとではあるが、やはり拒否されてしまう。今までの状況からは無理もない。
 と、彼女が静かに続けた。
「わたし…確かに無理してるかも知れない。………でも…せっかく神様がくれた機会な
んだもん。後悔だけは………したくないから………」
 穏やかな中にも決意を感じさせる言葉を、息も絶え絶えに燐さんが言う。
 私は不覚にも胸の奥が熱くなり、そしてさらに…彼女に対する愛しさでいっぱいになった。
 結局、自然と燐さんを抱き寄せ、ぎゅっと抱きしめたあと…そっと唇を重ねてあげた。
「んっ………」
「んっ…んんっ………っっ」
 ふと、燐さんが、いったん唇を離した。
「わ、わたし…セリオさん…に…お願いが…あるの………」
「え?…わ、私にですか………?」
「うん」
「え、えぇ。…私に出来ることでしたら………」
 愛しい燐さんの願い………。ここは出来る限りかなえてあげたいところだ。
 すると、彼女は静かに…でもきっぱりと言った。
「セリオさんを、わたしに刻みつけて欲しいの」
 そう言うと、彼女はベッドからからだを起こし、ゆっくりと、着ていた服をすべて取
り去り………一糸纏わぬ姿になった。
「り、燐…さん」
 私は思わず息を呑んだ。
 透き通るような白い肌にはほんのりと紅がさし、慎ましやかな胸のふたつの膨らみは
外気に触れてぴくぴくと細かく震え、か細い手足はちょっと力を入れればすぐにも折れ
てしまいそう。
 でも…美しい。私は燐さんを、純粋に美しいと…そう思った。
 私がそうやって見とれていると、恥ずかしそうに彼女が言った。
「おねがい…セリオさんのも……みせて………」
 −−みせて………
 私に服を脱げと言っているのか。
 彼女のほうを見ると…黙って静かに頷いた。
「は、はずかしい…です…」
 思わぬ言葉が私から出た。そう。私はすでに“恥ずかしがっていた”のだった。
 でも…彼女がすでに脱いでいるのに、私に断れるわけがない。
 私もからだを起こし、恥ずかしながら………一糸纏わぬ姿になった。
「きれい………………、きれいだよ………セリオさん………」
 燐さんが私のからだを見て、そう呟いた。

 私は、件の『大砲実力主義』とやらで、体型もまた、日本人女性の平均且つ理想体型
をシミュレートして造り上げられた。だから、「機能美」というのがある意味備わって
いるのは、むしろ必然といえた。
 だがこれは、会社等の制服に合わせられるようにと、あくまで「汎用性」を重視した
結果であり、本来“他人”に見せるためのものではないはずだった。

 ………だが、そんな私を、燐さんは“きれい”だと言う。
 開発スタッフはさぞ喜ぶだろうが、今の私にそんなことは関係ない。
「り、燐さんの方が………きれいだと…おもいます………」
 私は、率直な意見を口にした。決して、お世辞などではない。
「ううん…そんなこと…ないよ………。自分に…自信を持って………」
 でも、燐さんはそう言うと、
 私を抱きしめ、軽く唇を重ねたあと、その柔らかな唇を…私の右胸にもっていった。
「ああっ…」
 私は思わず声を上げてしまう。
「ほら…ね。やっぱりセリオさんは“きれい”だよ………」
 燐さんが呟く。
 続けて燐さんの右手が、私の左胸を…ふにふにと揉みしだく。
 そして右胸の頂には…彼女の舌がちゅるちゅると這い回る。
 −−ふにふにふにふにふにふにふにふに
 −−ちゅるちゅるちゅるちゅるちゅるちゅるちゅるちゅる
「あ……ああっ……あはっ……」
 −−ふにふにふにふにふにふにふにふに
 −−ちゅるちゅるちゅるちゅるちゅるちゅるちゅるちゅる
「ああっ……あはっ……はぁっ……」
 彼女の的確な攻撃に、私は声を出さずにはいられない。
 あらぬ声を出し続けているうち、からだがどんどん熱くなり、胸の頂が…だんだん固く
なっていった。
「セ、セリオさん………ステキ………」
 燐さんも、私の胸を攻めつつ、それでも少しづつ興奮しているようだ。
 彼女のペースがだんだん速くなり………そして、左の頂をキュッとひねり、右の頂を
カリッと噛んだ。
「あはぁっ!!」
 ………………………………………………………………。
 瞬間、何が起こったのか分からなかった。
 強烈な刺激とともに、私の意識はどこか遠いところへ飛んで行ってしまったかのよう
だった。

 気が付くと、燐さんが私を見つめてくれていた。
「わ、私…いったい……」
「ステキだったよ。セリオさん♪」
 起き掛けに「ステキ」と言われても、なんのことだか分からない。
 私が困った顔をしていると、彼女は一言、
「じゃあ、さっきわたしがしたこと、今度はセリオさんがやってみてよ」
 と言って、今度はおもむろに私の頭を掴んで、自分の胸にもっていった。
 慎ましやかなふたつの膨らみが、小さくぴくぴくと震えているのが分かる。
「やりかたは…さっきみたいな感じで。覚えてるでしょ」
 燐さんは、なんだかあっけらかんとしている。震えている…はずなのに。
「は、はい。こんな感じで良いですか?」
 とりあえず私は、さっき彼女にされたように、目の前の胸をいじってみる。
 まず右手を彼女の左胸に添え、少しづつ円を描くように、さわさわと揉みしだく。
 そして右胸の頂に私の舌をもっていき、これも頂に円を描くようにして、ちろちろと
舐め始める。
「う、うん…、セリオさん……うまいよ………」
 気に入ってもらえたようだ。ということで、少しづつペースをあげてみる。
 −−さわさわさわさわさわさわさわさわ
 −−ちろちろちろちろちろちろちろちろ
「う…うっ……ううっ………ううっ………」
 −−さわさわさわさわさわさわさわさわ
 −−ちろちろちろちろちろちろちろちろ
「ううっ…うはっ……はあっ………はあぁっ………」
 燐さんが喜んでくれている。
 最初は薄い紅が入ったようだった白い肌もだんだんと紅潮し、少しづつ汗が滲んでき
ている。
 また、先程の私のように胸の頂もしこりをもち、ちょっと上向き加減につんっと尖っ
てきた。
 おそらく、これを“感じる”というのだろう。
 私みたいなロボットも含め、女性はみんなこのような状態になることができるのだろ
うか。
 もし機会があったなら、一度マルチさんで試してみたいところである。
「セ、セリオさん……セリオさ……ん」
 気がつくと、燐さんが私の名前を呼んでいる。
「り、燐さん…どうか…しましたか?」
「ち、ちがう…ちがう…の………、さ…さっき…みたいに……して………」
 どうやら、さっきの私の状態を再現してくれるらしい。
 私は言われたとおり、彼女の胸の左の頂をキュッとひねり、右の頂をカリッと噛んだ。
「あっ! はあっ! ああっ! ああああっっっ!!」
 瞬間、燐さんのからだが仰け反ったかと思うと、そのままふわぁ〜っと眠るように落
ちていった。
 その時の表情は、まるで天使のようだった。

 ベッドに横たわり、二人してまどろんでいると、少し経って、燐さんが夢から覚めた。
「………わかった?」
「え…なんですか?」
「さっき…わたしがイッたときの表情………、セリオさんも一回ああなったんだよ…」
 ふいに“あの”ときの感覚が蘇った。
 きもちよくって…ほんとうにきもちよくって……そして一気に天国に連れて行かれた
様な………“あの”感覚。
 そして、いま………燐さんが………自分を使って…再現してくれた………“あの”表情。
「は…はい………ス………ステキでした………………燐さん…」
「うん………今回初めてだったんだけど………“あの”時の表情って…他に表現方法が見
つからないような気がする…」
「は、はい…わかります………。私も自然と…言葉が出てきましたから………」
 表現方法はわからないけれど………つい出てしまった言葉。
 嘘・偽りなどではなく………ココロから紡ぎ出された言葉。
 それは…何物にもかえがたいものであると………そう思う。
 おそらくは、燐さんも…そう思っているのだろう。こちらを向いて、やさしい表情で
微笑んでいる。
 ………と、彼女がふいに、私の手を握ってきた。
「ね、セリオさん………もう一回………しよ………」
 もう一回。
 私自身に異議はないが、時計を見ると残り5分しかない。
「り、燐さん………もう…そろそろ………時間が………」
 −−彼女は聞いてくれなかった。

 燐さんが、3たび私の上に覆い被さる。
 彼女は軽く唇を重ねたあと、左手を私のあたまに回し、右手でからだぢゅうをまさぐる。
「あっ…あっ……ああっ……ああっ……」
 私がまた、あらぬ声を上げる。
「ステキだよ…セリオさん………」
 彼女はそう言うと、まさぐっていた右手を私の股間にまわし、そのわれめのなかに
そっと…中指を這わせた。
「ああっ! あああっっ!!」
 またも私は、強烈な快感に襲われた。
 燐さんはいったん指をはなし、心配そうな顔で私に聞いてきた。
「ごっ…ごめんっ………、痛かった…?」
「いえ…そうではなく…て、………わた…し………」
 私はそう答えると、彼女は嬉しそうに言った。
「そっか、もう感じてくれてるんだ………」
 と再び、燐さんの中指が私の反応を見ながら慎重に、その感じる部分に侵入してきた。
「あっ………はぁっ………ああっ………はあっっ………」
「セ…セリオさん………いいの?………」
 燐さんが私の喜ぶ顔を見て、わかりきったことを聞いてくる。
「は…はい……きもちいいです………………」
 すると燐さんは、心持ちからだを左側にずらし、右足を私の足の間に割り込ませて言った。
「ね……セリオさん……わたしにも……ちょうだい………………」
 どうやら、彼女のほうからせがんできたようだ。
 私は見よう見まねで、彼女のその部分に右中指を這わせた。
 なにやら、汗とは違うもので濡れているその中に、とても小さな突起を見つけた。
「ああああっっっ! いっ…いたいっ!!」
「!!」
 いきなり燐さんが痛がってしまった。私は咄嗟に指をはなす。
「はっ………セ…セリオさんっ………、いきなりは………だ…だめ………」
 どうやら、その突起がいちばん彼女が感じる部分のようだ。
 私は、その突起を避けるようにして、もう一度指を這わせた。
「そ…そおーっと………しずかに…おねがい……」
 彼女に指示されるまま、私は指を這わせ続けた。
「はぁっ……あぁっ……いいっ………いいよぉぉぉっっ………」
 そのうち彼女の指も、私のあの部分でゆっくりと円を描きだした。まるでなにかを避
けるかのように……。
「あっ……ああっ………りっ……りん……さ…………ん」
 と、ふたりは時間も忘れ、お互いの大事な部分を愛し続けた。
「はっ……はぁっ……ああっ……あああっ……あああっ……いっ……いいっ……
いいっっ……」
「あっ……あぁっ……ああっ……はああっ……はぁんっ……はっ……いやっ……
いやぁっ……」
 さすがに、わけがわからなくなってくる。そろそろとばされてしまいそうだ。
「せ……せりお……さんっ……わ……わたしと……わたしとっ……いっしょにぃー……」
 燐さんもそろそろ限界のようだ。私はあえて、さっき燐さんが痛がったところを摘ん
であげることにした。
『きゅっ』
「ああっ! ああああああああああああっっっっっっ!!」
 彼女は思いっきり身を反らしたあと、絶叫と共に夢の中に落ちていった。
 ただその際、いままで円を描いていた私の部分の『中央の突起』も、共に連れ去った。
「んあっ! ああああああああああああっっっっっっ!!」
 結局私も一緒に、彼女の夢の中に引き込まれることになった…………。

 −−−−−− 

 気がつくと、かなりの時間が過ぎていた。
 私は先に、職員室に待機していた柊先生にお礼を言い、保健室にとってかえす。
 そして、足腰のおぼつかなくなった燐さんを、校門外で待機しているお迎えのリムジン
に連れていった。
 さすがに運転手さんには驚かれたが、燐さんの心配しないでとの言葉に一時納得し、
そして私はバス停まで彼女に送ってもらうことになった。
「最後に面倒掛けちゃったね♪」
 燐さんが小さく舌を出して微笑んだ。そして、そっと私の手を握り…………、
「ステキな思い出、ありがとう」
 満面の笑顔でそう言った。

 車だと、バス停にはあっという間に着いてしまう。
 ここで私は、あるモノを思い出した。鞄の中の『件の品』だ。
 私は、運転手さんにバス停の少し手前で車を停めてもらい、降り際にその“DVDディ
スク”を燐さんに手渡した。
「………これ…は?」
「実はこの中には『私』が入っています。今日学校で授業を受けずに、私のここ数日す
べてのデータをこれ一枚に収めておきました。これがあれば、私の量産型が発売された
際、簡単なインストールで『私』が復活するはずです。もっとも、今日の図書室以降の
データは入っていませんが…………」
「セリオさん…………」
「では、燐さん、しばらくのお別れです。…………また、お会いしましょうっ」
 私は、自分を吹っ切るように一気に捲し立てると、車を降り、一礼して車を見送った。
 私が泣いているところを……燐さんに見られたくなかったからだ。
 燐さんも目が潤んでいるようだったが、付き合うとお互いに引きずられそうだったので、
あえて逃げるように車から降りたのだった。


 バス停では、マルチさんと「浩之さん」がお別れのあいさつをしているところだった。
 邪魔をするのは気が引けるが、さすがにあいさつを長引かせるのは、私の場合同様残酷
な気がする。
 −−私は敢えて、ふたりの間に割って入った。

 バスが来て乗り込んだあとも、マルチさんはさっさと最後列に陣取ると、涙を流しな
がら「浩之さん」にいつまでも手を振っていた。

 ======  ====== 

 4月20日、日曜日。

 結局、研究所に戻ったあと、マルチさんは「浩之さん」の家に行き、一夜を共にした
ようである。
 私は次の朝にタクシーで迎えに行かされ、マルチさんを拾ったあと、学校での想い出
に浸りつつふたりで泣いた。
 そして…………研究所にて、揃って機能を停止させられ…………データを抜き出され
て、しばしの眠りにつくこととなった。

 ======  ====== 

 −後日談− 

 その年の2学期、燐さんは、隣の学校に転校を果たした。以前マルチさんがテスト通学
した学校らしい。

 前々からわかっていたことなのだが、燐さんの病気は実は『ココロの病』で、環境が
変われば回復の余地があるはずだった。ところが、病院長である祖父が慎重を期すぎた
ために、判断が遅れに遅れたそうである。
 結局、燐さんが“共学”に行きたいと強く言いだした事と、養護の柊教諭の勧めもあ
り、もともと学力が優秀だったことも手伝って、燐さんはあっさりと編入試験にパス、
2学期から以前マルチさんのいた学級に編入を果たしたのだった。
 当然ながらその後、燐さんには友達がたくさん出来、以前のようにすぐに体をこわす
ことはなくなった。
 だが、彼女の家の自室には、常に学習机の上に1枚のDVDディスクが飾られ、
『あるじ』の帰りを今や遅しと待っているのであった。

 ちなみに、HMX−12型及び13型の量産化計画は、未だにめどが立っていない……
……。

 −了−


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