(Leaf Visual Novel Series vol.3) "To Heart" Another Side Story

for 「本日のお題」

とある夏の一夜

Episode:来栖川 綾香

Original Works "To Heart" Copyright 1997 Leaf/Aquaplus co. allrights reserved

written by Holmes金谷




 − 1 −

「え〜、かき氷〜、かきごおりはいらんかね〜」

 夏。
 日差しは容赦なく照りつけ、じりじりと焼き付ける様だ。
 ここの海水浴場もその暑さから少しでも逃れようと考えた人達でごった返している。

「かき氷、おいしいかき氷はいらんかね〜。メロンにストロベリー、レモンにライム。
・・・かき氷はいらんかね〜」

 そんな中を、オレはかき氷売りをしていた。
 ・・・とほほ〜。

 何が悲しくて、こんな暑い中でかき氷をしなくてはいけないかと言うと・・・。


 話は2週間ほど前にさかのぼる。
 不覚にもオレは、仕送りで送ってもらったばかりの全財産を落としてしまったのだ。
 それに気がついたのは、銀行から金をおろして、食料を買いにスーパーに入った時だ。
 あわてて心当たりを探してみたが、当然のごとく見つからない。
 途方に暮れて歩いていると・・・。
「あら、浩之じゃないの。久しぶりね」
 どこかで聞いたことがある声がオレを呼びとめた。
「?」
 振り返ると、そこには寺女の制服に身を包んだ綾香とセリオが居た。
「よう」
 力なく手をあげて、二人のほうに近寄る。
「−−こんにちわ、浩之さん」
 セリオがあいさつをしてきた。
「・・・ああ」
 しかし、現状を考えると、どうにも返事にすら力が入らない。
「・・・どうしたの?」
 それを察知したのか、綾香が尋ねて来た。
「実は・・・」

「生活費全部、ねぇ」
 話を聞いた綾香はそう言うと、腕組みをした。
「−−よろしければ、お探しするのをお手伝いしましょうか?」
 セリオが心配そうな顔を・・・したかどうかは解らないが、尋ねて来た。
「あ〜、いや、いいわ。これだけ探して無いんだ。どうせ誰かに拾われているさ」
「でも、もうすぐ夏休みでしょ?どうするの?」
 綾香が尋ねてくる。
「そう、それなんだよ、最大の問題はよ。今さら落としたからもう一度送ってくれなんて、
絶対に言えないしな〜。・・・はぁ」
 出てくるのはため息ばかり。
 ・・・あ〜、いかんいかん。どうも思考がネガティブな方向にシフトしてしまう。
 ここは一つ、何かしらの解決策を考えないとな。
 そんな事を考えていると。
「・・・そうだ。浩之、あんたの事、なんとか助けられるかもよ?」


 そうして出てきた話というのが、この「かき氷売り」のバイトと言う訳だ。
 なんでもこの海水浴場は来栖川の系列会社が運営しているリゾート地で、そのため、と
言う訳ではないにしろ、夏は人手がどうしても足りなくなる。
 そこで、いろいろなバイトを募集していたうちの一つを綾香が紹介してくれたという訳
だ。

 条件は・・・と言えば、これがまたかなり良い。
 3食付いて、寝泊まりする所は系列会社の方で用意してくれる。
 しかも、暑いからと言う事で飲み物は飲み放題。仕事が終わったあとなら海水浴をして
も良い。
 これほどまでに条件に恵まれたバイトはそうそう他には無いだろう。
 オレは、二つ返事でそのバイトを受けた。
 そして、その考えが甘かった事をオレは後で思い知ったのだ。


 ・・・しかし、かき氷売りがこんなに辛いものだとは思わなかった。
 日差しを避けるものは立ててある安物っぽいビーチパラソルのみ。無論、湿度も高いか
ら、飛ぶようにかき氷は売れるのだが、売っているこっちの方は海の中に入れる訳でも無
く、したがって定期的に飲み物を補給しないと脱水症状になってしまう。
 また、昼間の暑さと疲れで、夜はすぐに寝てしまっていたので、海水浴なんて出来る訳
も無い。
 ・・・しかしまあ、飯の心配はしなくてすんだから、まあいいとするか。


「え〜、かきごおりぃ〜!」

 こうして、過酷な1週間は過ぎていった。


 − 2 −

 約束の最終日が「やっと」やってきた。
 そしてその最終日、綾香がバイト先にやって来た。
 涼しげな格好をしていて、実にうらやましい・・・いやいや、こっちは仕事中だ、うら
やましいなんて言ってられない。
「浩之、バイトはどうだった?・・・って、あなた少しやせたんじゃないの?」
 人の顔を見るなり綾香はそんなことを言って来た。顔に笑みが浮かんでいるように見え
たのは多分気のせいではないだろう。
「やせたっつうよりは、やつれたと言った方が正しいかもな」
 そう言って、肩をすくめてみせる。
「ふふっ、まだ冗談を言うだけの元気はある訳ね」
「ほっとけ。それより、バイト代少しは弾んでくれるんだろうな?」
 まあ、これだけの好条件でバイトを紹介してくれたんだ。あんまり期待せずに何となく
聞いてみた。

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

「・・・お、おいおい、マジかよ?」
「あら、あたしがいつふざけていたかしら?」
 バイト代は当初示された額の2倍はあった。しかも、明日一日はここの海水浴場で遊ん
でいっていいと言う話だ。
「この辺が庶民と金持ちの違いってやつかねぇ?やれやれ、格の違いって奴はよぉ」
 わざとらしく肩をすくめてみせる。
「何くだらない事でひがんでるのよ。それよりもさ、明日は私も泳ぎに来ていいかな?」
「は?」
 このお嬢様はいったい何を言いだすかと思ったら。
「それはオレの決めることじゃないと思うが?」
「じゃあ、決まりね」
 気のせいか綾香はうれしそうにそう言った。
 ・・・何だかなぁ。


 そして次の日。
 約束の時間に綾香はやって来た。しかも、その時点で既に水着に着替えて、である。
 何とも準備の良い事で。
「さーて、泳ぐわよ〜!」
 ・・・しかも、実に楽しそうである。
 オレは・・・と言えば、昨日までの疲れがあって、あまり泳ぐ気がしない。
 と言う事で、綾香には悪いが今日は砂に埋まっている事にしよう。
 そう考えると、さっそくオレは穴を掘って首だけ出して埋まった。
「ねぇ、浩之も泳ごうよ・・・って、何やってるの?」
 軽く泳いできたらしい綾香がオレのほうへとやって来た。
「見てわからんか?埋まってんだけど」
「そうじゃなくて!せっかく海水浴に来たのに泳がないの?」
 腰に手を当てて仁王立ちで綾香が目の前に立ちはだかっている。
 水着だから、当然体のラインとかも丸見えである。
 ・・・こう見ると、やっぱり綾香の体って、格闘技やっているせいもあると思うけど、
いいスタイルしてるよな〜。
 ・・・って、オレは何を考えているんだ!?
 軽く頭をふって、先程までの考えを頭から追い出す。
「何か昨日までの疲れが取れなくてさ、取り敢えず今日はおとなしく埋まっておくよ」
「う〜ん、そうか。まあ仕方ないわね。じゃあ私はもうひと泳ぎしてくるから」
 そう言うと、綾香は波打ち際まで走っていった。
 ・・・・・・。
 そう言えば、綾香は格闘技とかやっているから当然水泳とかも大丈夫だと思うけど、芹
香先輩は泳げるのかな?

 そんなことを考えながら、その日はずっと泳がずに埋まっていた。
 ・・・少しもったいなかったかな?


 − 3 −


 その夜の事。
「明日は家に帰るだけだから・・・と」
 帰るための荷物をまとめたりしていた時。
 こんこん。
 誰かが部屋をノックした。
「?」
 時計を見ると、9時を回っている。
 誰だ、こんな時間に?
「は〜い、今出るよ」
 かちゃ。
 ドアの鍵をあけて、扉をあけた。
「は〜い、お元気?」
 そこにはTシャツにひざのところで切ったジーパンというラフな格好の綾香が立ってい
た。
「よお、どうしたんだ、こんな時間に?」
「浩之、今、ひま?」
「ひま?・・・ん〜、荷物のまとめはほとんど終わっているし・・・まあ暇だと言えば暇
かもな」
「よし、じゃあこれから肝試しに行かない?」
「きもだめしぃ?」
 いつも思うことだが、このお嬢様には驚かされっぱなしだ。・・・いや、芹香先輩とど
うしても対比してしまうせいか、一言一言がすごく新鮮に感じられることがある。
 ・・・まてよ。
 冷静に考えて見たら、「お金持ちのお嬢様」「エクストリームのチャンプ」と言う点を
除けば、年相応の女子高生ってやつじゃないか?
「どうしたの?黙りこくっちゃって。・・・ははぁ、さては恐いな?」
 綾香はそう言うと、意味ありげな笑みを浮かべて腕を組んだ。
「おいおい、誰が恐いなんて言ったか?」
「じゃ、決まりね」
 ・・・まだ答えて無いんだけどな。

 こうして、何が何やら解らぬうちにオレは綾香と肝試しに行くことになってしまった。


「で、肝試しに行く所って言うのはどこにあるんだ?」
 とある道を歩きながら、オレは隣を歩いている綾香に聞いてみた。
「この先に、うちの所有の古い洋館があるの。5年ほど前までは一応ペンションか何かと
して使っていたらしいんだけど・・・。今じゃ誰も住んでいなくて、管理する人も居ない
から荒れ放題になっているのよ」
「なるほど、古ぼけた洋館か。肝試しにはぴったりのシチュエーションだな」
「でしょ、でしょ?」
 実にうれしそうに答える綾香。
「しかし、なんでそんなになるまで放っておいたんだ?」
 何となく浮かんだ疑問を聞いてみた。
「さあ・・・そこまで詳しいことはよく知らないのよ。だけど、今年の秋には取り壊すみ
たい」
「ほほう。じゃあこの肝試しがその試し納め・・・といった所かな?」
「そうね」

 やがて、目的の洋館が見えてきた。
 確かにかなり古ぼけているうえに、あちこち崩れかけていて、さらにツタとかが絡みつ
いていて、これ以上にない雰囲気を出している。
「こりゃあまた・・・たいしたもんだな」
 思わず感心したようにオレはつぶやいた。
「今さら帰ろうったって駄目よ?」
 ニヤニヤと笑いながら綾香がそう言った。
 ・・・やれやれ、このお嬢様と来た日には。
「へえへえ、わかりやしたよ。・・・ところで、どこから入るんだ?」
 見たところ、洋館は門が閉じられ、そこにはご丁寧に「立入禁止」の看板まで掲げてあ
る。
 壁は・・・と言うと、これまたレンガ造りで相応に高く作られており、おまけにその上
には鉄のレリーフまで置いてあると言う代物。
 とてもじゃないが登れそうにはない。
「こっちよ」
 と、綾香が手招きをして、裏のほうに回る。

 裏に来ると、そこには勝手口なのか、小さめの鉄の扉が取りつけられていた。
「これ、実は開くのよ」
 そう言って綾香は軽く扉を押した。
 ギギ〜・・・。
 これまた相応な音を響かせて、扉が開く。
「・・・意外と管理がずさんなんだな」
「まあね。でなけりゃ、5年もほったらかしにしないしね」
 そう言いながら綾香は開いたすき間から中に入っていった。
 オレもその後を追う。
「・・・ほほう」
 中は予想通り、荒れ放題になっていた。かつてはきちんと整理されていたであろう庭だ
ったらしき所も、今では雑草が生い茂り、見る影もない。花壇とかであったものも崩れて
おり、さらにどこから舞い込んできたか、ゴミが大量に散乱していた。
「こうなると、哀れなもんだな」
 思わずつぶやく。
「そうね。さ、いきましょ」

 洋館そのものの裏口も扉があいていて、すんなりと中に入ることが出来た。
 ここまで来ると、偶然開いていたというより、開けておいたと言った方が正しいのだろ
うが、まあそんな野暮な詮索をしても仕方ないので黙っていることにした。
「さて、中まで入ったが、一体どういうふうに肝試しをするんだ?」
 裏口から入ったところに有るホールで、オレは綾香に聞いた。
「ここ、作り的にはそんなに複雑にはなっていないのよね。で、2回の一番奥にここで一
番広い部屋が有るの。そこまで行って帰ってくる事にしない?」
「まあ、立案者は綾香だし、オレは別にかまわないが」
「じゃ、決まりね」
 そう言うと、綾香はオレの後ろに立った。
「さあ、ではどうぞ♪」
「ではどうぞ・・・って、何だ一体?」
「あら、私が肝試しする訳じゃなくて、浩之が肝試しをするからに決まっているじゃな
い」
 ・・・やられた。


 − 4 −


 古ぼけた廊下。埃が高く積もっており、歩くと足跡がつくくらいだ。
 しかも、夜だから、と言う訳ではないがかなり暗く、持ってきたライトだけでははっき
りと見渡すことはできない。
「どうしたの、さっきから黙っちゃって?ははぁ、さては恐いな?」
「アホか」
 とは言ったものの、無気味なのは事実だ。
 誰も居ないと解ってはいるのだが、この独特の雰囲気はいつ味わっても気分の良いもの
ではない。
 まあ要するに、「嫌いじゃないが苦手」って奴だな。
 そんなことを考えながら慎重に進んで、2階まで上がってきた。
 と、その時。

 かさかさかさ・・・。

「? おい、綾香、今なんかこすれるような音がしなかったか?」
「え?私には聞こえなかったけど?」
 一瞬だが、確かに聞こえた、何かがこすれるような音。
 そんなオレの様子を見てか、綾香も身構えつつ横に並ぶ。
「・・・何か居るのかしら?」
「さあな。いても虫とかだと思うんだけど、一応用心に越したことはないからな」
 しばらくそのまま、その場でじっとしていたが、結局その後音は聞こえてこなかった。
「どうする、浩之?このまま引き返してもいいけど?」
 綾香が尋ねてきた。
「・・・今さら戻るのも何かしゃくだしな・・・よし、行くか」
「そう来なくっちゃ」

 そして、目的地である一番大きい部屋、の前に着いた。
「さて、なんとか無事に着いたか」
 そう言いながら、ドアのノブに手を伸ばした瞬間。

 かさかさかさかさ。

 先程よりも大きく、しかもかなりはっきり聞こえてくる音。
「・・・ここか?」
「のようね」
 耳をすましながら、中の様子をうかがう。
「虫かな?にしては、かなり大きい音だけど」
「取り敢えず、これも肝試しの一環ということで、浩之、開けて見てよ」
 いわれて、頷くオレ。
「・・・じゃあ、開けるぞ」
 ごくっ。
 つばを飲みこんで、覚悟を決めた。

 ぎぎ〜。

 扉はきしんだ音を立てて、ゆっくりと開く。
 完全に開いてから、中をライトで照らした。そこには・・・。
「げっ!」
 何とそこには、ものすごいすさまじい数のネズミがいたのだ。
 一匹二匹なら大した事は無いのだが・・・こう多いと、さすがに無気味だ。
 しかも、全部のネズミがこちらを見ている。
「ねえ、浩之?何が居たの?」
 綾香の位置からは見えないらしく、後ろから綾香がつついてきた。
「ほれ」
 少し横を開けてから、中を示してやった。
 と、次の瞬間。
「・・・え?・・・ね、ねず・・・・・・嫌〜っ!!!」
 突然、綾香が悲鳴を上げた。
 と、それまでじっとしてたネズミが綾香の悲鳴に反応して、こちらに近寄ってくる。
「げっ!な、何だよいきなり大声出して!」
 オレは綾かに文句を言った。ところが、肝心の綾香は悲鳴を上げるだけで、オレの背中
のほうですっかり縮こまっている。
 ・・・なんてのんきに状況分析している暇はない!ネズミはすぐそこまでやってきて、
今にも飛び掛かってきそうだ。
「逃げるぞ、綾香!」
「あっ!」
 オレはそう言うと、綾香の返事も聞かずその手を握って、今まで通ってきた道を走りだ
した。

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「ふぅ、ふぅ、はぁ・・・」
 洋館の外に逃げだし、さらに泊まっている旅館が見えるところまで走ってきたところで、
やっと立ち止まった。
「はぁ、はぁ」
「ふぅ、ふぅ」
 しばらくその場にしゃがみこみ、二人とも息を整える。
「・・・やれやれ、しかしあんな大量のネズミとはなぁ。しかもこっちに寄って来るなん
て。オレ達は餌かっつ〜の」
 いつもの調子で軽口を叩いた。
「・・・・・・」
 ・・・が、綾香から反応がない。
「? どうした?」
 綾香の顔をのぞき込んだ。
「・・・・・・ぐすっ」
「お、おいおい」
 何と、綾香は泣きべそをかいていたのだ。
「おい、どうしたんだよ?」
「・・・私、ネズミだけはだめなの」
「はぁ?」
 ネズミが嫌い?
 おいおい、本当かよ?
 普段は恐いものなんてありませんって顔してるのに。
「昔、ちょっとした事件があって、それから、ね。ちょっとトラウマになっちゃって」
 そういいながらも、綾香の目からは涙が流れつづける。

 ・・・・・・。

 ぐいっ。
「え?」
 オレは綾香の手を取って立ち上がらせた。そして、体に引き寄せる。
 そのまま黙って綾香を抱きしめた。
「え!?ひ、浩之!?」
「大丈夫だ。もうネズミは来ない。安心しろ」
 そう言ってオレは優しく綾香を抱きしめてやった。
 言いながら、優しく頭をなでてやる。
 なでなで、なでなで。
「・・・・・・」
 綾香からは、夏を思わせるいい香りがしていた。
 なでなで、なでなで。
「・・・うん。ありがとう」
 そう言って、綾香はそのままオレに体を預けてきた。

 そして、オレはしばらくの間、綾香の頭をなでつづけてやった。


 − 5 −


「しかしまあ、ネズミが恐いとは、なかなかかわいいところ有るじゃん」
「こら!その話はもうしないって約束だったでしょう!?」
 夏休みも終わり、2学期が始まってから数日後。
 オレは綾香とセリオと一緒に帰り道を歩いていた。
「−−そんな事があったのですか?綾香様、危険な事は止めて頂かないと、万が一ケガで
もなさったら・・・」
「あ〜、ごめんなさい、セリオ。この事に関しては私が迂闊だったわ。・・・だから、こ
の事は秘密にしてくれない?ね?」
 手を合わせてセリオに頼み込む綾香。
「−−しかし、一応報告しないといけません。命令ですから」
「セリオ、ちょっとおいで」
 綾香がセリオの手を引っ張って、電柱の影のほうに連れていった。
 何だぁ?
 何やら綾香がセリオに耳打ちすると、セリオは明らかに顔を赤くした。
 おいおい、セリオが顔を赤くするなんて、いったい何を話したんだ、綾香は?
 やがて、しぶしぶと言う感じでセリオが頷いて、綾香は上機嫌で戻ってきた。
「おい、いったい何を話したんだ?セリオが顔を赤くする何て久しぶりに見たぞ?」
 戻ってきた綾香にオレは尋ねた。
「え?うふふ、な・い・しょ!」
「なんだよ、そりゃ?」
「いいからいいから。ま、もてる男は辛いって事ですよ、浩之君!」
 そう言って、背中を思いっきりたたいて綾香は駆け出していった。
「・・・おい、一体何を言われたんだ?」
 一応、戻ってきたセリオにも尋ねた。
「−−そ、それは秘密です。・・・はぁ、綾香様にも困ったものです」
 そう言って、セリオは綾香を追いかけていった。
「・・・何だよ、一体?」
 呆然としながら、二人を追いかけるオレ。

 追いついたオレに、綾香はにっこりと微笑んでこう言った。
「浩之、またいつか肝試ししようね!」


 − 終わり −





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