(Leaf Visual Novel Series vol.3) "To Heart" Another Side Story

O.B.

Episode : 保科 智子

written by いたちん



ピンポーン
玄関のチャイムが鳴る。
それからほとんど間をおかずにドアの開く音がする。
彼女ははじめからチャイムで彼が起きてくるとは思っていない。
経験上その可能性はかなり低い。
ただ、形だけ礼儀として鳴らしているのだ。
そのまま家にあがり、階段をのぼる。
そして、いつも通りに部屋のドアを開けて、
「浩之ちゃん、朝だ・・・・」
あかりの声が止まった。
その部屋の中の状況はいつも通りではなかった。
浩之が寝ているその隣、同じベッドで見知らぬ女が寝ていた。
服は一応着ているが上下一枚づつはおってるだけみたいなものだ。
あかりは、呆然として立ちつくしている。
(なんで?どうして?)
頭の中は混乱している。
「ん・・・」
浩之が目を覚ました。
あかりの声や階段を上がる音などで眠りが浅くなったのだろう。
部屋の入り口の方にあかりの姿を見つけて声をかける。
「よ、あかり」
だが、浩之はあかりの様子が変なのに気づいた。
あかりの視線が自分に向かってない。
浩之はあかりの視線の先、ベッドの自分のとなりに目をやる。
「うおっ!!」
そこにいた存在に気づいてあわてて後づさる浩之。
・・・
しばらくの間があった。
浩之は昨日のことを必死で思い出そうとしていた。
あかりは相変わらず固まったままだ。
頭がはっきりしてきた浩之はその人物がだれか、やっと思い出した。
「おい、いいんちょー。おきろよ!!」
その言葉にあかりが反応する。
「いいんちょ?」
「ああ、あのいいんちょーだ。保科だよ」
あかりも、起きたばかりの浩之にもわからなかった。
いままでメガネをはずしたところを見たことはなかったから。
浩之にしても昨日初めて見たのだ。
智子は目を開けて上半身を起こした。
「藤田君、おはよ」
当たり前のように言う。
「なんで、いいんちょが俺のベッドに入ってるんだよ!!」
「もう、藤田君。昨日の事覚えてないんか」
浩之はその言葉にビクッとなって、もう一度記憶を探り直す。
ちらりと見たあかりの視線が恐い。
(え−っと、昨日、雨でびしょぬれの委員長に会って・・・
うちに入れて・・・結局リビングで寝させたはずだ!)
「おい、いいんちょー、1階で寝てたはずだろうが。俺の記憶に間違いはないぞ」
きっぱり言い切った。
はっきりと思い出した。間違いない、自信を持って言える。
「なんや、やっぱり覚えとらんのか。その後や、その後の事」
再び自信がゆらぐ。
「浩之ちゃん・・・」
「ん、神岸さん?おったんかいな」
「ちょちょっと、まて。あかり。俺は何もしてない。委員長を下で泊めただけだ」
それすらも良くないことなのだろうが、浩之はあまり気にしていなかった。
その点はあかりも納得していた。
そういうのは浩之ちゃんの「優しさ」として勝手に理解していた。
「あ、もう学校いかな。私は先下りるで」
そう言って智子はあかりの横を小走りに駆け抜け階段を下りていった。



(ふう、こんなもんか)
リビングで一応着れる程度にはなっている服を着ながら智子は心の中でほくそえんだ。
(いまごろ上では修羅場やろうな)
智子自信もここまでうまくいくとは思っていなかった。
あかりが部屋まで浩之を起こすために部屋まで入ってきたことはいい意味で誤算だった。
そう、昨夜智子は浩之のベッドに忍び込んだのだ。
さらに言えば、雨に濡れたのも浩之の家に泊めてもらうためにわざとしたことだ。
すべてが、計画通り以上だった。
(ついでだから、藤田君ももらおうかな・・)
そう思った時、2階から2人が下りてきた。

「保科さん。なんで浩之ちゃんのベッドに勝手に入ったの?」
下りて来たあかりが厳しい目つきで智子をにらむ。
(う、こんな神岸さんみたことあらへん)
「ちがう。藤田君はおぼえてへんかもしれんけど、藤田君から誘われてベッドに入って
・・・その・・・やったんやで」
智子はあかりの迫力に対抗するためについ『やった』という言葉を使ってしまった。
良心の呵責からか、今まで直接それを示すような言葉は使ってなかったのだが・・・
「それは嘘でしょ。わかってるよ。なんでそんな嘘つくの?」
あかりは動じない。
その顔は信じようとしているのではなくはっきりと確信している顔だった。
(なんで、なんで嘘だってはっきり信じとるんや?)
「それが嘘だってのはさっき上であかりに証明したからな、いいんちょー」
智子の疑問に答えるような浩之の言葉。
その時あかりはにらむのをやめていた。
かわりに顔中を真っ赤にして顔を下の方に向けている。
(なんや証明ってのは?神岸さんが真っ赤になるなんて。さっき上でなにやったんや?)
智子は返す言葉が無くなっていた。
すでに自分の敗北を理解していた。
「私、先に学校いくわ」
そう言って智子は鞄をつかんでリビングから逃げるように飛び出した。
靴をはき、玄関のドアを開けて走り去った。
(まけへん。次こそはまけへん!)
そして心の中で再戦を誓った。
「幼なじみカップルはみんなぶち壊してやるんや〜」







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