−よ! いま帰り? よかったら一緒に帰らねえか?
学校からの帰り道、偶然出会ったあの人が言う。
「…あなたと帰る理由はないわ」
何言うとるんや! 折角藤田くんが誘ってくれとるのに?
−そっか。じゃしょうがねぇな。ま、今度までに理由考えとくぜ。
× × ×
穏やかな休日の午後。買い物に出かけたウチに、また藤田くんが声をかけ
てくれた。
−なあ、よかったらいまから喫茶店にでも行かねえか?
「…そんなことをしている暇はないの」
なんでや!? 自分の部屋に帰ったって別にする事があるわけちゃうのに?
−ちぇ、じゃあまた暇なときにつきあってくれよ。
「…ええ」
自分から断ったんやろ? なんでそないな寂しそうな顔するねん!?
× × ×
藤田くんのデートの誘いに珍しく応じたウチは、ふたりで繁華街を一緒に
歩いとった。偶然目に止まった宝石店の前で立ち止まる。
「…宝石店ね。こんな石ころに価値を見出す人たちの気がしれないわ」
相変わらずカワイ気のない女やなぁ! デートのときまでそんなコト言わん
でもエエやろが。
−はは、ま、オマエは、そのままでも十分かわいいからな。
「な、何を言うの。そ、そんな風におせじを言われるのはあまり好きじゃ
ないわ」
フフフ、頬を赤らめながら言うてもあんまり説得力ないで。
× × ×
クリスマスパーティーの席上。バッタリ、藤田くんと出会う。
「…あなたも来てたのね」
ホンマは期待しとったクセに。
「…ほかに行くところがあるの。これで失礼するわ」
ウソや!! ホンマはもっと彼のそばにいたいクセに。
それでも、ダンスのパートナーとして彼が現れたときは、さすがに気持ち
を押さえられへんかった。
「…あなたがパートナーなのね。良かった……」
その後、ふたり一緒に会場から帰る途中、この街に37年ぶりの雪が降って
きたんは、ウチが珍しゅう素直になったせいやろか?
× × ×
キィーンッ!!!
鋭い金属音を響かせながらウチの細剣があの人の段平にはじきとばされる。
「私の負けよ! 殺しなさい!!」
あの人の手にかかって死ぬんやったら本望や。その時は本気でそう思た。
−バカ言うない。オレにオマエが殺せるワケねえだろ!
そんな…そんな嬉しい言葉かけんといてぇな。ウチは本気でアンタを殺そう
とした女なんやで?
× × ×
「なあ、藤田くん、ウチて、そんなこの娘に似とるかなぁ?」
すっかり入り浸ってる藤田くんの家のリビングで、ゲーム機のコントロー
ラー手にしたまま、ウチは振り返った。
「おー、少なくともオレにゃあ、そう見えたぜ。知り合ったころの委員長
そっくり、って感じだ。最初妙にツンケンしてる所とか」
風呂上がりの一杯とばかりに、冷蔵庫からビールをとり出しながら、藤田
くんが笑う。
「親しくなるにつれドンドンかわいくなってくる所とか、な」
「ア、アホ。まだ飲む前からそんな恥ずかしいコト、よう言えるな」
まったく……そやけど、最近妙にこないな恥ずいセリフが増えたと思たら、
まさか恋愛シミュレーションの影響やったとはなぁ。
ゲーム好きやとは知っとったけど、ここまでストレートに影響受けるタイ
プやとは思わんかったわ。
まあ、そんな歯が浮くようなセリフでも、惚れた男に言われると嬉しゅう
感じるのが女のサガやけどね(*^^*;
<HAPPY&SWEET END>