(Leaf Visual Novel Series vol.3) "To Heart" Another Side Story

雨の日

Episode : 姫川 琴音

written by NETTLE





くーん、くーん・・・・
彼女の足下に子犬がまとわりついてくる。餌が欲しいのだ。
彼女は足を踏まないように気を付けながらキッチンへ餌をとりにいった。
部屋の隅に片づけてあったプラスチック製の容器にドライフードを入れてやる。すると
その音を聞きつけて子犬は彼女の周りを嬉しそうに走り回った。
彼女はそんな様子を微笑ましく思いながら容器を床に置いてやった。
するとピタリと容器の前に座り、ジッと主人の合図を待つ。
よし、の合図と共に子犬は餌にむしゃぶりついてゆく。
そんな様子を見ながら窓の外に目を移した。
梅雨に入ったせいだろうか、雨がしとしとと降っている。
この仔が来た日もこんな日だったっけ・・・目の前の仔を見ながらそんなことを想いだした。

両親とも仲が悪く、学校でも孤独だった日々。
それは自分が生まれ持った能力のせいだった。
誰を恨むこともできない、文字通り宿命を背負わされてきた。
全てが彼女を忌み嫌い、彼女も全てを忌み嫌った。
そんな時に彼と出会った。
彼は周囲の偏見と彼女の思い込みであった『超能力』の真実を見つけだしてくれた。
彼は彼女のために文字通り体を張って真実を見つけてくれたのだ。そんな彼の行動がす
ごく嬉しく思った。
今もその想いは変わらない。彼は今も優しく自分に接してくれた。
能力のことが無くてもきっと彼に惹かれていったと、そう思う。
彼は誰にでも優しく、真剣になってくれる。
そんな彼の周りの女の子に妬けるときもあるが、それも恋の一つだと思えばどうと言う
ことはない。
彼女は今が一番幸せだった。

気が付くと子犬が自分を見上げていた。
そのまんまるな目でジッと見上げられると何かくすぐったいものを感じてしまい、小さ
な頭を軽く撫でてやった。
窓の外では雨がしとしとと降り続けている。そんな外を見ていたら急に彼の声が聞きた
くなった。
そして受話器を取り、ダイアルしてみる。
数回の呼び出し音の後、彼が出た。
「あの・・・・姫川ですけど・・・・」
満腹になった子犬が彼女の足下で小さく寝息を起てていた。

【了】







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