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(Leaf Visual Novel Series vol.3) "To Heart" Another Side Story

Noあかりdays

Episode : 姫川 琴音

written by いたちん




その日、彼女・・・琴音ちゃんは普段よりも早起きだった。
起きるとすぐにキッチンで弁当を作り始める。
2つの・・・

理由は昨日の夜の突然の電話にある。
電話の内容は「神岸あかりが急に風邪をひいて明日学校を休むだろう」というものだった。
誰だって普通いきなりそんな電話がかかってきたら変に思うだろう。
彼女もそうだった。
しかし、次の電話の言葉でそんなものはどこかへ吹っ飛んでしまった。
『って事はさ~、ヒロは明日は久しぶりに昼飯はパンなのかしらね~』


数週間前の食堂での浩之との会話。
その時、今度弁当を作ってあげる、と約束したのだ。
でも、その今度の機会が無いうちに・・・彼は幼なじみの神岸あかりと付き合い始めた。
浩之があかりに毎日弁当を作ってきてもらうようになったので琴音ちゃんの出番は無く
なってしまった。
そこへ昨日の電話。
別に、ここから奇跡の大逆転をねらって・・・いないとは言い切れないけど・・・
ただ、約束は果たしたい。
ただ、私の作った弁当を食べてほしい。
そんな思いだった。


「よし、できた」
弁当箱のふたをしめてつつむと自然と顔が緩む。
ふと、数時間後の状態を想像してあっちの世界に行ってしまっていた。
だが現実に戻ると、すぐに顔を引き締める。
油断はできないのだ。
情報源が情報源なので、おそらく他にも何人かに伝わってるだろう。
今の私と同じ事を考えてる人がいる。
琴音ちゃんには確信があった。
(少なくとも、まず松原さん・・・)
彼女とは浩之経由で知り合って仲良くなった。
葵ちゃんにも同じように弁当作ってきてほしいな、と浩之は言っていたらしいことも聞い
ている。
昨日の友は今日の敵、ライバルだった。
そして、琴音ちゃんは時間を確認して弁当をバッグに入れると学校に向かった。


琴音ちゃんにとってその日の授業は長かった。長く感じた。
まったく授業は頭に入っていなかった。
3時間目、浩之のクラスは体育だった。
ちょうど窓際の席だった琴音ちゃんは、つい校庭でサッカーをしている浩之の姿を追って
しまう。
結局1、2時間目以上に授業はいいかげんになってしまった。

(ふぅ・・・)
琴音ちゃんが3時間目がおわって一息ついく。
4時間目が終わったらすぐに浩之のクラスにダッシュするつもりなのだ。
「あと1時間・・・」
どうせ頭に入らないだろう授業の準備をしていると、廊下を早足であるく人に気づいた。
(松原さん・・・?)
とっさに今日の時間割を確認して、自分の勘違いではないことを確認する。
まちがいない。まだ3時間目が終わったところだ。
昼休みまではあと1時間ある。
(もしかして今のうちに弁当を渡しておくつもりなの?)
琴音ちゃんは葵ちゃんの後を追うことにした。
着いた先はやっぱり浩之のクラス。
葵ちゃんは、教室の入り口で体育から帰ってきた浩之に何かを渡していた。
(2つの・・・あの形は、おにぎり?)
それはアルミホイルにくるまれた物体。
葵ちゃんと話す浩之の声が琴音ちゃんにまで届いた。
「早弁用のあにぎり?ありがとう葵ちゃん。体育終わったところにこれはいいな」
(早弁!!?)
(その手があったのね・・・)
がっくりと肩を落とす琴音ちゃん・・・
だけど、今はもうくじけてる場合じゃない。
まだ1時間後の本番がある。
それは絶対に負けられない・・・
おにぎりを渡し終えた葵ちゃんが琴音ちゃんの横を通って自分の教室に戻っていく。
「・・・!!」
すれ違った瞬間、琴音ちゃんには葵ちゃんが自分を見て笑ったような気がした。
・・・実際気のせいなのだが・・・
冷静に考えれば、葵ちゃんの性格からしてもそんな事はないはずなのだけど。
でも、この時は琴音ちゃんは暴走していた。
ついでにちょっと念動力が暴走した。
その時、階段で人が転げ落ちる音がしたけれど、その音は琴音ちゃんの耳を右から左へ素
通りしていった。


教室に戻り、4時間目終了後に飛び出す準備をする。
そんな時、周りの会話が耳に入った。
「なんかね、氷室先生が階段から落ちたんだって」
「となりのクラスは次の時間自習だって、いいなぁ」
「でも、なんかね。階段で後ろから押されたようなこと言ってたみたいよ、氷室先生」
「いまごろ保健室で鷲羽先生とラブラブね。かわいそうに」
(・・・松原さんのクラス、自習!!?)
自習なら、チャイムと同時に、あるいはフライングで教室をぬけだせる。
(まさかそのために松原さんが先生を突き落としたんじゃ・・・)
よもや自分が原因だとは気がつかない。
琴音ちゃんの中に今まで以上の敵意が、生まれた。
「絶対に負けない。いざとなれば超能力を使ってでも!!」


チャイムが鳴る。
4時間目終了。
幸い、先生がきちんと時間通りに授業を終わってくれた。
(命拾いしたわね・・・)
すでに思考が危ない方向にいっている琴音ちゃん。
起立、礼をすますと机の横に引っかけていたバッグを持って教室を駆け足で出る。
琴音ちゃんには出遅れても勝算があった。
葵ちゃんは多分浩之のクラスに向かっている。
でも、浩之はパン奪取のために購買へ走っているはず。
つまり、購買の前で待っていればいいのだ。
ちなみに、「葵ちゃんも購買で待っている」とか「今日は学食」とか、そういった可能性
は考慮されていない。

購買に向かう途中で、見知った顔を見つける。
雅史だった。
「あの・・・」
声をかける。
雅史が振りかえるのを待って再度話し掛ける。
「藤田さんはいっしょじゃないんですか?」
浩之が雅史といっしょに購買にくると予想していたのだ。
「浩之?それならさっき来栖川先輩と屋上にいったよ」
(しまった!!)
琴音ちゃんはすぐさま振り返って階段に向かう。
葵ちゃん以外の敵の存在の可能性を忘れていた。
全力で階段を駆け上がり、屋上への扉が見えてきた。
その場所で、琴音ちゃんは、肩を落とした葵ちゃんの姿を捕捉した。
ふたりとも敗者だった。


「え?これ綾香が作ったのか?」
目の前の弁当の説明を聞き一瞬あとずさる浩之。
芹香が小声で何かを付け加える。
「どこからか、あかりが今日休むという話を聞いたみたい?」
こくん
「ああ、それなら見当つくよ。っていうかアイツしかいないけどな」
後でヤキいれようかと思った浩之だが、結果的に昼飯が助かったので今回は見逃すことに
した。
そして、弁当を食べ始める浩之と芹香。
そんな会話を聞きながら・・・琴音ちゃんと葵ちゃんは、屋上の2人から見えない場所で
仲良く、そして寂しく弁当を食べていた。
2つずつの弁当・・・そのうち1つはお互い交換して食べていた。
友情が深まったというのか、同類相憐れんでいるのか・・・
どっちにしても寂しそうな2人だった。


「あかりの様子?」
芹香が食事の途中で浩之にたずねる。
「今朝の様子だと大丈夫そうだったぜ。まぁ、明日と土日休めばさすがになおるだろ」
(・・・!)
琴音ちゃん達の箸の動きが止まる。
「え?明日は先輩が弁当作ってくれるって?」
「そんな事無いって、うれしいよ」
琴音ちゃんと、葵ちゃんの、視線が、あう。
明日、2人はまたライバルだ。
(だけど、その前に・・・)


昼休みの終わり、こんな会話が聞かれた。
「あの来栖川先輩が階段から落ちて怪我したんだって」
「氷室先生に続いて2人目よ」
「あそこの階段、絶対なにかいるよ~」
・・・
戦いはまだ終わらない・・・





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