「耕一さん、こっちに来てて大丈夫なんですか?」
柏木家の縁側で俺は昼寝をしていた。
昼間は暑かったが夕方の今ごろになるとちょうどいい。
このまま晩飯の声がかかるまでこうしているつもりでいる。
そんなところに学校から帰ってきた楓ちゃんがやってきた。
本当のところは楓ちゃんの通り道を俺がふさいでいただけだったりするのだが。
楓ちゃんの部屋への通り道、ということは他の3人の通り道でもある。
初音ちゃんと梓も同じように通っていった。
梓は俺を踏んでいきやがったけど・・・
で、晩飯ができるまで話でもしようか、ということになり楓ちゃんは俺が寝転がってる
隣で丁寧に座っている。
同じように寝転がってはくれないようだ。
ちなみに、膝枕は却下されている・・・
「あ、何だって?」
ちょっとぼーっとしてて楓ちゃんの言葉を聞き逃してしまった。
「大学大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫だよ。なんたって大学だからな」
よく分からない(?)説明をしてしまう。
昨日、俺は突然にこっちにやってきた。
大事な講義が休講になって、その他もサボっても出席日数的には問題ないと判断した。
そして、なんとなくこっちに来たくなったのでやってきた。
突発的に・・・
寂しくなって楓ちゃんに会いたくなったのかもしれないが、そんな事はいいにくい。
とくに梓の前では。
そんな理由でこっちに来てるのだから楓ちゃんが心配するのも無理はない。
釈明(・・・なのか?)を終えて話を切り替えようとした時、梓の晩飯の声がかかった。
起き上がって楓ちゃんと居間にむかう。
「梓姉さんが今日の夕食は七夕らしい料理にするって言ってました」
歩きながら楓ちゃんからそんな事を聞く。
いわれてみれば、今日は七夕だ。
もう俺には関係のない行事という感じだった。
実際何年もこの行事を意識したことはない。
七夕らしい料理ってなんだろう。
そんな事を考えなが・・・
ん?なんだこりゃ
居間の入り口が見えたとき、俺はそこにあるものに気がついた。
つかないほうがおかしい。
それは、居間から庭にむかってのびていた。
楓ちゃんの顔をみたが、やっぱりわからないようだ。
「おい、梓〜。これなんだ?」
そう言いながら居間の障子を開ける。
「よう、ぐーたら学生。おきたか」
俺の質問には答えずにいつもの嫌味を言ってくる。
もう一度口に出して聞くのもむかつくので、俺は黙って顎でその物体を指す。
「ああ、今日の晩飯は流しそうめんだぞ」
はぁ?
さっき楓ちゃんは七夕らしい、とか言ってたけど・・・
「なぁ、七夕らしい料理じゃないのか?」
「七夕らしいだろ?水の流れで天の川をイメージしてるんだ。こっちの方の風習だよ」
「聞いたことある?」
楓ちゃんとすでに来ていた初音ちゃんに聞いてみる。
しかし、結果は
「ううん」
と
『ふるふる』
だった。
ま、よく分からないけどいっか。
涼しそうだし。
千鶴さんもやってきたのでさっそく食べることになった。
俺は座布団に座って天の川にむかう。
対面の方には楓ちゃんだ。
「じゃぁ、梓。責任もって流し役やれよー」
「ちょ、ちょっと耕一。あたしはどうやってたべるのさ」
「しるか。お前考えたんだから責任もって流せ」
「そ、そんなごむたいや〜」
「ごむたいな、の間違いだろ?町娘言葉使っても許さんぞ」
観念したらしい。
がっくりと肩を落として流し始めようとする梓に初音ちゃんが救いの手を差し伸べる。
「梓お姉ちゃん、わたしがやろっか?」
苦笑い状態なので天使の微笑みとはいかないが、梓にとってはそれものだろう。
しかし、次の初音ちゃんの一言は余計だった。
「ほら、やっぱり天の川だしね。男の人と女の人が向かい合う感じで食べた方がいいで
しょ。だから私が流すね」
しばらくの沈黙。
そして1度ずつ上がっていく周囲の温度。
「どういう意味だ?初音」
梓の気に反応し、初音ちゃんの妖気アンテナが大きく、揺れた。