突発ショートお題 ”七夕”
 

「七夕、成田の空港にて」

Written by 森野熊三

七月七日。オレは成田にいた。
理由は、突然綾香から電話がかかってきたからだ。
オレは平凡な大学生をしているが、綾香は経営学を修めるためにアメリカへ留学している。その傍ら世界の来栖川の顔として、忙しい毎日を送っているらしい。
その綾香が、「通り道だから」ということで成田で会おうと言うのだった。

第二空港ビル一角の喫茶店で待ち合わせすることにした。コーヒーを飲みながら待っていると、約束の時間より一時間ほど遅れて綾香がやってきた。
「ごめんね、遅れちゃって。今日は旅行運、最悪の日だわ。」
「別に構わないさ。オレは綾香とは違ってヒマだからな。しかしまた、最悪ってのは?」
「ええ。空港までは車だったんだけど、途中でパンクしちゃってね。ゴムタイヤのスペアがなくて苦労したのよ。もうちょっとで飛行機逃がすところだったの。飛行機は飛行機で、エアポケットに二回も落ちるし、遅れるし。」
「はは…、そいつは大変だったな。なんでまた突然日本に?」
「まあね。ちょっと香港に用事があってね。香港支社のパーティに呼ばれてるのよ。」
「へえ。さすがだね…。しかし綾香、航空機の乗り換えだと入国できないはずじゃ?」
「ふふ…、乗り換えじゃないのよ。もちろん、わざわざ通関手続きしたにきまってるじゃない。」
そう言って悪戯っぽく笑った。

「…でも、アメリカと日本は遠いわね…。滅多に逢えないんだから…」
「まあ、確かに。電話とかで話はできても、実際会えるのは年に一度位だからな。」
「ふふ…、年に一度なんて、織姫と彦星みたい…」
「これはまた、ロマンチックな事を。」
「…そうだ、今日は七夕よね。私はとても暇がないから、これ、お願いするわ。」
綾香はバッグから短冊を取り出した。
「近所の商店街かどこかの笹飾りに、ぶら下げておいてくれないかしら?」
オレは短冊を手にとったが、まだ何も書かれていなかった。
「そいつは構わないが…、まだ、願い事が書いてないぜ?」
綾香はちょっと顔を赤らめて、言った。
「ふふ…、私の願い事なんて、わかってるクセに…」

(終)


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