「綾香お嬢様、ちょっとお願いがあるのですが……」
「ん? なに、セリオ? ……って私を呼ぶときは「綾香さん」って呼んでね」
1時間目の授業が終わり、休憩時間になったところで、私はあるモノの入手を綾香
お嬢様にお願いする為、彼女に声をかけたのだった。
「は、はい。綾香…さんのお屋敷に生えている竹を、少し分けて頂けませんか?」
私は、以前データベースを検索している時に見つけた、ある行事には絶対欠かせ
ないアイテムを入手しようと思い、綾香お嬢様にお願いしたのだ。
「あっ…、そっか〜。今日は七夕だっけ?」
「はい。実は、浩之さんとマルチさんの3人で、七夕祭りをしようかと……」
その私の言葉を聞いて、彼女は少し考えてみえる様子だったが、
「なるほどね〜。うん、いいわよ。じゃあ、今日は一緒に帰りましょ?」
と、快く了承してくださったのだった。
「はい。ありがとうございます」
しかし、私が感謝の言葉を述べると、彼女はちょっと企むような顔をしながら、
「そのかわり……」
「はい?」
その綾香お嬢様の言葉に、私は首を傾げながら聞き返す。すると、
「私も参加させてね〜。あ、もちろん姉さんも行くと思うわよ?」
と、彼女は笑いながら言うのだ。
「は、はぁ…。それは構いませんけど……」
「よしっ、キマリね! うふふ、早く放課後にならないかな〜」
私の返事を聞いた綾香お嬢様はそう言うと、嬉しそうな表情になるのだった……。
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「で、結局いつものメンバーが勢揃いした訳か……」
「すいません…」
オレのぼやきを聞いて、セリオがすまなさそうに謝ってくる。
「い、いや、セリオが悪いんじゃねーよ。オレの方が、連れてきた人数が多いん
だからさ…」
結局、あかりや雅史、志保、レミィ、委員長、芹香さん、葵ちゃん、琴音ちゃん、
そしてセリオが連れてきた綾香を加え、総勢12人が集まったのだった。
初めは、オレとセリオとマルチの3人でするはずだったのだが、学校であかりに
短冊の事を聞いている時、話に首を突っ込んできた志保が、すぐそばにいた雅史
と委員長を巻き込み、そのままの勢いでレミィや芹香さん、葵ちゃんと琴音ちゃ
んを誘って、盛大に七夕祭り……にかこつけた宴会をする事になったのだ。
しかし、そんな状況でもセリオは嫌な顔もせずに、
「いえ。皆さんが来てくださると、私も楽しいですから……」
と言って、宴会のおつまみと軽食を、あかりと一緒に作ってくれているのだった。
「はいっ、で〜きたっと! 浩之ちゃん、料理を運ぶの手伝って〜」
セリオとあかりが、二人で仲良く料理をする様子をぼんやり眺めていたオレは、
あかりのその言葉で我に返ると、
「よしっ! じゃあ、みんな始めるぞ〜!」
と、料理が出てくるのを、今か今かと待っている志保たちに向かって言いながら、
二人の作ってくれた料理をリビングへと運ぶ。
そして、セリオとあかりの二人が、エプロンを外しながら、俺の後についてリビ
ングへ入ってくると、騒がしい七夕パーティが始まったのだった………。
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そんな賑やかな部屋の外には、綾香の家から運んできた大きな笹の枝が1本。
その枝に結ばれている12枚の短冊の中、奇麗な字で書かれたセリオの短冊。
夏の風に揺られるその短冊に書かれていた願い事は………
『ずっと浩之さんと一緒に居られますように……』
−了−