突発ショートお題 ”七夕”
 

「Milky Way...離れずにいるために」

Written by 無名氏






「なあ、あかり」
「なに?浩之ちゃん」
「お前、織姫と彦星ってどう思う?」
「どうって・・・」
「『かわいそう』とか『悲恋』だとか思うか? やっぱり」
「う〜ん。かわいそうだと思うけど。浩之ちゃんはそう思わないの?」
「俺は思わないな」
「どうして? 一年に一度しか会えないなんて、やっぱりつらいよ」
「それぐらい大したことないぞ」
「そんなことないよ。もし私が浩之ちゃんと1年に一度しか会えなかったら、やっぱり
悲しいし・・・」
「別に大丈夫だって。それに全然会えないよりはマシだろ?」
「・・・浩之ちゃん、もしかして・・・」
「ん?・・・バーカ。俺は別にどこも行きゃしないって。勝手に人を遠くに行かせるな
よ、こんな時に」
「だって・・・。浩之ちゃんの話し方、なんとなく不吉な感じがして・・・」
「話を現実に持ってくるなっての。今俺がどっか遠くに行ったりしたら大変だろうが」
「・・・うん、そうだね。ゴメンね。私今日はちょっと精神的に不安定みたい」
「しょーがねえなあ。ま、ここのところ忙しかったしな。疲れてるんじゃないのか?」
「ううん、大丈夫。それより、浩之ちゃんこそ大変だったんじゃないの?」
「何が?」
「最近残業が続いてたでしょ?日取りがなかなかきまらないくらいだったし」
「けっこう大きな仕事抱え込んでたからな。ま、一段落ついたから」
「そんなに忙しかったの?」
「ん、まあ仕事はこっちが決める事じゃないからな」
「あんまり無理しないでね。最近浩之ちゃん仕事に熱心なのはいいんだけど、ちょっと
心配になるくらいだから」
「ったく。大丈夫だって。それより、そういうこと言ってると俺達も本当に織姫と彦星
になっちまうぞ」
「え?」
「あかり、お前織姫と彦星の伝説って知ってるか?」
「えっと・・・。あんまり詳しくは知らないけど・・・」
「織姫と彦星ってのは、もともとは二人とも働き者だった。それで神様がご褒美に二人
を巡り合わせてやった。そしたら・・・」
「どうなったの?」
「二人は一緒になってから全然働かなくなったもんだから、今度は神様が二人を天の川
の両岸に引き離してしまった・・・って話らしいぜ」
「そうだったの・・・。わたし全然知らなかった」
「だから、俺は織姫と彦星がかわいそうだとは思わない。離れ離れにされて当然だな」
「浩之ちゃん・・・」
「俺達だってこんなに苦労して一緒になろうとしてるってのに、何にもしないで二人だ
けで幸せになろうってのは納得がいかねーよ」
「・・・・・・」
「あかり?どうした?」
「・・・ありがとう」
「え?」
「だから浩之ちゃん、最近あんなにがんばって仕事してたんだね」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・まあ、な。いくら俺がぐーたらでも、それぐらいはやっとかねーと。明日から
家族が増えるってのに、いつまでも甘えてる訳にもいかねーし」
「・・・私もがんばっておいしいお料理作るよ。綺麗にお掃除して、お洗濯して・・・。
浩之ちゃんが帰ってくるの待ってるから」
「おう。あかりが部屋にいて俺の帰りを待っててくれれば、それでいいぜ」
「でも、なんだか浩之ちゃんに悪いな・・・」
「何でだよ?」
「忙しく働いてくれてるのに、私が出来る事ってそれぐらいしかないでしょ・・・」
「それで十分なんだよ」
「ねえ、浩之ちゃん。私に出来る事ってほかに何かないかなあ」
「つまんねーこと考えるんじゃねーよ。それだけでいいって言ってるだろ?何度も言わ
せるなよ」
「でも・・・」
「あのなあ。『お帰りなさいませ』って三つ指ついて御出迎えでもするつもりか?」
「それでもいいよ」
「裸エプロンでも?」
「・・・うん、浩之ちゃんがそうして欲しいんなら・・・その・・・」
「おい」
「え?」
「ジョークを素で返すなっての」
「え?え?・・・しなくっていいの?」
「・・・・・・(ごくっ)」
「・・・・・・」
「あかり」
「なに?」
「・・・たまには、いいかも、な・・・」
「・・・うん・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・まあ、ともかくだ。明日朝早いんだから、そろそろ寝るぞ」
「そうだね。式の当日に寝坊したら大変だもんね」
「頼むから明日ぐらいは大声で呼ばないようにしてくれよ」
「浩之ちゃん、ちゃんと朝起きられる?」
「いつまでも高校時代と一緒にすんなっての。もう社会人なんだぞ」
「そうだけど・・・。一応起こしに行くよ」
「バーカ。お前の方が着付けだなんだで忙しいだろ」
「でも・・・」
「それに、ちゃんと親御さんにはあいさつしなきゃいけないだろーが。明日で『神岸あかり』
じゃなくなるんだぜ?」
「・・・そうだね。私『藤田あかり』になるんだね・・・」
「ああ。だから、今日は早く寝る。いいな?」
「うん、わかった。おやすみなさい、浩之ちゃん」
「ああ。おやすみ、あかり」
カチャッ
ツー、ツー、ツー・・・



二次創作おきばへ戻る    感想送信フォームへ    筆者のHPへへ