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次の日。
「ふあ〜ぁ」
歩きながら、ついついあくびが出る。
「ふふっ、浩之ちゃん眠そうだね」
「昨日深夜番組を見てしまってな。すごく眠い」
と言いつつまたあくびが出る。
「居眠りは駄目だよ」
「努力するよ」
校門前の坂にたどり着いた時。
「おっはよ〜、あかり、ヒロ!」
後ろからけたたましく志保がやって来た。
「うぃ〜っす」
「おはよう、志保」
「あら、せっかくの爽やかな朝だと言うのに、全然爽やかで無いのが一人居るわね」
志保はオレのほうを見ると意味ありげな笑みを浮かべてそんな事を言った。
「うるせ〜よ。耳元で騒ぐな」
「どうせまた深夜番組でも見てたんでしょう?」
「悪ぃかよ?」
むっとしたが、そこでふと昨日聞きそびれた事を思い出した。
しゃくだが、ここは下手に出て聞き出してやるか。
「そうだそうだ。情報通の志保さんの、その力を見込んで聞きたい事があるんだけど」
少し丁寧に言って見る。案の定、志保は得意げな顔をしてのって来た。
「へぇ、ヒロがお願いとは珍しいわね。で、何?」
「今度の連休って、何かあったか?」
「今度の連休?」
あかりがあっと言う顔をしたが、オレはわざと無視した。
「ふむふむ、今度の連休ねぇ・・・」
手を頭に当てて、何やら考え込む志保。
「・・・ん〜、知っているけど・・・」
「何だよ、一体?」
「ん〜、でもこの件に関してはあかりに口封じをされているのよね〜。残念だけど、教え
る訳にはいかないわ」
「あっそ。お前にはもう頼まん」
全く期待通りな奴だ。
オレはそう言い残すと、一人でさっさと学校に向かった。
「あっ、ちょっとヒロ!待ちなさいよ!」
「浩之ちゃ〜ん、待ってよ〜」
放課後。
一昨日約束した通り、オカルト同好会に出た。
相変わらず怪しげな雰囲気だと言うのに、それに輪をかけているのが1年生3人だ。
この3人、昔からそう言う事にはまっていたらしく、その手の事にかけては全くすごい
情報量を持っていた。
まあ、来栖川先輩ほどではないが。
そして、その日は何やら怪しげな実験を手伝わされて終わった。
帰り道。
ぶらっとゲーセンにでも寄ろうと思ってやって来た所、前のバス停に、見慣れた姿を発
見した。
一人は、うちの学校の制服に小さい背、緑色の髪の毛に銀色の耳かざり。
もう一人は、寺女の制服に少し高めの背、朱色の髪の毛に銀色の耳かざり。
間違い無い、あれはメイドロボのマルチとセリオだ。
「お〜い、マルチ〜、セリオ〜」
「?」
二人がこちらを向く。
「あ、浩之さん!」
たたたっと二人が走ってくる。
「今、お帰りですか?」
にこやかにマルチが聞いて来た。
「ああ、まあな」
去年、約1週間のテスト運用の後、来栖川の研究所で眠りについた筈のマルチとセリオ。
今年に入って、何でも「より円滑な人間とのコミュニケーションの習得」と言う名目で、
再び二人のテスト運用が始まったのだ。しかも、今回は前回よりも遥かに長い運用らしい。
さらに驚くべき事に、セリオにも感情が表現出来るようになっていた。
もっとも、マルチと違ってセリオは感情に関する学習をたくさん行わなくてはいけない
らしいので、まだまだマルチほど表情豊かではないが。
「相変わらず、二人でバス待ちか?」
「はい、そうです〜」
「バスが来るまであとどの位有る?」
「次のバスが来るまで13分24秒、その次のバスは28分22秒ですね」
セリオが答える。
「よーし、んじゃあまたゲーセンで遊んで行くか?」
「はいっ!」
二人の嬉しそうな声がハモって帰って来た。
・
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そして、ひとしきり遊んだ後。
「そう言えば、お前達、綾香から今度の連休に何かやるって聞いていないか?」
思い出したようにオレが尋ねた。
実は、この二人の姿を見た時に、マルチとセリオなら来栖川の関係者(?)でもあるし、
何か知っているだろうと踏んだのだ。
ところが。
「あ、え、え〜と・・・その・・・」
困ったような顔をして俯くマルチ。
「・・・その件に関しては、綾香様より口止めをされております」
セリオがそう言った。
「口止め?」
「はい。『浩之に会っても、今度の連休の事はぜ〜ったい、教えちゃ駄目よ♪』っておっ
しゃっていました」
身振り手振り、口まねまで加えて綾香の真似をして言うセリオ。
・・・おいおい、誰だセリオにこんな芸を仕込んだの?
「・・・セリオ」
「はい?」
「誰に教わった、その芸?」
「長瀬開発主任です」
・・・やっぱり。
オレはセリオの両方のほっぺたをつまんで引っ張りながら言った。
「長瀬のおっさんに言っておけ。芸を教えるなら、もう少しましな芸にしておけって」
「ふぁ、ふぁひ」
その夜。
結局、誰からも情報を得る事ができなかった事に、少し(いや、かなり)悔しい思いを
しながら、さっさと寝ることにした。
・・・ま、明日から連休だし、明日以降になりゃあ解るか。