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 9月――。 

 長い様で短かった夏休みが終わり、再び制服姿があちこちで見掛けられる時期。 
 ちょっと前までは、空を見上げるともくもくと伸び上がる入道雲があったのに、今は
高い所にある絹糸細工の様な雲が、いやがおうにも季節の移り変わりを感じさせる。 
 そんなある日。 
 憂鬱な授業を終え、オレは一人で商店街をぶらぶらしていた。 

 「おっ、」 

 意外な人を見かけた。 
 駅前の本屋。 
 少し広めの店内の、雑誌区画の本棚の向こう側。 
 そこは女性雑誌コーナーのはずだ。 
 棚越しで顔から下は見えないが、その女生徒は熱心に視線を落として本を読みふけっ
ている。 
 ゆるやかなウェーブのかかった艶やかな黒髪、少し長めのまつげ、視線を動かす度に 
揺れる漆黒の瞳。 
 いつだったか、”体のパーツすべてがスペシャルオーダー”と表現したあの人。 
 そして今年の春頃から妙に接点の多い女性。 

 ……間違い無い。 

 魔道書のある、古本屋ならいざ知らず、こんなポピュラーな場所におわすとはめずら
しい。 
 幸い近くにあのやかましいじじいがいる様子も無いし、ここは一つ陽気に声を掛けて
みるとするか。 

 「く〜るすがわせぇ〜んぱいっ!」 

 その女生徒がこちらに視線を向ける―― 





(Leaf Visual Novel Series vol.3) "To Heart" Another Side Story

   

ステキなたくらみ Side A

featuring:Ayaka Kurusugawa.

Original Works "To Heart"  Copyright (C) 1997 Leaf/Aqua co. all rights reserved







 ……間違えた。

「・・・ぇ・ぁああぁ・や・か・・・さん?」

 なんとも間抜けな声を掛けてしまったオレに気づいて、その女生徒――来栖川綾香
――は、手にした雑誌で顔を隠すようにして”ぷっ”と吹き出した。

「よ、よう。」
 なんともバツの悪い雰囲気のまま、オレは西音寺女子高等学校――通称”寺女”――
の制服に身を包んだ綾香の隣に移動する。
「はあい、おひさ。」 
 軽く手を挙げて挨拶に答える綾香。
 あいかわらずの軽いノリだ。

「あんたみたいな人が、こんな所にいるなんて、意外だな。」
 ホントに意外だった。 
 芹香先輩なんて、学校までリムジンが送り迎えに来るぐらいだから、当然妹の綾香も
同じような待遇だと思っていたからだ。
「そお? まぁそんなに頻繁には来ないけど、それでもたまに来たりはするわ。」
「強引な執事が、車で迎えに来たりしてんじゃないのか?」
 オレは、眼鏡を掛けた、やたら気合いの入った初老の男を連想していた。
「それって長瀬の事? あの人は特別なのよ。」
 まぁ、確かにあの執事は特別だとは思うけどな。
「私付きの執事は聞き分けがいいから。」
 そう言って綾香はスカートのポケットからケータイを取り出して見せた。
 なるほど、芹香先輩みたく付きまとわれてるわけじゃないんだ。
「それより…」
「?」
 綾香はなんとも言えないニヤニヤした笑みを浮かべ、
「あたし、街中で芹香姉さんと間違われたのって初めてよ。ねぇキミ、姉さんに声掛け
る時って、いっつもそんな風にカルいの?」
 うっ。 
「い、いや…まぁ…そうだけど。」 
 それを聞いた綾香は、片手のこぶしを口に当てて、”クスクス・・・”とこらえ笑い
した。 
 う〜む。 
 なんか妙なのに声かけちまったなぁ…。 

 ・
 ・
 ・

「確かにウチに寄ってくる男達にはいないタイプよね〜、芹香姉さんが気に入ったのも
なんか解るわ。」
「ど〜せオレはビンボーなパンピーだよ。」
「なにつまんない事で拗ねてんのよ?」
 本屋を出て、オレ達は何とは無しに一緒に歩いている。
 9月に入ったばかりだから、まだお互いに夏服だ。
 ちょくちょく目にするとはいえ、近くでじっくり見た事の無い寺女の制服。
 その中にいるのは芹香先輩そっくりの綾香。
 ちょっと新鮮な気分だ。
 改めて見ると、綾香はやっぱり美人だ。
 しかもすごぶる付きの。
 芹香先輩と似て――当然だが――外見はかんっぺきお嬢様なのだが、その性格はま
るっきり180°違う。
 アクティブで、気さくで、よく喋るし、お嬢様だからというタカビーな所も無い。
 ……芹香先輩もタカビーでは無いけど。 
 同じ血を引く姉妹で、こうも違う物なのか…すげー不思議。
「そういえば、今日は葵とは一緒じゃないの?」
 葵ちゃんは、オレが最近ちょくちょく顔を出している”エクストリーム同好会”のコ
だ。 
 もっとも、顔を出してるってだけで、練習には全然参加してないけどな。
 そんなオレでも、顔を見せると葵ちゃんは喜んでくれる。
 なんとなく見ててやりたい、まぁ可愛い妹って感じかな。
「いや、今日はクラブは無い日なんだ。それにクラブがあるからっていっつも一緒にい
るわけじゃないぜ。」
「あら、どうして? 葵と付き合ってるんじゃないの?」
「ぶっ! ど、どうしてそうなるんだよっ!」
「このあいだ葵にあった時、キミの事、それはそれは楽しそうに喋ってたんだけど。」
  からかう様な笑みを浮かべて、オレを見る綾香。
「そ、そりゃ葵ちゃんは素直でいつも一生懸命でいいコだなぁとは思うけど、それとこ
れとは話が別…」
「ふ〜ん、まぁいいけど。葵も格闘技以外の事は全然鈍感だからなぁ、なんか心配よね。」 
 前を向いて、つまらなさそうに言う綾香。
 葵ちゃん、どんな事喋ってたんだろうか?
 ちょっと気になる。
 と、またからかう様な笑顔で、綾香はオレの方を向きなおった。
「じゃあ、やっぱりアレ? 本命は芹香姉さんなの?」
「おいおいおいおい」
「え、違うの? キミって結構優柔不断なのねぇ。」
 確かに芹香先輩は美人だし、物静かでおしとやかで――黒魔術やってるけど――ちょっ
と憧れっぽい気持ちは無いわけでも無かったりするが、それはそういうモノとはちと違
うと思うんだが…。
「なんだよ、誰かに頼まれて素行調査でもしてんのか?」
 いきなり優柔不断とか言われて、ちょっとむっとする。
「あ、気に障った? ゴメンゴメン。」
 笑ってゴマかす。
 その笑顔がドキッとするぐらい可愛い。
 …ヒキョーだよなぁ。
「ま、いいけどよ。」
 そう言ってオレはしばらく黙るしかなかった。


「あ、そーだ!」
 突然声を張り上げる綾香。
「?」
「ねえキミ、これからカラオケに行かない?」
「カラオケ? 誰と?」
「わ・た・し・と」
「はぁ?」
 何ぃ? 
 突然何を言いだすんだ、このお嬢様は。 
「そこのカラオケボックスって採点機能付いてるやつでしょ? 私と勝負するのってど
うかしら?」
 そう言って指差した先には、よく志保達と入るカラオケボックスがある。
「そりゃいいけど…いったいどういう風の吹き回しなんだ?」
「い・い・か・ら、負けた方が、勝った方の言うことを一つ聞くって条件でどう?」
 オレはじっと綾香を見た。 
(負けた方が勝った方の言うことを聞く…)
 だんだんと目線を下げていく。
 格闘技やってるにしては、白くてきれいな首筋…。
 制服の胸元を押し上げる、意外にボリュームのあるふくらみ…。
 絵にかいたようにキュッと締まった腰…。
 すらりと長い足…。
 ルーズソックスの流行のおかげで、めったに見なくなった普通のソックス…。
「……男の子ねぇ、キミも。」
 ぎくうぅぅ。
 ビデオの高速巻き戻しの様に、オレの目線はきゅるるると音を立てて、綾香の顔に戻っ
た。
「…別にいいのよ、そ〜いうのでも。」
「え」
「勝てたら、だけどね。」
 そう言うと、綾香はうふふと妖しい笑みを浮かべた。

  ・
  ・
  ・

 オレ達はゲーセンの2階にあるカラオケボックスに入った。
 入る時、綾香がフロントであれこれ質問をして、部屋を念入りにチェックしていた。
 きっと歌いたい曲がある部屋を選んでいたんだろう。

 ここは以前志保とカラオケバトルをやった所で、その時俺はヤツに圧勝していた。
 このカラオケ採点機の法則は、完璧オレの頭の中に入っている。
 その法則とは、うまいかへたかはともかく、音程が一致すれば高得点が叩き出せるの
だ。
 逆にあまりにうまいと、その”音程を一致させる”という判断からはずれて、いい点
が出ない。志保はプロ級にうまいのだが、それゆえ機械の判定パターンから外れてしま
いろくな点数が出なかったのだ。
 逆にオレは歌詞は棒読みでとにかく音程を一致させることに全神経を集中した。
 そして勝った。
 機械の弱点を巧みに突いたオレの必勝パターンだった。
 だから綾香だろうと誰だろうと勝つ自信はある。
 しかし…改めて思うと、綾香がカラオケに誘うなんて、すげー意外だ。
 綾香って歌うまいんだろうか?
 だいたい本当はお嬢様なんだから、こういった庶民の娯楽施設に入ったりしたことあ
るのだろ〜か?。
 疑問は尽きないが、オレが一番気にしているのは別の事だった。

(負けた方が勝った方の言うことを一つ聞くって条件でどう?)
(…別にいいのよ、そ〜いうのでも)

 これは”私に勝てたらHな事でも何でも言うこと聞いてあげる”という意味なんだろ
うな〜やっぱり。
 動機が不純なのは認める。
 認めるが、これで燃えなきゃ男じゃねぇ!
 …いかんいかん、下心丸出しでは、音程合わせに集中できん。
 ここは一つ邪念を払って……邪な事は、勝ってから考えよう。

「OK、さあ始めるわよ。」
「じゃあ先にどうぞ。」
「ノンノン、こういうのは殿方が先って決まってるの。」
「うし、いいぜ、あとで吠え面かくなよ。」

 オレは採点機に100円を投入すると、選んだ曲のナンバーをプッシュした。
 音程の取りやすい、量産ミュージシャンの定番ソングだ。

 ちゃらん、ちゃららちゃちゃ……
 ・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・

「なによそれ、棒読みじゃない。」
 小高いステージ上のオレを指差して、ブーイングを飛ばす綾香。

 ふっふっふ、何も知らぬブルジョアめ。
 プロレタリアートの底力を思い知るがよいわ。

 ・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・

 ちゃららら〜ん。

 演奏が終わった。

(得点は!?)

 だららららららら……

 いかにもわざとらしいドラムロールが流れる。

 だんっ。

 56Points

「ごじゅうろくてんだぁ!?」
 オレは予想外に低い点数を見て不満の声をあげた。
「んなアホな、前は80点代だったぞ!」 
「はいはい、いいわけは後で聞いてあげるから。次は私ね。」
 綾香がマイクを握り小高くなったステージに上がる、曲はすでに入力済みらしい。

  ちゃちゃっちゃっちゃちゃ・ちゃちゃっちゃっちゃちゃ……

 おっ、ブランニューハートだ。
 偶然にも志保と同じ選曲とはな。
 いささか不謹慎ではあるが、この際だから比べさせてもらうぜ。

  Brand-New Heart…今ここからはじまる〜
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ……待て。

 こりゃいったいどういう事だ。

 オレは志保の歌を”プロ級”と表現したが、じゃあ今歌っている綾香は何て表現した
らいい?

 …透き通る様な声。

 …はっきりとした音程。

 …どこまでも届きそうな声量。

 め、めちゃくちゃうまいじゃないか。
 やべ、鳥肌立っちまった。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・君にと〜ど〜け、Telepathy…

 綾香の歌が終わった。

「めちゃくちゃ上手いな、あんた。」
「惚れた?」
「アホ」

 だららららららら……
 だんっ!

 92Points

「………」
「いえーい! 私の勝ちね!」
 ちょっとまて。
 きゅうじゅうにてんだぁ!
 そんな点数出るわきゃない!
 これはなんかの間違いだ、機械の故障だ、じゃなけりゃ来栖川の陰謀だ!
「ちょちょちょっと待てぇぇい!」
「あら、何か不満でも?」
「『何か不満でも?』ぢゃねいっ! これはおかしい、納得いか〜ん!」
「どうして? 機械の判定は万人に公平よ」
「だ〜か〜ら〜だなぁ」
 オレは、必殺棒読み作戦が、いかに有効で実績があるかを、とうとうと語った。
 それを聞いた綾香は、ふふふっと例の妖しい笑みを浮かべると、
「キミの歌聞いてて、ど〜せそんな事じゃないかと思ったのよ。ざ〜んねんでした。
ちょっとここ見てみて。」
 綾香は採点機の前面パネルの一部分を指差す。
”ASSS001 KME co. Products”
 そう書いてあるだけだ。
「これがどうかしたのか?」
「”KME”すなわち”Kurusugawa Music Entertainment”、”ASSS”は
”Advanced Sound Sensor System”この採点機は、ウチの系列の子会社が出した最新版
なのよ。」
「あ〜ズルいぞ、なんかウラワザ使っただろう」
 今度はオレがブーイングを飛ばす。
「失礼なこと言わないでよね。この機種には、ウチのHM開発技術から転用した最新の
ボイス判定機能が付いてるのよ、メイドロボの聴覚に基づいた物だから、抑揚も感情も
聞き分けられるし、より人間に近い判定ができるってのがウリなのよね。」
「という事は…」
「そう、ホントにうまい方が高得点が出るってわけ。キミのやってたウラワザはもう通
用しないのよん。」
 人差し指をオレの顔の前で得意げに揺らす綾香。
 がが〜ん。
 しまった、入る時にフロントで綾香が何やら店員に聞いてたのは、この機種が配備さ
れている部屋を選んでいたのか…。
 それじゃ、わざわざ棒読みで歌ってたオレってただのバカ…。
「そうと知ってたら最初っからちゃんと歌ってたぞ! やり直しだ! やり直しを要求
するうっ!!」
 我ながら未練がましいが、これでは対等に勝負したことにならん。
 …悪いのはオレだけどな。
「いいわよ〜、ホントはキミのちゃんとした歌、聞きたいのよね。」
 あっさりOKする。
「無気味だな…なんか企んでないか?」
「さぁてね、どうすんの? やるの? やらないの?」
 これは明らかに挑戦だ。 
 しかしオレも男、ここで引き下がるわけにはいかねぇ。
「もちろんやるぜ!」
 久々に、オレの闘志に火がついた。
 …が、正直言って、さっきの綾香の歌は衝撃的に上手かった。
 闘志だけでは、いかんともしがたい事実だ。
 このままちゃんと歌っても勝てるかどうか…。
 いーや、そんな弱気になってどうする! 
 この採点機は感情表現が理解できるらしいから、思いっきりひたって歌えば、いい点
が出るかもしれないじゃないか!
 こうなったら真っ向勝負あるのみ!

 オレは趣向を変え、しっとり系のバラードを選曲した。
 ちょっと前にはやったドラマの挿入歌で、様々なしがらみによって決して自分からは
告白できない男が、いとしい女にむけて切々とその気持ちを伝える…という内容だ。

 たん・たらら〜たたたら〜ん…

 ピアノソロのイントロが始る。

 気持ちを込めて…思い切り浸って…
 歌詞の内容を思い出せ、主役はオレで相手の女は…相手は…

 …目の前の綾香だ。

 綾香の顔を見つめる。
 何か深い意味を持たせるかのごとく、じっと見つめる。
 集中集中…よし! 
「な、なに?」
 自分を見つめたまま何も言わないオレに対して、不安げな表情の綾香。
 ふっ…スキあり。

 ……………
 ……………
 ……………
 ……………
 ……………

 演奏が終わった。
 知らぬ間に閉じていた目を開く。

 開いた目に最初に映ったのは、何やら惚けた顔をしている綾香だった。
 しかも頬が赤い。
 おまけに瞳が揺れているのがわかる。
 オレは、自分の作戦が、顕著に効果をあげている事を確信した。 
 今のは、我ながらかなり浸ったからな。
 単なる自己陶酔ヤローと化してたかもしれないが。

「…やるわね、正直ここまでとは思わなかったわ。」
「ホレたか?」
「バカ言わないの」

 だららららら…
 だんっ!

 86Points

「くっ…」

 高得点には違いない、違いないのだが……

「勝ちは勝ちよね?」

 そう、そのとおり。
 あんなに気合い入れたのに、負けてしまった…。

「OK、じゃあ約束どおり、わたしの言うこと一つ聞いてもらうわよ。」

「くっ、仕方あるまい…。」
 ここでも民衆は圧政を強いられるのか…。

「とりあえず出ましょ。」

  ・
  ・
  ・

 オレ達は近くにあるファミレス、回る看板でお馴染みの『ブルースカイ』へとやって
きた。
 以前レミィがバイトしてた店だ。
 秋口に入ったとはいえ、まだまだ残暑は厳しく、店内に入った時のひんやりした空気
が心地よい。
 店内は一時の涼風を求める人々で、予想外に混雑していた。
「あちゃ、座れるかなぁ。」
 ”待ち”のグループがいるのを見て、オレはそう呟いた。
 観葉植物の向こう、店内のテーブル席は、ほぼ満員だ。
 程なく、ウェイトレスがやってきた。
「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」
 胸元の強調された制服が目を引く。
「そうだけど。」
「おタバコはお吸いになられますか?」
 オレ達制服なんだけどね。
 ファミレス界のマニュアルおそるべし。
「いや」
「こちらへどうぞ。」
 ちょうど二人掛けの席が空いていたらしく、オレと綾香はスムーズにテーブルに着く
事ができた。
 これも日頃の行いがいいおかげかな。
「そういえば、気になる事があるんだけど、一つ聞いていいか?」
 オレはさっきから疑問に思っていた事を聞いてみようと思った。
「何?」
「あんたって、歌とか音楽が趣味なのか?」
「どうして?」
「いや、正直あんなに歌上手いと思わなかったからさ。」
「そうね、趣味っていうほど大袈裟なもんじゃないけど…好きよ。」
 『好きよ』って言う時にオレの目を見つめて、少し微笑んで言った。
 …わざとやってんじゃねぇだろうなぁ。
 ちょっと鼓動が速くなっているのがわかる。
 こいつ、実はこういう気を持たせるような言動が、得意技なんじゃないんだろうか。
 並のヤローだったら、さくっと誤解しちまうぞ…。

「元々エクストリームの為だったんだけどね、音楽始めたのは。」
「?」
「格闘技って、ある程度の所までは修練を積めば誰でも強くなれるんだけど、それ以上
は本人のセンスとかリズム感が無いと伸びないのよ。」
 簡単に言うが、その”ある程度”というのはかなりハイレベルな所の話だ。
「でね、そういったのは技の練習だけじゃ鍛えられないのよ。」
「で、音楽?」
「そう、もっとも音楽だけって特定されてるわけでも無いけどね。要は空気とか間とか
リズムとか、そういった物を感じたり創造したりするのがいいの。」
「ほほう。」
 なるほど。
 実際の所、本当なのかどうか怪しい理屈だが、綾香が言うと妙に説得力がある。
 綾香自身が、その身をもって証明しているようなもんだからか。
「その点、葵は天性のモノがあるからうらやましいわ。」
「天性?」
「そう。あの子にはそういったセンスが既に備わってるのよ、本人は気付いてないでしょ
うけど、そういうセンスを実戦の中から吸収できるタイプなのよね。そういう選手って
とても少ないの。」
 そういえば、葵ちゃんはエクストリームの練習ばっかりで、同年代の女のコと話が合
わないって言ってたっけ。
「…あの子、強くなるわよきっと、それも近い将来。 だから私も負けないように頑張
らなくっちゃ。」

 オーダーを取りに来たウェイトレスにオレはアイスコーヒー、綾香はアイスティーと
チョコパフェを頼んだ。
「意外に普通のメニューを頼むんだな。」
 心に沸き上がった素朴な疑問。
「ファミレスに普通じゃないメニューなんて無いでしょ?」
 つまらなさそうに言う綾香。
 まぁ、確かにその通りだけど。
「それに…家じゃなかなか食べられないから。」
 ちょっと自嘲ぎみに笑うとそう言った。
「なんで?メイドとかに作らせればいいじゃん。」
  執事が何人もいるぐらいだから、当然お抱えのメイドやシェフもいるだろうに。
「ん〜、まぁそうなんだけど…おいしくないのよ。」
「料理がヘタなのか?」
「そうじゃなくて…いちいちどこどこの何とかって材料を取り寄せてカロリーから何か
ら計算ずくで作られた物って、なんか、ね。自己主張キツくて。」
 …なんとなくだけど、解る様な気がする。
「おいしいものとか好きなものって、値段は関係無いのよね。どっかの映画監督が言っ
てたけど、『本当に良いものはB級の中にこそある』って、私もそう思うわ。」
 ハイソサエティならではの感想だなぁ。
 オレなんか、食えるんだったら毎日でも、縦だか横だかわかんないようなステーキを
食ってみたいけどな。
 …毎日はさすがに飽きるか。
「でも…」
「?」
「ホントにおいしいかどうかって、誰と一緒に食べるか、って事だと思うの。」
 どことなく寂しそうな笑み。
 やっぱ金持ちの家庭って寒々としてるんだろうか?
 オレは頭の中に、テレビドラマでよくある陳腐なイメージを思い描く。
 ……綾香と芹香先輩だと、なんとなくほのぼのした家庭を連想してしまうな。
 そんな事を考えていると、
「そうそう、そんな事よりキミにやって欲しい事なんだけど。」
 きたきた。
「なぁ、そろそろその『キミ』っての止めないか? なんかお姉さんに呼ばれてるみた
いで落ち着かないぜ。」
 そう、さっきからどうも違和感があるな、と思ってた原因はそれだったのだ。
 くすっと笑う綾香。
「お姉さんってなんかヘンよ。」
「しゃあないだろ、そういうイメージがあるんだから。」
「藤田くん、フルネーム教えてくれる?」
「藤田浩之。」
「じゃあ『浩之』。これでいい?」
「いきなり呼び捨てかぁ?」
「い〜じゃない、そのかわり私も『綾香』でいいわ。いつまでも『あんた』じゃカッコ
悪いしね。」
「ま、まぁいいけど」
 この瞬間、オレを呼び捨てにできる女のコが二人になった。
「で、浩之にやって欲しいことなんだけど。」
「はいはい、何でも言ってくれ。…言っておくが金なら無いぞ。」
 それを聞いた綾香はぷっと吹き出すと、
「そんなこと私に言った人って、キミが初めてよ。」
 と言いつつクスクスと笑い始めた。
 オレは憮然として、
「そんなに変な事言ったか?」
 と問いただしたが、
「ううん、全然OK。そのままの方がいいわ、言わない方が変なのよ、きっと。」
 と、なんだか的を得ない返事が返って来ただけだった。
「????」
 よくわからん。
 綾香はそのままクスクスと笑い続けている。
 釈然としないまま、オレは無邪気に笑う綾香の顔を見続けていた。

(…可愛い顔して笑うんだな)

 なんていうか、エクストリームのチャンプとか来栖川のお嬢様だとかというイメージ
が先行してるせいか、今までの綾香は、自分に対する自信ってのが常に前に出てきてい
て、気丈なと言うか、正直ちょっととっつきづらかったんだが、今目の前で笑っている
綾香は歳相応の普通の女子高生だ。

 注文した品がテーブルに運ばれてきた。
 綾香がチョコパフェを優雅に口に運び、二、三口味わうとさっきの話を続ける。
「でね、本題なんだけど。」
「おう」
「私たちの学校、来月文化祭があるのよ。」
 ああ、そういえばもうそんな時期か。
 うちの学校も来月のはずだ。
 こういうイベントには、がぜん張り切る志保が、そろそろ動き出す頃だな。
「私、同級生のコ達とバンド組んで出る事になってるんだけど。」
「ふうん、バンドねぇ。」

 バンド? 

「ちょと待て、寺女ってそんな事してもOKなのか?」
 この辺りじゃお嬢様学校として名高い”西音寺女子”で、風紀がどうとか真っ先にや
り玉に挙げられそうなバンドなんか組めるのか?
「ん、まぁその辺は色々あったんだけど、今はOKよ。もともとそんなハデなロックと
かじゃなくて、軽い雰囲気のポップスで行くつもりだったしね。教師の方々曰く、『服
装と身だしなみは校風を尊守するように』って。だから他校のバンドに比べれば地味か
もしれないけど。」
「それっていいだしっぺはひょっとして…」
「そう。わ・た・し。」
「ボーカルは?」
「もちろん、わ・た・し。」
「………。それで?」
「バンド組んで練習はじめたのはいいんだけど、なんかこう、一つインパクトが足らな
いのよ。ほら、私があんまりノイジーなの好きじゃないからどうしても無難にまとまっ
ちゃうっていうのかな? だからアクセントになるようなプログラムを考えてたんだけ
ど。」
「ふんふん」
 適当に相槌をうつオレ。
「でね、そんな時にメンバーから出てきたプランが、『カッコイイ男のコとのデュオ』っ
てやつなのよ。」

「………」

 何かとてつもなく悪い予感がしてきた。

「そ、そうか〜そりゃ良いアイデアだよな〜うん。オレとしてもぜひ手伝ってやりたい
所だけど『カッコイイ男』ってのが条件じゃどうしようもないよな〜、いや〜残念残念。
まぁがんばって『カッコイイ男』ってのを見つけてくれや。じゃっ、そういう事で。」
 といって席を立とうと思った瞬間。

「なにいってんの? キミが出るのよ?」

 う゛っ。
 はっきり言われてしまった。
「なななななんでオレが、」
「約束」
「うっ」
「でしょ?」
 うううっ。 
「けどよ〜、オレってぜんっぜんカッコよくないんすけど〜。」
 もはや半泣き状態のオレ。
「…たしかにそうだけど。」
(オイオイ)
 心の中で逆手でツッコむ。
「でも、割とイイ線いってるわよ。カッコイイっていうと誇大広告かもしれないけど、
こういうのってその場でいかにノれるか、ってのが大事だから。その点浩之ならお調子
ノリなのは確認済みだし、なかなかいいチョイスかなって自分では思ってるんだけど。」
「誉めるのとけなすのをいっしょにやらないでくれよ…」
「別に最初から全部付き合えって言ってるわけじゃないわ、一曲だけ、出演して欲しい
んだけど。」
 目の前にある鉄の扉が、ゆっくりと閉じていく…。
「もし断ったら?」
「芹香姉さん、嘘をつく人は嫌いだって言ってたけど?」
 ズーンと重い音を立てて扉が閉まった。
「オレ、ほら葵ちゃんのクラブもあるし…」
「本番前に二回、音合わせに来てくれればいいわ、別に毎日拘束したりしないから。」
「…そんなてきと〜でいいのか?」
「いいんじゃない? 要はお祭りなんだし、ぶっつけ本番のライブ感覚って方がノリが
いいかもしれないでしょ?」
「………」
「Are You OK?」
 流暢な発音の英語。
 そういや綾香はアメリカにいたこともあるんだっけ。
「…、Yes sir!」
 もう半ばやけくそで、綾香のお願い(というか脅迫)をオーケーした。

 なんてこった。
 寺女の学祭でバンドのボーカルだと!?
 正直言うと、オレは大勢の観衆の前に立つのが苦手なのだ。
 こんな事なら邪な誘惑に負けて綾香とカラオケ勝負なんかするんじゃなかった。
 しかしすべては後の祭りだ。
 とほー……。

「な〜に? がっくりしちゃって。私とのデュオ、そんなにイヤ?」
「イヤじゃあないが、自信が無い。」
「どうして?」
「どうしてって、そりゃ綾香は歌上手いからいいけど、オレなんかそこらへんの一般レ
ベルだぜ? どう考えたって大衆の前で歌っていいようなヤツじゃないって。」
「別にそんな深く考えなくたっていいんじゃない? 高校の文化祭なんだし。」
「でもなぁ〜。」
「それに、さっきの86点。あれだけ歌えれば充分だと思うけど。」
「あれは…」
「…私が目の前にいたから。」
 綾香の瞳がオレの目を見つめる。
 どき。
 確かにあの時は勝負に勝とうと、綾香の存在をワザと、しかもかなり意識していた。
 それでなくても、薄暗い密室で若い男女二人きり、しかも相手はとびきりの美人とき
たら意識するなという方が無理だぜ。
「な〜んて思ったりしたんだけど、自意識過剰だったかしら?」
 …いや、大筋は合ってるぞ。
 もちろんそんな事は、口に出して言わないが。
 しかし、本人目の前にして言うかふつ〜。
「あの歌ね、聴いてた時、『これって私の事いってくれてるのかな』とか思って、結構
きゅんとした所とかあったのよ。で、『私はなんで姉さんや葵よりも先にこの人に出会
わなかったんだろう』ってちょっと考えたりして…。」
「………」
 内心、かなり浮き足立ってるオレ。
「…って言ったら嬉しい?」
「…あのなぁ」
 全身から力が抜けた。
 そういうフェイントはタチ悪いぜ、お嬢さんよお。
「まぁちょっとはそう思ったのよ、ホント。だ・か・ら、自信持ちなさいってば、この
色男!」
 いつのまにか食べ終えたチョコパフェのスプーンで、オレの額を軽く小突く。
 まいったなあ。
 完全に主導権握られてるぞ。
 いくら勝負に負けたとはいえ、我ながら情けない。
「じゃあ、そういうわけで、よろしくね。あ、デモテープと歌詞は後で送っておくから、
どうせ楽譜なんか読めないでしょ?」
 そういうと綾香は席を立ちあがった。
 なんだかうまくだまされた気分で、オレも後に続く。
「あ、ここワリカンね?」
「? オレはハナっからそのつもりだったけど?」
「そうそうそれそれ、そういうノリでこれからもよろしくね。」
 なぜか払いがワリカンなのを喜ぶ綾香。
「?」
 なんだか不思議な気分のまま、オレ達はブルースカイを後にした。


              *


 数日後の昼休み。
 オレは購買部のパンを食べ終えて、雅史、あかりとだべっていた。
「大ニュース、大ニュース、大ニュースぅ!!」
 来たな。
 歩く広告塔、妖怪口ダケ女、生ける拡声器。
 様々な二つ名で恐れられる、自称情報通、長岡志保。 
 ヤツの情報で正確だった事は、今までの確率から20%ほどだと推測される。
 つまり残り80%はデマだという、はた迷惑この上ないオンナだ。
「うるせえぞ志保、何が”大ニュースぅ”だ、またどうせくだらねえデマを仕入れてき
たんだろう。」
「ちょっとお、その言い方は失礼ってもんじゃない!」
 憮然とする志保。
 いつものノリなので、オレは気にせずもっと言ってやる。
「お前のデマに付き合わされる方がよっぽど失礼だ。」
「なぁんですってぇ!」
「まぁまぁ志保。」
 あかりがなだめに入る。
「それより何が大ニュースなの?」
 こっちはいつもマイペースな雅史。
「…っと、そうだったわ。こんなでくのぼうと言い合ってる場合じゃなかった。」
「でくのぼうたぁ誰の事だ?」
「あ〜ら、自覚症状が無いって事は幸せよねぇ。」
「てんめぇ〜。」
「それより大ニュースなのよ、聞いて聞いて!来月の寺女の文化祭で、ウチの2年の男
子があっちのバンドにボーカルで出るんですって!」
 ガタタッ!
「…あらどうしたの、ヒロ?」
「な、なんでもねぇ。」 
 あぶねえ、危うくコケそうになったぜ。
「へぇ、すごいね。あんなお嬢様学校のコからお呼びがかかるなんていったい誰なんだ
ろう?」
 あいかわらずのマイペースで疑問を口にする雅史。
「でも…寺女って校則厳しそうだし、バンドなんてできるのかな?」
 これはあかり。
 至極もっともな意見だろう。
「はいはい、じゃあ順番に答えるわね。」 
 さも嬉しそうに言う志保。
 こいつは自分の情報に反応が返ってくるのが至福の楽しみらしい。
「まず、ウチの学校の誰が出るのかなんだけど、これが残念ながらまだ解ってないのよ。」
 そりゃそうだ。
 オレは誰にも言ってないし、向こうの関係者がわざわざウチの学校まで来て喋ってい
くとも思えない。
 この件は当日まで極秘プロジェクトで進行するはずだからな。
「候補は何人かいるんだけど、どれも決め手に欠けるのよね〜。」
「候補ってのは誰なんだ?」
 ちょっと興味がある。
 一般ピープルの考える”お嬢様学校の生徒に呼ばれそうなヤツ”という所に。
 志保は少しの間考えて、
「ん〜、まずウチの軽音楽部の大脇、次にテニス部の斎藤、で、雅史と最後がバスケ部
の矢島ってとこかしら。」
 と、容疑者リストを口にした。
「ボクも入ってるの?」
「そ〜よ、雅史、あんたあたし達にだまってバンド引き受けたりしてない?」
「いや、そんな話は無いよ。それに対抗試合が近いからそういう話が来ても断ると思う
し。」
 なるほど。
 傾向が読めたぞ。
「それってウチの女生徒に人気のある順なんじゃないのか?」
 しかも特定の彼女がいないヤツらだ。
「まぁ、そうともいうわねぇ。」
「こらこら、なんだそのいいかげんな予想は。」
 ちったあ悪びれんかい。
「でも情報不足で誰なのかが絞り込めないから、とりあえず有りそうなラインっていう
とこのあたりかな〜って。」
 オレの名がかすりもしないってのは喜んでいいのか悲しむべきなのか…。
「まぁおめえの短絡思考じゃそのへんが限界だろう、で、もう一つの方は?」
「なんかいちいち引っかかるわねぇ、で、あとはどうしてお嬢様学校の寺女でバンドな
んかやれるのかっていうと…。」
 じっと注目する3人。
「ワイロよ。」
 ガタタッ。
「なななんじゃそりゃー!」
 オレは椅子ごとひっくり返りそうになった。
「ん〜そんだけ大きなリアクションしてもらえると、話がいがあるわねぇ〜。」
「呆れとるんだ、アホ。」
「なによ〜、どうして呆れるわけ!?」
「あのなぁ、どうしてたかが文化祭で、バンドを認めさせるために、ワイロなんか使う
んだ? タチの悪い芸能界ドラマの見過ぎだ。」
「でも相手は金持ちばっかの学校よ、それぐらいする人がいても、おかしくないんじゃ
ない?」
 こいつの頭の中では”金持ち=悪者”の図式が出来上がってるらしい。
 世間じゃそういうのは、ヒガミっていうんだぞ。
「充分おかしいわい。大体なんでそういう話になったんだ。」
「ふっふっふ、それはねぇ…」
「もったいぶるような話かっ!」
「そのバンド、仕切ってるのがあの"来栖川グループ”のお嬢様、来栖川綾香さんなの
よ。」
「その人って三年生の来栖川先輩の妹さん?」
 そういやぁ、あかりは会ったことがなかったっけ。
「そうそう、来栖川芹香先輩の妹で、あたし達と同級なんだって。」
「で、なんであや…来栖川綾香が仕切ってるとワイロになるんだ?」
「だってあの学校、ウチと同じくメインスポンサーが来栖川グループでしょ? だから
そういう癒着もあるんじゃないかって。」
「あのなぁ…」
 オレはわざとこめかみを押さえるポーズを作って、
「メインスポンサーなら、わざわざワイロなんか使わなくっても、それだけで充分発言
力があるだろ〜が。」
 憐れむように言ってやった。
「あ、そうか。」
 ポンと手を打つ志保。
 こいつ…やっぱてきと〜に話作ってやがったな。
「あ〜くだらねぇくだらねぇ。やっぱまともにとりあってやるんじゃなかったぜ。」
「なななによその言い方、気に入らないわねぇ〜。来栖川のお嬢様のバンドで、ウチの
男子が出るってのはホントなんだから!」
「じゃあホントの事だけ話せばいいだろーが。」
「それじゃ志保ちゃんの沽券に関わるのよ。」
「どんな沽券じゃ!」
 オレのツッコミを無視して話を続ける志保。
「そうそう、言い忘れてたけど、その男子って来栖川綾香さんのイ・イ・ヒ・トらしい
のよ。」
 なるほど、それでさっきのラインナップなわけか…っておい!
「それって彼氏って事?」
 それ以外どういう解釈があるんだ、雅史。
「そうに決まってるじゃない。」
「お前、そのデマはいったいどこから仕入れてきたんだ!?」
「んふふふー、知りたい?」
「いいから言え、すぐ言え、さあ言え。言わないと3回以上コロス。」
「…なにムキになってんの、このバカは。」
「バカは余計だっつーの!」
「はいはい、言うわよ言うわよ。あのね、何日か前の日に、綾香さんが同じバンドのメ
ンバーに『わたしのイイヒトが出てくれる事になったから』って言ったらしいの。それ
が人伝いに私のネットワークに引っ掛かってきたってわけ。」
「………」
たのむぜ綾香よ……。
 (To Side B
 


※本作品中で一部引用した歌詞は Leaf制作 "To Heart" の主題歌”ブランニューハート”の物であり、
その著作権はLeaf/株式会社アクアに帰属します。


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