かなり走り続け、もう誰も追ってこないと判断して、それでも更に数分走ってから、俺たちはようやく足を止めた。
と、まるでそれを待っていたかのごとく、俺のPHSが鳴り出した。
「ハロ〜☆ ヒロ、見てたわよぉ〜。マルチちゃんとの駆け落ち騒動。
明日のトップニュースはこれで決まりね!」
…志保。見てたのか。一体どっから聞きつけてきたんだ?
「志保ちゃんネットワークにぬかりはない!」
訊ねたら、そういう答えが返ってきた。こいつもこいつで侮れない奴…
「にしてもよ〜くお似合いだったわよ〜」
「…何だよ、お前嫉妬(しっと)してるのか?」
「ふざけた事言わないで! なんであたしがあんたなんかに嫉妬しなきゃいけないのよ!」
軽い反撃のつもりだったのに、予想外の反応。こいつまさかほんとに…
止めよう。
俺はマルチを選んだんだ。そんなこと考えるだけで、マルチに失礼だな。
俺は軽口を返して志保との電話を切った。
そして…
「愛してるよ、かわいいマルチ…」
そう言って、マルチにキスをした。真っ赤になったマルチは本当にかわいい…。思わず頭をなでなでしたくなる。
と、マルチの頭に手を伸ばした時。その向こうにあかりがいた。
「今日からマルチちゃんがあたしと替わるのよ。大切にしてあげてね」
そう、あかりが言ったのが何故か判った。声が届く距離ではないというのに…
ずっと、俺の好きだった幼なじみの女の子…。もう、これからはこれまでのようには会えないね…
「さようなら…」
それは、幼かった自分に対する決別の言葉でもあった。
《Fin》