ToHeart パロディSS
「笑顔の約束」
第1章.「出発!」
−−おぬしが、次の資格者か? なんだか頼りないのう……。
(なんだ、この声は? 勝手なこと言いやがって)
−−まぁ、よいわ。ホレ、おぬしの属性を言わんか。
(属性? 属性ってなんだ?)
−−そんなことも知らんのか!? 属性とは、平たく言えばお主の守護者の
ことじゃよ。この世界を見守る6体の守護者、そのうちの誰の加護を
受けているかによって、光=愛、火=力、水=情、風=速、地=知、
闇=魔のいずれかの属性を得ることになるのじゃ。
(長い説明セリフ、ありがとーよ。でも、別にオレは何の神様も信じちゃ
いないぜ)
−−なんと! それでは、おぬしに属性はないというのか?!
−−……信じられんが、本当のようじゃな。だとすると、おぬしの旅は
最初キツいことになるぞ。
−−まあ、せいぜい、頑張るんじゃな。期待せずに待っているぞえ…。
(お、おい! 何だよ、旅って!? 言いたいことだけ言って帰るな!!)
−−……。
スパコーーン!!
「あいてッ!」
と、気がつくと、オレの目の前には、見覚えのあるうらぶれた中年のオッ
さんが、木剣を片手に立っていた。
「ほらほら、浩之くん、稽古の最中に何をボーッとしてるんですか?」
「何だ、長瀬のオッさんか」
「キミねぇ……仮にも師匠兼保護者を"オッさん"呼ばわりはないでしょう」
あ、なるほど。そーいう設定なワケね。
「で、どうしたんです? いきなり立ち止まってブツブツ言い出すから、
てっきり毒電波で壊れたのかと思いましたよ」
「いや、何かちょっと属性がどうとか、旅がどうとかいう声が……」
……って、コレじゃあ、マジで電波受けてたみたいじゃん、オレ。
やっぱ晴れた日はよく届くのだろーか?
「フーム……ま、いいでしょう。今日のところは、このへんにしときましょう。
そろそろ朝食にしましょうか。ちょうど彼女が準備してくれてる頃合いだし」
「あ、浩之ちゃ〜ん、お疲れさま。ご飯できてるよ」
おたま片手にニコニコ微笑むコイツは、幼なじみのあかり。
赤い髪をお下げにし、簡素な藤色のワンピースの上にエプロンをつけた姿から
は想像しがたいが、普段は町の教会で見習い神官をやってるはずだ。
昔っから世話焼きで、女手のいないこの家のことを心配して、こうしてとき
どき飯作りに来てくれたりする。ま、ありがたい存在だな。
「おや、あかりちゃん、いつもすまないねぇ」
「そんな、おじさま、わたしが好きでやってることですから……」
「ほう、好きでねぇ……」
な、なんだよ、オッさん、いや師匠、その目つきは!?
「ところで、浩之くん。確か先週がキミの誕生日でしたね。何歳になったん
だっけ?」
あかりの作った朝食が、3人の胃袋に納まり、オレたちが食後のお茶を楽し
んでいた最中に、オッ……師匠は、何気なくそう切り出してきた。
「オイオイ、自分の被保護者の年ぐらい把握しといてくれよ。17歳だって……
あっ!!」
「やっと気づきましたか。そう、ウチの一族の家訓は覚えてますよね?」
「ああ、あの『男子は17歳になったら、嫁さんを探しに旅に出る』ってヤツ
だろ? いやぁ、忘れてたぜ」
「だろうと思いましたよ。で、幸い、今日は絶好の旅行日和ですし、このまま
出発しちゃったらどうです?」
「お、オイオイ、えらく唐突な話だなあ」
「別段唐突でもないでしょう? この事は前々から知ってたはずですが?」
と、番茶をすすりながらさらりと切り返す師匠。
「そうそう。旅に出るつもりなら、名剣の封印解いて持ってっていいですよ」
「本当かよ!?」
思わず、椅子から立ち上がるオレ。名剣とは、別名「命剣」という命ある剣で、
最高級の切れ味を示す武器だ。世界中を捜しても5本しかないと言われている
希少品中なんだが、どういうわけか、オレの家にその1本が伝わっているんだ。
「どうしたの、浩之ちゃん?」
台所で洗い物をしていたあかりが、騒ぎを聞きつけてやってくる。
「おう、あかり、わりぃが弁当こさえてくんないか?」
「それは別にいいけど……。どこかにおでかけ?」
「ん、まぁな。修行の旅に出かけることになった」
あかりは目を丸くしている。そりゃ、そうだ。さっきまでそんなことは一言
も言ってなかったんだからな。
「心配ないよ、あかりちゃん。旅っていっても、ひと月位、長くてもふた月は
かからないと思うから」
師匠が動転しているあかりをなだめているのを尻目に、オレは旅に出る準備
のために、自分の部屋に入った。
だから、その直後、師匠が
「−どの道、それ以上時間はかけられないしね……」
と呟いたのにも、その時は気づかなかった。
「…はい、お弁当」
やがて、半刻もしたころ、あかりがオレの部屋にやって来た。
なんでか知んねーが、妙にモジモジしてやがる。
「なんだ? 何か言いたいことがあんだろ?」
「う、うん。ねえ、浩之ちゃん、わたしもついて行っちゃダメかなぁ?」
ま、そんなこったろうと思った。
「おいおい、わかってんのか? オレは物見遊山じゃなくて、剣の修行の旅
に出るんだぜ?」
ま、それだけじゃなくて、嫁さんを捜すっていう目的もあるけどな。
「うん……でもホラ、わたし、これでも神官だし、一応それなりの訓練は受け
てるし……治癒の魔法とかも使えるし、ケガしたときなんか役に立つよ」
そーいや、あかりのヤツ、粗忽者のくせして一応神官のはしくれだっけ。
まさか、「ずっこけシスター」とか呼ばれてんじゃねーだろうな……って、
それは違うゲームか。
オレとしては、あかりを危険なことに巻き込むのは、あまり気が進まない
んだが(無論、女の子とお近付きになるのに障害になるという本音もある)、
回復役兼料理担当が同行してくれるのは、正直ありがたい。
「んー、それじゃあ、とりあえず教会の大神官様に許可をもらえよ。話はその
あとだ。オレも町までは一緒に行くから」
「うん! ありがとう、浩之ちゃん!!」
こんなことでこんなに喜びやがって。う〜ん、カワイイやつ。
「じゃ、師匠行ってくるぜ」
「ウンウン、頑張って、いい娘つかまえて来るんだよ」
「??? なに、それ、浩之ちゃん?」
「な、なんでもねーよ。じゃあな、師匠。達者でな」
「ハイハイ」
「あ、待ってよ、浩之ちゃーん」
こうして、オレとあかりの珍道中が始まったのだった。
すぐ先にとんでもない騒ぎが待ち受けているとも知らずに……。
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<後書き>
はい、もう元ネタはおわかりですね? 「ブルブレ」です笑い。「ネクキン」
か「エタメロ」にしようかという案もあるにはあったんですが(とくに前者
は最後まで迷った)、女の子の数との兼ね合いなどからこうなりました。
一応、東鳩全キャラに焦点を当てるつもりなので、期待せずにお待ちください。
次回、名剣の封印を解いた浩之たちは、思わぬ災厄に……。