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ToHeart パロディSS
 

「笑顔の約束」




第2章.「解放!」


 「えーと……確かここでいいんだよな?」

 「う、うん、たぶん」

  町から少し離れた高台にあるオレの家から、町へと向う小道の途中にあ
る小さな祠(ほこら)。

  家を出たオレたちは、師匠の許しも出たことだし、早速、名剣を手に入
れるために、ここへやって来ていた。この祠の奥に我が家に伝わる名剣が、
厳重に封印されてるはずなんだが……。

 「しっかし、ボロい建物だよなぁ。こんなんでよく名剣取られ無かったモン
だぜ」

 「浩之ちゃん、ここって見かけは古いけど、奥の結界はすっごく強いみたい」 

  なるほど、それでか。しかし、あかりの奴、それがわかるとは、りっぱに
"神官"してるじゃねーか。ちっとは見直し……。

 「あ~ん、クモの巣まともにかぶっちゃったぁ。浩之ちゃん、取ってぇ」

  訂正。やっぱ、あかりはあかりだぜ。


  などといつもの掛け合い漫才をやりがら、オレ達はほこらの最奥にある扉
の前に立った。

  見ると、扉の鍵の部分が分厚い氷で閉ざされている。なるほど、これが封印か。

 「えーと、開封の言葉は……なんだっけ」 



  A.オーソドックスに「開けゴマ!」

  B.「ただいま」「おかえりなさい」

  C.「よろしくね、耕ちゃん」



  ……C、だよな。なにせ、名剣の名前が名前だし。ちっとばかし、こっ恥ず
かしいが仕方ねぇ。

 「『よろしくね、耕ちゃん』」

  しーん。
                                  
  反応なし。う~む、裏をかいて、AかBだったか。

 「あ、そうだ!  浩之ちゃん、おじ様からこんな紙を預かってたんだけど……」

  あかりが、ポシェットをゴソゴソやって取り出した紙には、「浩之くんへ」と
書いてあった。折り畳まれていた紙を広げると、そこには、しっかり開封の呪
文が……。そーか、そういうオチか。

 「おい、あかり、あんな恥ずかしい言葉を口にしたオレの立場はどーなる!?」

 「きゃん! ご、ごめんなさい」

  ったく、名剣開封の緊張感なんてモンはどっかにいっちまったぜ。

 「えーと、『近くて遠い異界より飛来せし鬼神の同胞、熱き氷の剣巫女よ、
汝が魂宿りし剣を……』」

  かなりいい加減に唱えたんだが、反応はあった。

  ピシッ。

 「『その役目より解き放て!!』」

  パキーン……。

  鍵を覆っていた氷が一瞬にしてひび割れ、はじけとんだかと思うと、扉が自然
に外に向って開いてきやがった。う~ん、お約束だが、実際目にするとなかなか
興奮するシチュエーションだぜ。

  完全に扉が開き、暗闇のなかに光る点が……3つ!?

  ゴオーッ!!

  不審に思う間もなく、3つの光球が、オレたちのほうに飛び出してきやがった。

 「キャッ!」

 「伏せろ、あかり!」
                                                    
  とっさにあかりを押し倒したが、光球はオレたちには目もくれずに、祠の天井
を突き破って空へと消えていった。

 「な、なんだったんだ、いまの?」
 
 「さ、さあ……」

  どうもイヤな予感がするが……。

  気をとり直して再度扉の中を覗き込むと、そこには見事な長剣が抜き身の状態
で地面に転がっていた。

  傍らに土を盛り上げた塚みたいなモンがあるが、ふたつにひび割れている。

  それが気にならないでもなかったが、それよりオレは初めて目にする名剣の
輝きに見とれていた。

 「これが……ウチに代々伝わる名剣"リズエル"か」

 -たいへんなことをしてくださいましたね。

 「ん、あかり、何か言ったか?」

 「え!?  ううん、別に……」

 -私です。リズエルです。

 「い!? け、剣がしゃべってるのか?」

 -驚くことはないでしょう? 名剣が「命ある剣」だということはご存知のはず。

  それから、名剣リズエルが語った事柄はハッキリ言ってオレたちの想像を越え
ていた。なんと、リズエルは自分ごと古えの魔王の直属の配下3体を封じていた
のだという。ところが、オレが開封の呪文を唱えたばかりに、その結界が解けち
まった……って寸法だ。どうやら、オレの家系は、名剣を伝えてきたのではなく、
名剣の封印を護ってきた一族だったらしい。

 「あンのクソ師匠、んなことは一言もオレに言わなかったクセに……」

 -このままでは、開封された配下の魔物が、魔王に施された封印を解くのも
   時間の問題でしょう。あながたには責任をとって協力していただきます。

 「ど、どうしよう、浩之ちゃん! 魔王なんかが復活しちゃったら……」

 「ヘッ、わかってるって。その前にさっきのヤツらを倒せって言うんだろ?」

  駆け出しの剣士にゃ重たいクエストだけど、責任の半分はオレにある以上、
やらないわけにいかんだろうなぁ。

 -それと、もし、万が一、魔王が復活したときは、そちらの始末もお願い
   します。

  グッ! そ、それはちと無理過ぎるのでは?

  そうは思ったものの、口には出せない。

  いや、なんか、もし断わろうものなら、「では、あなたを殺します」とか言われ
そうな雰囲気がひしひしと伝わってきたもんで……。

 -私もできるだけあなたのフォローはいたしますから、早く一人前の剣士にな
   ってくださいね。

  それって、いまはまだ半人前ってことだよなぁ。まあ、否定する気はないけど。

  傍らに転がっていた鞘にリズエルを納めて腰に差しながら、とりあえず半ばヤケ
クソ気味にこう呟いてみるオレ。

  「よっしゃ、名剣リズエル、ゲットだぜ」

  ちと、代償が大きかったけどな。



  ヒュンヒュンッ……!

  「いててッ! な、なんだ!?」

  入ったときとはうって変わって意気消沈して祠を出たオレたちを、キツ~イ
攻撃魔法の洗礼が待ち受けていた。

 「フフフ……苦手な風の魔法で、そんなに驚かないでくれよ」

  祠の前でフワフワと宙に浮かんだまま、端正な青年に見える何者かがそんな
苦笑を漏らす。「何か」と言ったのは、それが人間を模した形態を持ちながら、
明らかに陶器を思わせる肌とガラス玉のような瞳を持っていたからだ。

  この世界にもゴーレムと呼ばれる自動人形は存在するが、ここまで滑らかに
動くことも、ましてや嘲笑の声を投げかけることもない。ましてや、全身から
魔族特有の凶凶しいオーラを発すること……って、魔族ぅ!?

 「もしかして、オメエ、さっきの……」

 「フフ、そのとおり。先ほど、キミたちが解放してくれた魔王四天王のひとり、
ノイズマスターですよ」

  げ、やっぱり。

 「オ、オレたちに何の用だ?」

  情けないことに、そのときのオレの声は少なからず震えてたかもしれない。

  まぁ、冷静に見て、「ぶちスライム相手にも苦戦するレベル1のパーティが、
いきなり中ボスと遭遇しちゃった」状態だったのだから、無理はねえだろう。

  そんなオレたちの様子を見て、ノイズマスターの野郎、何がおかしいのか、
クスクス笑ってやがる。

 「いえね。せっかく退屈な封印から解放してくださったんですから、少々お遊
びに付き合ってさしあげようと思いまして……ね」

  ヤツの語尾とともに空気が震える。いや、実際に振動していたのは、オレた
ちの脳みそのほうかもしれない。あるいは、魂か?

  チリ、チリチリチリ……。

  「グ……くはッ!」

  「ひ、浩之ちゃあん……」

  脳を直接シェイカーで揺さぶられるような不快感と、焼け火箸で頭ン中を
じかにステアされるような激痛が交互に襲ってくる。

  視界の片隅で、あかりが崩れ落ちるのが見えた。

  (スマン、あかり……)

  わずかに残った思考の片隅で、そう考えながら、数秒後にオレの意識も
暗黒の淵に滑り落ちる。

 「なんだ、だらしないねぇ。しょうがない、今回だけは回復してあげよう」

  僅かに不満そうに、ノイズマスターがそんな言葉を漏らすのを聞きながら。




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  <後書き>

ん~、やっぱ一人称だと視点が限られるぶん、ちょっと状況描写がしにくい
ですねえ。次回、からくも町にたどりついた2人は、仲間捜しに奔走するこ
とに。そこで見つかった仲間とは……いいんちょファンは乞うご期待!


-第3章「登録!」-

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