ToHeart パロディSS
 

「笑顔の約束」





第3章.「登録!」


 「……やっと着いたね、浩之ちゃん」

 「ああ。まったく、普段なら歩いて半時間かからねぇ道のりが、こんなに
遠く感じたのは初めてだぜ」

  あのあと−ノイズマスターとかいう奴の電波魔法の一撃で意識を失った
オレたちだったが、どういうワケだか、アイツはオレ達にとどめをささな
かったらしい。

  おかげで、小1時間ほどたって意識を取り度したオレたちは、痛む体を
引き摺りつつも、何とかこの町の門をくぐることができたってわけだ。

 「しっかし、あんなのがほかにもまだ2体いるってのかよ。たまんねーな。
ん、なんだ、あかり、首をかしげて?」

 「う、うん。どうしてあの人、わたし達にとどめをささなかったのかなぁ?
……って」

 「大方、オレたちのあまりの弱さに拍子抜けしたんだろうよ」  

  なんだか自分で言ってて情けなくなってきたが、実際弱いのは事実だから
しょうがねぇ。オッさん−師匠に鍛えられてたんで、多少自信はあったんだ
がなぁ。ハァ……。

  とはいえ、さっきの一戦でわかるように、どうやら魔族のほうはおとなしく
オレたちが成長するのを待っててくれそうにない。早急に戦力を強化する必要
があるな、コレは。

  そんなオレの心中を知ってか知らずか、あかりのヤツは妙に小綺麗な建物へ
とオレを案内した。

 「何だ、こりゃ?」

 「えっとね、浩之ちゃん、冒険者ギルドって知ってる?」

 「ああ、名前くれぇはな。ここがそうなのか?」

  あかりによると、ギルドってのは冒険者の互助組織みたいなモンらしい。
登録した組合員は、アイテム類の割引販売や情報の提供、仲間の斡旋なんかの
特典を受けることができるんだそうだ。もちろん後の2つについては多少の金
がかかるが、営利団体ではないので、それとて子供の小使い程度の金額らしい。

  即戦力の強化のためにぜひ強力な仲間が欲しいオレたちには、絶好の機会っ
てわけだ。

 「あ、ヤッホー、あかりちゃん、おひさしぶり〜!」

  中に入って早々のカウンターの向こうから明るい声をかけられた。

  見れば、オレたちと同い年くらいの少女がニコニコしながらこっちを見ている。
あかりとは微妙に違う色合いの赤い髪を長く伸ばした、ちょっと背の高い娘だ。
どうやらこの受付嬢と、あかりは顔見知りらしい。

 「あ、さおりさん、お久しぶりで…」

 「ほんと、前に来たのが墓地のスケルトン退治の依頼のときだから、1ヶ月ぶり
じゃない。回復魔法の腕前は確かだから、あかりちゃんのご指名は結構多いんだ
よ。たまにはこっちに顔出してね。アレ、そちらのおにーさんは新顔だよね。も
しかして、あかりちゃんの彼氏?」

  「さおり」と呼ばれた娘が一気にまくしたてる。ややトロくさいところのある
あかりのほとんど4倍速ぐらいのスピードでしゃべってるぞ、オイ。

 「ち、違うの、さおりさん。この人はわたしの幼なじみで……」

 「ああ、彼が例の"浩之ちゃん"か」

  呆気にとられていたオレだが、さすがにその言葉は聞き捨てならねぇぞ。

 「オイオイ、例のって……あかりのヤツ何かオレのこと言ってたのか?」

 「ンフフ。内緒……っていうほどたいした情報は実は無いわね。このあたしが
知らないってコトは町の人々の間でもそう噂にはなってないわよ」

  なるほど、この少女、いわゆる町の情報通とかいう人種らしい。

 「で、今日は何の用なの?」

 「あの、浩之ちゃんの登録に」


  神殿のほうへ挨拶に行くというあかりといったん別れ、オレはギルドへの
登録手続きを、とりあえずすませることにした。

  幸い、先ほどの受付嬢−さおりちゃんが手伝ってくれたので手続き自体は
すぐに済んだ。

 「あかりちゃんと待ち合わせてるんでしょ。だったら奥の酒場にでも行って
たら?  ギルドの直営だから値段のほうは良心的だよ。品数と味はそこそこ
だけど」

  という、さおりちゃんの忠告に従って、オレは「居酒屋りーふ」と看板のぶら
下がっている扉をくぐった

  直径1メートルほどの円卓が4つと、3メートルほどのカウンターという構
成の店内はやや薄暗かったが、清潔で落ち着いた雰囲気が感じられた。

  カウンターの向こうではマスターらしき青年−といっても、オレとそう年齢
は変らないようだが−がグラスを磨いている。テーブルの間を行き来していた
ウェイトレスの眼鏡をかけたちびっこい少女が、照れくさげに「いらっしゃませ」
と声をかけてきた。

  まだ早い時間のせいか客の数は少ないが、それでも酒場は陽気な喧騒に満ち
ていた。

  オレがカウンターの席につくと、目の前にエールの入ったジョッキが置かれ
る。酒は強いほうじゃないが、ここのエールは口当たりと喉ごしがよく、オレ
でもすんなりと半分ほど飲み干せた。

 「へぇ、悪かねぇな……」

  続いてマスターに何か注文しようとしたとき、それは起こった。

 「ワレ、ふざけんやないで!!」

  ボグッ、ベキッ、バシーン!

  女の怒鳴り声とともに、殴りとばされた男の身体がカウンターの近くまで飛
んでくる。思わず振り向いたオレの目には、戦士らしき少女がチンピラ風の男
の胸ぐらを掴んでガクガクと揺さぶっている光景が飛び込んできた。

 「もっぺん、言うてみィ、ウチが何やて!?」

  やや西方なまりがきついが、澄んだよく通る声が男を詰問する。チンピラは
弱々しくかぶりを振っているみたいだが……。
                                            
  ちょうどそのとき、オレはそのチンピラの仲間らしい男が、少女の背後から
忍び寄ろうとしているのに気がついた。

 「アブねぇ!!」

  とっさに傍らにあったジョッキを投げつける。半分残ったエールを撒き散らし
ながら、陶製のジョッキはカウンター気味に男の額に当たり、思わず男は頭を押
さえてうずくまる。

 「セコい真似、せんとき!」

  振り返った少女はチンピラを投げ捨てると、うずくまった男にヤクザキックを
入れる。かかとがモロに急所に入ったらしく男は悶絶している。さ、さすがに、
あれは痛ェぞ。

 「−クソッ、覚えてろ!」

  お約束なセリフを吐いたあと、最初に吹っ飛ばされた男が、仲間ふたりに手を
貸して酒場から転がるようにして逃げ出していった。

 「フンッ、3日で忘れるわ!!」

  後ろで三つ編みにした茶色の髪をブンッとひと振りすると、少女はオレのほう
に向き直った。

 「さっきジョッキ投げてくれたんは、アンタやろ?  おおきに、助かったわ」

  さきほどまでの怒鳴り声が嘘のような、クールで落ち着いた声だった。よく
見れば、自分より背の高い男を殴り飛ばしたとは思えないほどきゃしゃな体格
をしている。もっとも、出るべき場所は出たなかなか女らしい体型だというこ
とは、胸甲(ブレストプレート)の上からでもよく分かったが。

 「なに、ジロジロ見てるん?」

  さすがに年頃の娘らしく、彼女はオレの視線に敏感に反応した。

 「…っと、わりぃ。そういうつもりは無かったんだが……。あ、オレは藤田浩之。
今日ギルドに登録したばっかりの新米だ」

 「へぇ〜、そうは見えんけどね。ウチは保科智子。見てのとおり傭兵や」

  背中に背負った特大サイズの鉄扇の柄の部分をポンと叩くと、彼女はフッと
微笑んで見せた。

              −第4章「編成!」につづく−

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  <後書き>

む〜、今回ちょっと短いです。オマケに委員長の性格が初期状態と違ってるし。
まぁ、浩之に対するときの性格は、智子シナリオ後半の状態だと思ってください。
チンピラをブッ飛ばすなんてのは委員長らしくないと思うかもしれませんが、そ
のへんのいきさつは次回に。


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