5





	 私はカメラが好き。
	 大切な思い出を、変わらぬまま保存してくれるから。
	 もしも、自分が変わってしまっても、
	 忘れちゃいけないものは、いつも写真の中にある。
	 いつまでも変わらない思い出。
	 いつまでも変わらない気持ち。





「シホ、これ使ってよ」

 翌日。
 頭がガンガンする。飲み過ぎたな、と思った。
 この分じゃレミィも相当……と思ったら、彼女は一向平気そうで、ぱたぱたと元気よく
駆けてきた。
 そして、レミィがその手に持っていたのは一台のカメラ。

「これって……あれじゃないの?」

 私はそれを手にとって、ためつすがめつ眺め回した。
 てっぺんと底が銀梨地で、黒い皮シボのボディ。
 雑誌で見たことがある、ライカM3ってやつ。
 なんかレトロ調でかっこいいんで、欲しかったんだ。
 もしかしたらおこづかいで買えるかも、と思って調べてみたんだけど、全然だめだった。
すっごく高いの。

「Dadが昔使ってたんだって。私がもらったんだけど、難しくて使えませんでした!」
「でも、こんな高いの……」
「いいの。私はこれがあるモノ」

 いきなりぬっと銃口を突き出されたので、思わずのけぞってしまう。
 またこのパターンかい。

「新しいの買ったんで、ガーランドは私にくれるって」
「ちょっとそんなのこっち向けないでよ!」
「だいじょーぶ、弾は入ってマセーン」
「あんたがそういうときは絶対抜き忘れた弾が入ってんのよ!」
「じゃあ入ってるかどうか試しに一発」
「撃つなー!!」





 さて。
 まずは使い方から勉強しなくちゃねえ。
 ファインダーをのぞいてみる。
 うーん、これは……なんか見え方が変。
 私、オートフォーカスしか使ったことないしなあ。

「これ、どうやってピント合わせるの?」
「アノね、画面の中、イメージがダブルになってマセンか?」
「本当だ。なんかぶれてるみたいな感じ」
「これをね、このダイヤルで一つに重なるように合わせるんだって」
「ああ!」

 思い出した、レンジファインダーって奴。カメラ雑誌で見たっけ。
 もう一度見てみる。
 画面の中に、二重にブレた像。

 私みたいだ。

 レミィに向けてみる。
 フレームの中で二重にぶれた彼女が笑う。
 ゆっくりとピントを合わせると、一つに重なった。

「Ya!」
 ぶいっ。

「……ピースサインは古いでしょうよ、レミィ」
「アハハッ、ソウですか?」

 いまの私と、あの頃の私。それが重ならないまま、ずっとここまで引きずってきた。
 でも、もうこのへんで、ピント合わせなきゃ。
 ダイヤルを回す。ゆっくりと二つの像が重なる。
 完全に重なる少し前で、止める。

 これがいまの私。

「もうひとがんばり、かあ」

「え? ナニが?」
「車の免許取ろうかな、と思って。必要でしょ?」
「いいですネ!」

 ぱちん、と手を打ちあわせるレミィ。

「アタシが教えてあげマース!」
「……それはいい」

 ジャーナリストはフットワークが命。
 だから、とりあえず免許だな、と思った。
 言葉の方は、まあなんとかなるでしょ。
 だってほら、しゃべりが志保ちゃんの身上だもの!









次へ


インデックスへ戻る