お題 “志保” |
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「ruiner and laster」
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あら?今日はあいつ、いないんだ。もう帰っちゃったかな? …何であいつを探してんのよ、あたしってば。違うわよ。あかりよ、あかり。あいつといっつも一緒だからつい あいつを探しちゃっただけで、あいつ本人には用なんてないんだから。 …ま、まあどーしてもあたしの情報が聞きたいってんなら、話につきあってやってもいいけど。 あいつすぐ真に受けるし、反応が楽しいし、あいつとのやりとりも気持ちいいし。 ってだからそうじゃなくって… 「あれ?志ぃ保ー」 わ! たたた… 「まだ残ってたんだ。よかった。一緒に帰ろう?」 「あ、あかり。もしかしてあんたのクラス、早く終ってたの?」 「うん。担任の先生が休みだから。最後の時間の先生がついでにHRやってくれたの」 「ああ、なんだ。それであんたのクラス、人がほとんどいなかったんだ」 「うん。…あれ? ってことは、私のクラスまで来てくれたの?」 ぎく。 「あ…うん」 「そっか。ごめんね。私掃除当番で、ゴミを捨てに行ってたから」 …さっき、あたし、あかりが、いるかどうか、見て、なかった…。なんで…? 「あ、あー、それでね。なるほどー。アハハハッ」 何笑ってんの、あたし。まるで何かごまかそうとしてるみたいじゃない。 「…どうしたの?志保」 ほら。この子、こう見えて結構鋭いんだから。 え?…あたし、なにか後ろめたく思ってる…?。あかりにやましいことなんて…ない、よね? 「や、やーねー。ほとんど人がいない時間になってもゴミ捨てが終ってないなんて、あかりらしいな、って思ったのよ」 「…その場合、あかりらしいってゆうのは嬉しくないよお」 「あは。ごめんごめん。許して、ね?」 「ぶー。私ってそんなイメージ?」 「そんなことないない。ほおら、ヤックつきあったげるからさ、機嫌直してよ」 「んー、いいよ。って別にヤックつきあうのは珍しくないじゃない。ふふ」 「あれ?そうだっけ?あはは、じゃ、いつものとおり、行きましょ」 ほおら、何ともないんだから。あたしはいつもどおり。 「…って話になってさあ。も、しょーがないったらありゃしないのよ」 「ふふっ。あの先生はいつもそうだもんね」 ヤック帰りにいつも通り他愛ない話をするあたしたち。そろそろ帰らないとまずい時間かな? 「…ねえ、志保。ちょっといい?」 「え?」 時計を見てるとこにふと話しかけてくるあかり。顔は逆光で良く分からないけど、声がちょっと震えてる気がする。 「志保さ。何か…隠してる事、ううん、私に遠慮してる事、無い?」 「…え…?」 あかり、何、言って… 「もし、違ってたらごめんね。…志保、浩之ちゃんの事、どう思ってる…?」 「あ、あたしが…?」 「うん。…もし、志保が私に遠慮してるのなら、そんなことはしなくていいから」 「そ、そんなことないって。あたしが何を遠慮するってのよ。どっちかってゆうと、もっと遠慮しろって言われる事 多いんだから」 「浩之ちゃんに、でしょ?」 「え? う、うん。あいつにはよく言われるけど…」 「志保、浩之ちゃんには変な遠慮はしないものね」 それは、…そうだったかもしれない。あいつとは、気を使う必要の無い付き合いだと思う。でも、だからって… 「べ、別にあかりにだって遠慮してないわよ」 「ううん、志保、いつも私に気を使ってくれてた」 「そ…」 「そんなこと、あるよ。みんなで写真取る時、いつも私がちゃんと写るように気を配っててくれたし、忘れ物しても、 私が困りそうな物は良いって言っても借りていかなかったし、気に入ったハンカチ買おうとした時も、自分も気に入っ てても譲ってくれたし…。」 「…そ…」 そりゃそうよ。あたし、あんたのことだけは、絶対に失いたくない親友だって思ってるから… 「…でも、それは、良くない事だと思う」 「え?」 あかりはそこでつとあたしの顔を見つめた。…目が揺れてる、ような気がする。 「ね、志保。私、親友って互いに対等なものじゃないか、って思う」 あ… 「志保が、私の事本当に大事に思ってくれているのはわかるの。…だけど、一方が一方に遠慮してる間柄って、親友って いうのとはちょっと違うんじゃないかな…」 「あかり…だって、あたし!」 「ごめん、志保。私のわがままかもね。でも…」 そこでちょっと恥ずかしそうにはにかむあかり。 「志保とはそういう対等な親友になりたいから…」 あたしは何も言えなかった。口を開いたら泣いてしまいそうになっていた。訳もなく自分が悲しくて…そして、嬉しかった。 「志保、…私、浩之ちゃんが好き」 うん。知ってる。 「多分、志保も、同じ気持ちじゃないかな、って思うの」 あたしは…あたしの気持ちは…
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