お題 “楓ちゃん”
SideStory of Kizuato
 

「なぜなにキズアト」


Written by AKIRA.R






「こんにちは。私…」
「ちょ、ばか。前振りがいるだろ」
「マイク消して消して!」
プツ…


「3!」
「2!」
「1!」
『どっかーん!』

…
『みんなー、なぜなにキズアトの時間だよ!』

「こんにちは。私、柏木楓は、電子の妖精役です」
「はあい。私ことちづりんは」
ボクッ(こら、ぶりっこすんな)
「…柏木千鶴は、艦長役です(…後で覚えてなさい)」
「えー、あたし、柏木梓は説明博士役です。少し合ってない気がしますが」
(全然合ってないわよ。知的な役なんて)(うるさいぞ、ちづ姉)
「えっと、私柏木初音は、人数の関係上カメラその他です…」

「初音がイネス役やればよかったのに」
「説明役には自己主張の強いのがいいんだってさ。…それ言ったらルリ役の話もあったんだし」
「ヨーク操れるものね。でも今回は私の話だから。…ごめんね、初音」
「ううん、いいよ、私目立つのは苦手だし」
「うう、良い子ねえこの子は。…それに比べて」
「まだ言うかこの年増は」
「…初音、もしかしてこれも収録してる?」
「あれ? わあ、スイッチまだ入ってた!?」
ばたばた

「さあて、今回のなぜなにキズアトは?」
「質問。エルクゥのことを詳しく教えて下さい。試聴者から、です」
「おっけー。さあいってみるわよ。覚悟はいい?」
「なんであたしが縛り付けられてるんだ!」
「あら、被験者Aが騒いでますね。さるぐつわしちゃいましょう」
白衣からタオルを取り出す千鶴
「千鶴姉さん、いつのまに役変えたの?」
「あら。さっき梓ちゃんと相談してね。今は初音が艦長よ」
「そ、そうなんだけど…お姉ちゃん、何でその白衣、一部赤いの?」
「あら、ジャムでもついたのね、きっと」
「そ、そう(楓お姉ちゃん…)」
「(だめよ、今これ以上追求しては)で、何をするんですか?」

「まずはエルクゥの生命力を…」
「もがー!もがー!」
「試してみましょう。えい!」
ドスッ
「ムグッ!?」
「あわわ…(梓お姉ちゃんのお腹に穴が…)」
「(しっかり、初音)あの、博士?」
「このように、多少の(?)攻撃ではびくともしない生命力を誇っています」
ぐりぐり
「ンー!ンー!」
「次はどうしようかしら。そうね、潜水実験を…」
「ンンンー!?」
「博士。実験中ですいませんけど」
「え?」
「そのネタはもういらないそうです。ありがちすぎて」
「…」
「…」
「んむ…」
「はわわ、顔色が悪くなってるよう…」
「えっと、じゃあ次いってみましょう♪」

「(あたしゃ無駄な怪我したんか…)」
「(このまま退場したほうが幸せかもしれませんよ)」


「では次は、エルクゥの精神感応能力の実験よ」
舞台の上に初音登場
「こ、今度は私なの!?」
「大丈夫、梓も使うから」
「大丈夫じゃなーい!」
「うるさいわよ。(ゴン)さて、実験はこう」
ホワイトボードを取り出す千鶴。その後ろで気絶した梓が納められた箱がプールに沈められていく
「ぐるぐるに縛った梓が閉じ込められた箱は、一時間で水に満たされます」
「(いきなりひどい…)この箱の中の部分は?」
「そこにはスイッチパネルがあるの。で、舞台の上にも同じモノがある」
図解を加えていく千鶴。ちなみに絵が判別できないので書こうと書くまいと一緒だったりする
「箱の中のスイッチが光った順番に、上のパネルの方のスイッチを押せば、箱が上昇して梓が助かります」
「もし間違えると?」
「(にこり)箱が爆発するのよ」
「わ、私の手にお姉ちゃんの命が…」

「ではいってみよー!」
「…お姉ちゃん、スイッチの光る順に頭に浮かべて。…そう。うん」

「送受信に成功したみたいです」
「なんかそう言われるとあの髪の毛がアンテナにも見えてくるわね」

「…赤、緑、赤、赤」
ぴんぽーん
「成功したみたいね」
ういーーん
「やったあ! って、あれ?」

「姉さん。ちょっとしか上がっていないけど」
「あら、言い忘れてたわ。これは何段階もクリアしないと駄目なのよ」
「ええぇっ!? ひどいよお姉ちゃん」
「しかも段階が進む毎に、初音と箱の間に遮蔽物を設置します」
「…(初音、私にはこれだけしか言えないわ。がんばって)」

30分後

「で、紫…」
ぴんぽーん
「やっと…やっと終った…」
初音の周りにはコンクリート、鉄、鉛、アルミ、真空隔壁ガラス、電磁ネット、その他諸々の囲いが出来ていた…
「…勝利者インタビューです。初音選手、どの壁ができた時が一番辛かったですか?」
「えっと…」
どたたた
「そんなこと悠長に話してんじゃなーい! あの詐欺師はどこいった!」
「詐欺師って…お姉ちゃんちゃんと助かったんだから、もういいじゃない」
その初音の胸ぐらを掴んで梓は叫んだ
「あんにゃろ、『お腹すくかも知れないから』って、自作のおやつを箱ん中に置いてったんだ!」
「…それは…」
「ちくしょう、いっそ殺せ!とか考えたぜ。どうやったらあんな匂いが作れるんだ」
「…千鶴お姉ちゃんは別に変な材料使わないんだけど、不思議だね」
「…」
「黙りこむなよ、楓?」
「もしかして、あの味こそがエルクゥの神秘なのかも…」

「はあ!?」
「だって、力のまだちゃんと目覚めてない二人が、料理旨いし」
「でも確か楓お姉ちゃんだって、料理下手じゃないでしょ?」
「この間、ちょっとおやつ作ろうとしてみたの」
「…んで?」
「作ってるうちに、頭の中で声が囁くの。『もっと胡椒、そこには…』って感じで」
「嘘…」
「昔、まだ力や記憶がはっきりしてなかった頃は違ったんだけど」
「それで、出来たのは」
「…すっごい味だった。とても食べられなくて、タマにやっちゃったけど」
「(なぜそこでタマにやる!?)」
「(楓お姉ちゃん…私、お姉ちゃんが解らないよ…)」
「もしかしたら、純粋なエルクゥの味覚では、あれが美味しいのかも。私も、もっと力が戻ったら、まずく感じなかったかも…」

どどーーーん

「そ、そうなのか…?」
「そ、そうだとしたら、私達もあんな味を作るようになっちゃうの?」
「それどころか、美味しいと思っちゃうのかも…」
「あ、で、でも、前に作ったキノコリゾットは、普通に美味しかったと思うけど」
「あれは、変なキノコが入ってたせいかも知れないよ」
「ううん、もしかしたら耕一さんの関係した事件のせいで、私達がエルクゥに近くなったからなのかも知れない…」
「こ、恐い事言うなよ、楓ぇ」
「…でも、完全に目覚めてるお兄ちゃんは、普通の食事してるし…」
「普通の食事がまずくは感じないみたい。別に千鶴姉さんも普段変な物食べてないし」


「…ちょっと、皆何やってるの? てっきり梓が追いかけてくると思ってたのに…」
「ちづ姉。少し聞きたいんだ」
「え?」
「普段たまに作る料理、味見してる?」
「失礼ね。してるに決まってるじゃない」
「じゃあ、レシピどおりの味が出来てない事、解ってる?」
「でもそのほうが美味しいわよ。私の勘がそう言ってるわ」
「(勘って…エルクゥの精神の事…?)」
「(うう、そのうちあたしの料理の勘も、それに取って代わられちまうのか?)」
「変な子ねえ。ま、いいわ。続けましょうか」
全員が黙り込む中、千鶴だけが陽気な声で、番組を続けるのだった…



テレビの前の耕一
額に汗が一筋…
「なぜなにキズアト:エルクゥの味覚編ってとこかな…」
テレビのスイッチを消して、ごろりと横になる

「…まてよ?」
ふと思いつく。
「ってことは、俺は千鶴さんの料理を食べても問題なし、か。それに…」
ふふふ、と部屋で一人不気味な笑みを浮かべる
「みんなそうなったら、俺以外の相手に料理を作ってやれなくなる。つまり」
寝たままガッツポーズを作る耕一
「みんな俺以外の男(女も)にゃくっつかん、て訳だ! こりゃハーレム計画完成か!?」
ふはははは、と勝利の笑い声をあげる耕一。いまや世界は彼の物だった…


同時期、同じような笑い声をあげる柳川がいたことを、彼は知らない…







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