お題 “バレンタインデー”
   

「芹香嬢とチョコ」


Written by 血笑




§§ バレンタインデー 前日 §§




 
『え?明日のバレンタインで最後にチョコを渡す人が俺の運命の人だって?』
 私はいつものように返事を言葉ではなく頭を二度縦に振ることで返しました。
『でもよ、先輩。ってことは…』
 藤田さんはまだ何か言っていましたが私はそれだけを言うとそそくさとその場を離れ
ました。別に逃げたわけではありません。ただそれ以上お話することはしたくなかった
為です。
 藤田さんは私の大事な妹の彼氏。最初は落ちこみましたが今ではこうやって二人の間
を取り持つ立場になりました。明日はバレンタインデー。妹は藤田さんの家に泊まりに
行くと言っておりますから、きっと私の言ったことは二人にとってプラスになること間
違いなしです。それにしても問題は妹がチョコを手に入れるかどうかが問題ですが…

『お疲れでございましたお嬢様。ささ、早く車へ』
 執事セバスチャンに言われるがままに車に乗り込み帰宅です。この車の中から同じク
ラスの人達や、まだ話したこともない後輩達を見ながら3年間。1日も休むことなく登
下校をしたのだと思うと少し自分を関心します。遅刻は何回かありましたけどね。

 車で5分。今日は私の毎週楽しみにしている読書の日です。場所は商店街にある1店。
夜中に行った「呼びかけ」に答えてくれたのがこの店の店長さん。なんでもサバトに参
加したとかしないとか。私も1度は体験してみたいものです。
 さて、今日読むのは「悪魔と私」にしようかしら。それともこっちにある「私はこれ
で神をやめました」にしようかしら。でもどちらも最近出版された本のようですから今
日は前から目をつけていた「デビルマン」を読むことにしましょう。

 30分経過 読書時間終了。
 ふ〜もうすこしで5巻が読めたのに、仕方ありません。セバスチャンに呼びに来させ
るのは正直心苦しいので今日はこのへんで、さよなら「飛鳥 了」

 帰宅してから1時間が経過。私の話したい人は帰ってきません。一体どこをほっつき
歩いているのでしょうか?

 更に1時間が経過。なんでお父様はこんなに遅くに帰ってくる娘を怒らないのでしょ
うか?もう6時だというのに…
 
 そんなことを考えていると
『たっだいま〜姉さん』
 どうやら帰ってきたようです。
 そう。私の愛する妹綾香です。私とそっくりなのですが、服を脱げば日頃から鍛えた
筋肉質な身体がきっと私の目の前に現われるに違いありません。
『あっつ〜い。姉さん悪いけどここで着替えさせてね』
 そう言って私の前で綾香はその筋肉ムキムキな身体を見せてくれました。しかし、私
の考えとは裏腹に実際見た綾香の身体には無駄な肉がなく。それこそ「出るとこは出て、
引っ込むとこは引っ込む」理想的な体形でした。それに比べて私の方は、

…ムニュ、ムニュ

 少しダイエットが必要かもしれません。


 夕飯を済ませてから、私は綾香を自分の部屋に呼びました。

『何?姉さん』
『……』
 小さくて聞き取りにくいかもしれませんが、それでも姉妹。いざとなればアイコンタ
クトで会話をすることだって可能なはずです。

『明日? 明日はバレンタインだよね?』
 私は二度頷きます。
『明日は好恵と試合』
 え? なんですって? 藤田さんにチョコレートは?
『あのね。それがおもしろいのよ。好恵ったらさ
 「チョコなんて贈る相手がいないよ」
なんて言うから私が
 「それじゃ賭けない?」
て、言ったら…』

 どうも綾香は好恵さんと明日負けたらペナルティーありの試合をするそうです。

『あたしがね。負けたら私の手作りのチョコは葵に。んで、好恵が負けたら浩之に手作
りチョコをあげることになったのよ』
 …私は妹の賭け好きなのは知っていましたがここまでくると病気です。そんなにつ
まらない日常を綾香は送っているのでしょうか?
 かわいそうな藤田さん。でも待っていてください、私の力できっと二人を幸せにして
あげます。
 それはそうと、そんなことならば何としてでも綾香に明日は買ってもらわねばなりま
せん。ここは私の薬で坂下さんには悪いですが綾香にはあっさりと勝ってもらいましょ
う。ドーピングです。仕方ありません。二人の未来の為には多少の悪事は避けて通れな
いものです。

 さてと、実験室に来ましたが何を飲ませればいいのでしょう? 筋肉増強剤はあまり
必要ではないであろうし、やはりここは新しい薬にチャレンジするべしです。
 蛙(かえる)さんには悪いですがまたも生肝(いきぎも)を頂きましょう。どうせ庭
に行けば腐る程いることですし…

 さて、薬はできましたが次の問題です。どうやって綾香に飲ませるかです。最近は特
に避け方もうまくなって実験はおもにセバスチャンにやってもらっているのですが、何
分(なにぶん)年取った爺さん。身体への変化はたかが知れています。やはり成長期の
若いサンプル(実験材料)が欲しいところです。そういえば、テレホンショッピングで
売っていたような…次回の放送は要チェックです。

『…』
『あ、サンキュー。姉さん』
 結局、正攻法と呼べるものが存在しないのでできた薬がたまたま茶色だったので温
めて紅茶として飲ませることにしました。味は保証できませんが飲んでしまえばあと
の祭りです。

『ん?なんか苦くない?』
 それは多分内臓のせいでは? いや、ねずみのしっぽも意外に噛んでみると苦かった
憶えがあります。きっとそれらのうちのどれかでしょう。
『…』
『へぇ〜姉さんがわざわざ取り寄せた茶葉なんだ』
 おいしそうに飲んでいます。ごめんなさい綾香。
 中身は毎度のことでトップシークレットですが明日にはその効果が発揮される
でしょう。
 綾香、明日はがんばってくださいね。



 さて、やることはやりました。今日は疲れたので「呼びかけ」も「研究」もなし。
 ゆっくりと寝ることにします…




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