第十六回お題 “寒”
 

「湯湯婆(ゆたんぽ)」


Written by hi−C










 前略 藤田浩之様

 一年のうちで一番寒い季節ですが、いかがお過ごしでしょうか。風邪などは引いていな
いでしょうか。私は大学受験の2次試験のために、最後の追い込みとばかりに、勉学に勤
しんでいます(それでもこの手紙を書いている私を変な奴だなんて思わないでくださいね)。
 つい先日、勉強の合間に何となくテレビを見ていたら、そちらのことがニュースで取り
上げてありました。そちらでは積もるくらいの雪が降っているのですね。こっちでは、雪
が降ると言ってもせいぜい数センチ積もるくらいです。なんだかうらやましいなぁ。
 それにしても、今年の冬はとても寒いです。「とても寒い」と言うのが気になりますか。
今年の冬は暖冬だと言われていますからね。でも、私がこんなに寒いのは、体だけじゃな
いんです。心が寒いんです。
 浩之さんは、いつも私の心を暖かく、時には熱くしてくれます。私は、いつの間にかそ
の暖かさが当然のように感じてたんです。けど、浩之さんが遠くの大学に進学して、私た
ちの間に距離ができて、初めて気が付いたんです。私は寂しがり屋なんだって。
 夏休みとか、この間の冬休みとかにも、浩之さんは帰ってきてくれました。その間は、
私の中の寂しい気持ちも、どこかに行ってくれます。それでも、浩之さんが向こうへ帰っ
てしまうと、私はまた寂しくなってしまうんです。
 だから、今度は私から浩之さんに会いに行きます。待ってるだけじゃ嫌なんです。私か
ら、会いに行かなきゃ駄目なんです。こうしないと、私の寂しい気持ちが大きくなりすぎ
て、支えきれなくなりそうだから。

 最後に、まだまだ寒い日が続きますが、ご無理をなさらぬようにおすごしください。浩
之さんのご健康を心よりお祈り申し上げます。                      かしこ

                                                        姫川琴音より 愛をこめて




P.S. ついこの間のセンター試験の結果が、自己採点をしてみたら思ったよりいい点
が取れました。だから、浩之さんの大学を受けてみようと思います。
 もし合格したら、浩之さんと一緒の大学生活。考えるだけで、心が熱くなっちゃいそう
です。





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