(Leaf Visual Novel Series vol.2) "To Heart" Another Side Story

for 「本日のお題」

くまねのおねえさん

Episode:神岸 あかり

Original Works "To Heart"  Copyright (C) 1997 Leaf/Aqua co. all rights reserved

written by ふうら

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 …。
 ある日、財布を落とした。
 …らしい。どうやら。いや、まじで。
 おろしたばかりの、有り金、全部。

 おいおいおいっ!ちょっと待てこら、洒落になってねーぞ!

 軽くなってる尻んトコのポケット。事実発覚直後、パニックに陥るオレ。
  居間のカレンダーで確認する。
 今日がここだ、月半ばより手前の…、んで、銀行に生活費が振り込まれんのが、来月
のあたまのこの辺で…。
 がーん。
 折っていく指から、だんだんと力が抜けていく。血の気も引いていく。

 はじかれるように家を飛び出し、オレはその日歩いた道、死ぬ気で探した。…けど。
 そんなん、あるワケねぇ〜。
 捨てる神あれば、拾う神あり、で。…とっくの昔に消えていた。
 しかも夜、真っ暗。もしあったとしても、見つかるワケねぇ〜。
 あうぅ〜、オレの万札ぅ…。

 翌日。学校で。
「すまねっ、雅史。恩に着るぜっ!」
「ううん、別にいいんだけど…」
 持つべきものは友達だな。正直、オレは涙ぐみそうになる。
 …だいたい、こんなカッコワリぃコト、他の誰に言えるかっての。
 なかでも志保、アイツにだけは。天地がひっくり返っても、言えねぇ。言ったが最後、
おもしろおかしく嘘八百万(やおよろず)に脚色されて、嘲笑の渦ん中、叩き込まれ
ちゃうぜ。
 こんなオレにだって、守るべきイメージってモンがあるからな。

「え? ねぇ、ヒロ、なんか呼んだ?」
「いーや、呼んでねぇ呼んでねぇ。用はねーし、東スポ大スポどっちも間に合ってっか
らな、黙ってあっち行っててくれ」
「なによぉそれ。ふん、覚えてなさいよ。いつか絶対、ヒロの大失敗を志保ちゃんネッ
トワークに…」
「しっ、しっ、しっ、しっ」

 …ふぅ、あぶねぇあぶねぇ。

「大変だね、浩之も」
「ああ。…なぁ雅史、んで、これ、いつまでに返せばいい?」
「新しいシューズ買うためにって貰ったお金だから…その、出来れば二週間くらいで」
「あ?おいおい、二週間後ってオメー、次の次の日曜が試合だろ。出来ればぁ…じゃねーよ。それじゃ、まにあわねー」
「う、うん。そっか、そーだよね」
「よし。ま、任せろ。今日、火曜だよな。遅くとも、来週の木曜日にゃ、きっちり耳揃
えて返すかんな。その後買いに行くの、つきあってやる」
 …金借りといて、えらそーだな、オレ。
 雅史は嬉しそうに頷いた。…うーん、こいつって。これじゃ、女子に人気があるのも
納得だぜ。

 よっし、コレで当座は凌(しの)げるな。
 家に帰ったオレは、カレンダーを前にして一安心。
 あとはこっそり、単発のバイトでもやって。いちお、バイト禁止だからな。
  …ま、なんとかなるさ。
 そーなのだ、つまるところ、問題は食費だけなのだ。
 一人暮らしって言ってもここは自宅、家賃はいらない。電気、水、ガスは…、そーいや、
集金人が来たことねーな。それでもこうして使えるところをみると、きっと銀行引き落とし
になってるのだろう、よく知らねーけど。N○Kのおじさんおばさんは、テレビ壊れて
ます作戦か、でなけりゃ無言でバックレだから、OKと。
 バイトで、春先のレミィみたいに食べ物系にしとけば、食費も幾らか浮くな。うん、
一人暮らし大学生のセオリーと言われるだけあって、ナイスでグッドなアイディアだ。
 …おっと、忘れちゃいけない。食いもんといやぁ、オレには救いの女神がついてるじゃ
ないか。カミサマホトケサマ神岸あかりサマ、なにとぞなにとぞ〜、だ。
 うまいこと(ポイントは、あくまでもさりげなく、だが)話を食べ物に持っていって。
結果、藤田家の食卓に極上の夕食が並ぶ、と。ハンバーガーや出前ピザ、カップ麺に
お茶漬け、そーいったモンとは比べものにならない、これからの数週間を乗り切る上では、
まさに必須の栄養源であると言えよう。
 そういやあかり、こないだも新作をマスターしたとか、言ってたっけ。

 …と。
 お? あれ? なんだっけ、これ。
 カレンダー。二週間くらい後の…んと、これは土曜日か、マジックの赤でくるっと○印。
 雅史のサッカーの試合…は、日曜だろ。違うぞ。
 …えーっと。う〜ん…。
 なんじゃ、こりゃ。
 そーいや、書き込んだ記憶は、あるなぁ。確かにオレだぞ、コレは。…けど、なんだっ
たかなぁ。
 わかんねー。忘れた。…ま、いいか。

                   

「…だぁからぁ」
「…………」
「ちょっとぉ?ヒロ、聞いてるの?」
「…だぁっ!わかったっ。何度も繰り返すな!オメーはオウムか!」
「そっちこそオウム並のオツムのクセにっ!いい?忘れたら承知しないわよ!」
「うっせーなぁ。OK、OK」
「この志保ちゃんが、連絡係を買って出た以上は…」
「くどいっての。…ちぇっ。おい、ちょっと待ってろよ(ドタドタドタ…)」
「あ、こらっ、ヒロ!なによ、ねぇ…」
「(ドタドタドタ…)ふぅ。ちゃんと居間のカレンダーに印を付けといたぞ」
「それでも忘れるタコでしょ、アンタは」
「なんだとぅ!」
「コレでもしも忘れてたら…」
「忘れてたら…、なんなんだよ?」
「『女泣かせの藤田浩之』って噂が、学校中を駆けめぐることに…」
「おいこら、でっちあげるな。脅迫だっつーの。悪質記者ゴロか、オマエわ」
「違うでしょ。アンタが忘れてたら、少なくともあかりは…」

                   

「…あっ!!」
 ばふっ!
 布団けっ飛ばして、跳ね起きる。
 真夜中。ベッドでうつらうつらしてた時だ。不意に、オレは思い出した。
「やべっ!あれは、あかりの…」
 そう。あかりの、お誕生日会だ。

 誕生日といえば、とーぜん、プレゼント。
 もちろん、まだ、な〜んも。用意してねぇ〜!

 …んでもって、オレは。
 仕方なし、やむを得ず、不可抗力、で。
 ハードなバイト生活へと、その身を投じたのだった。


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