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「・・・くまさ〜ん〜に〜で〜あ〜った〜♪」
「はい、拍手〜!」
わ〜、ぱちぱちぱち。
・・・いつの間にか、このパーティーは宴会芸披露の場の様相を見せて来た。
しかしあかりよぉ、何もクマ好きだからって、クマの歌まで歌うこたぁねーだろーが。
あきれつつふと見ると、次は葵ちゃんとマルチが何か芸をやるらしい。
ん? でも何か、二人を見てると違和感が・・・。
「2番、マルチ、瓦割ります〜」
マルチの前には2枚ほどの瓦が重ねて置いてある。
・・・って、おいおい。マルチ、お前って運動が苦手じゃなかったっけ?
「えいっ!」
ぱりん!
・・・驚いたことに、瓦は見事に割れた。
「マルチ、お前いつの間にそんな事出来るようになったんだ!?」
その瞬間、違和感の原因が解った。
「あ・・・もしかして、マルチと葵ちゃん、入れ代わっている・・・?」
「あ、ばれちゃいましたか〜」
と、葵ちゃんの恰好をしたマルチが赤くなって俯いた。
「でも、どうして解りました、藤田先輩?」
マルチの恰好をした葵ちゃんが聞いて来た。
「目の色さ」
「目の色?」
葵ちゃんとマルチが顔を合わせる。
「葵ちゃんの目の色とマルチの目の色が、髪の毛の色と同じなんだよな。だけど、この二
人の状態だと、違っていてな。それで解った」
そう言うと、葵ちゃんとマルチはなるほどと言う顔になった。
「先輩、すごいです!」
「浩之さん、すごいです〜」
「な〜に、大した事は無いよ」
「では、4番手は私がやりま〜す」
元気に出て来たのは理緒ちゃん。
そして、なぜか持っている新聞の束。
10歩ほど離れた所に、郵便受けに見立てた箱が積み上げてある。
「はいっ!はいっ、はいっ、はいっ、はいっ、はいっ!」
次の瞬間、目にも止まらぬ速さで、理緒ちゃんは新聞を、正確に一組ずつ箱に投げ入れ
て行った。
「すげぇ・・・」
「いつも配達しながら練習しているから」
・・・おいおい、毎日こんな事しながら配達しているのかよ?
「………………」
しずしずと出て来た芹香先輩。
5番手は先輩らしい。
手には何やら、意味ありげな棒が一本。
と、床の上でくるくると回しはじめた。すると、床に段々と描かれて行く魔方陣。
おいおい、大丈夫か?
「………」
そして、ぴたっと止まる手。その瞬間、魔方陣の上で小さな爆発が起きた。
次の瞬間、飛び出す白い鳩の大群。
おお、すげぇ!
「………………」
「え? 鳩を出す量を間違ったって? いや、いいんじゃないの? これはこれで楽しい
ぜ、うん」
「じゃあ6番手はこの志保ちゃんね」
と言って出て来た志保は、カラオケのマイクを握った。
「あ、何を歌うの?」
興味を示した綾香が尋ねる。
「当然、ブランニューハートよ」
「あ、じゃあ私も歌わせて!と言う事で、7番手、綾香は6番手の志保とデュオね」
♪ぶら〜ん〜にゅ〜は〜と・・・
おいおい、二人してメチャクチャ上手いじゃね〜かよ?
「志保が上手いのは知っていたけど、綾香、お前の歌の上手さは意外だったな」
「あら、ずいぶんな言い方ね? まあ別にいいけど」
「では、8番手は私が行きます」
そう言うと、セリオが立ち上がった。
この前の事もある。また何か別な芸を長瀬のおっさんに仕込まれたか?
と、セリオは脇に置いてあった傘を手に取ると、さして手に持った。
「?」
そして、反対側に持ったボール。
「はいっ!」
気合いとともに傘にのせられるボール。
そして、セリオは傘を回しはじめた。
ころころころ。
「はいっ、いつもより多く回っております!」
わ〜、ぱちぱちぱち。
沸き起こる歓声、拍手。
・・・今度はその系統かよ・・・。
「では、9番手は私めが」
そういって出て来たのは、セバスチャン。
・・・あのじじいがオレの誕生パーティーに参加している事自体が実に驚くべき事なの
だが、まあこの際その事は気にしないでおこう。
じじいはテーブルにろうそくを灯すと、そこから10歩ほど歩いて離れた。
そして、ゆっくりと呼吸を整える。
次の瞬間。
「かぁーーーーーーーーーーっ!」
部屋中に響き渡るじじいの一喝。ガラスはおろか、部屋中のものが振動した。
ふっ。
と、ロウソクの火が消えた。
「進駐軍の荒くれどもを驚愕させた、火消しの技でございます」
わ〜、ぱちぱちぱち。
「・・・み、耳が痛てぇ・・・」
「10番手はワタシね」
レミィが出て来た。
さて、何をするんだ?
用意されたのは、弓道用の的と弓矢。
そして、構えるレミィ。
「はいっ!」
・・・・・・。
レミィは、器用にすべての弓を外していた。
「・・・おいレミィ、お前、本当に弓道部か?」
「アハハッ!『下手な鉄砲も数打ちゃあ当たる』にはならなかったネ!」
「じゃあ、11番手は僕が」
次に出て来たのは雅史。
雅史の奴は、サッカーは元よりスポーツ全般に才能があった。
じゃ、芸のほうは?
と思っていると、先程レミィが使った的をそのまま使って、何かやるらしい。
そして、トランプを構えて立った。
「・・・えいっ!」
くるくると回転しながら飛んでゆくトランプ、そして的に突き刺さる。
「おおっ、雅史、すごいじゃねーか!いつの間に覚えたんだ?」
「うん、お姉ちゃんが教えてくれたんだ」
「じゃあ、12番、マルチ行きます〜」
「13番、セリオ、行きます」
次に出て来たのは、再びマルチとセリオだった。
機体ナンバーと同じって所が芸が細かいと言うか・・・。
しかし、今度は何をやろうって言うんだ、あの二人?
と、後ろを向いていて何かごそごそやっていたかと思うと、ぱっとこちらを向いた。
「!」
二人の鼻の下に付けられた、付け髭。
そして、どこからともなくかかって来たあの音楽。
♪じゃんじゃんじゃんじゃんじゃーんじゃーんじゃん、じゃーんじゃーんじゃん、じゃ
ーんじゃーんじゃん・・・。
それに合わせて、腕をハの字にして上下させながら、前を向いたまま横に歩く二人。
「いえ〜い、ですぅ」
「いえ〜い」
・・・・・・。
オレは黙って二人に歩み寄った。
見逃そうかとも思ったけど、お仕置きはして置かないとな。
「あのなぁ、お前ら・・・」
右手でマルチの、左手でセリオのほっぺたをつまむ。
「そう言うくだらねぇ事は学習しなくてもいいの!長瀬のおっさんにも言っておけ」
「あうぅ、ふひはへ〜ん」
「す、すいはへん」
「あの、14番手です」
少し恥ずかしそうに出て来た琴音ちゃん。
足元には犬が居る。
「お手」
「わんっ」
「おかわり」
「わんっ」
「お回り」
「わん、わんっ」
「伏せ」
「わんっ」
「ジャンプ」
「わんっ」
わ〜、ぱちぱちぱち。
「・・・琴音ちゃん・・・それ、犬の芸じゃないの?」
「あ・・・」
「トリは私やね」
最後に、委員長が出て来た。
「セリオ、さっき話した通りに手伝ってぇな」
「解りました」
委員長はセリオを呼び寄せると、並んで立った。
・・・何をするんだ?
「隣の家に、塀が出来たんだってな」
「へ〜」
「何でも、一周囲んでしまうらしいで」
「かっこい〜」
「って、あんさんそればっかやん。なんでやねん」
ぺしっ。
・・・・・・。
こてこてじゃねーかよ・・・。
「じゃあ、次は浩之、あなたが何かやってよ」
と、一通りの芸の披露が終った所で、いきなり綾香がそんな事を言い出した。
「おっ、いいわね!」
「先輩、頑張って下さい!」
「………………」
「さて、ヒロの手並み拝見ね」
何やら勝手な声援が飛んで来る。
おいおい、何かすっかりやる事になっちゃっているぞ?
「・・・ったく、しょうがねーなぁ」
そう言うと、オレは立ち上がった。
「じゃあ、少し部屋を暗くしてくれよ。・・・そう、そんな感じで。じゃあ、やるぞ」
『恐怖シリーズ第1話』
オレは、心の中でそうつぶやいた。
「・・・人喰い女」
できるだけぼそっとつぶやく。
「あ、それ知ってるわよ。『ひどくいい女』、でしょ?」
と、オレが喋ろうとするのを綾香が遮った。
「・・・なんで先にネタをばらすんだよ!」
「そんなの、古い古い」
綾香が人差し指をたててちっちっと振る。
「あ、それ、私も知ってるよ」
あかりが困ったような顔をして言った。
「藤田さん、私も知っています・・・」
これまた困ったような顔をして言う琴音ちゃん。
しまった、このネタはあかりと琴音ちゃんには使用済みだった。
しかし、何で綾香が知っているんだ?
「じ、じゃあ『白骨死体』は?」
「『初子、チューしたい』」
「『喋る髑髏』は?」
「『シャベルとクロ』ね」
「『墓地の十字架』」
「『ポチの自由時間』よ」
ふふんと、不敵そうな顔をする綾香。
「甘い甘い、その程度の芸ではマルチ達みたいな立派な芸人にはなれないわよ、浩之」
「なりたかね〜わい!」
オレは、少し大きめの声でつっこんだ。