「やっと着いたね。」
目の前に広がる白一色の世界。スキー場は猛烈な吹雪の中にあった。
「さぶいからさっさとホテルに行こうぜ。」
「うん」
浩之達はバスから降りるとホテルへと向かっていった。
スキーの道具はレンタルで借りるつもりだったので持ってきてはいなかったが、ウェ
アやらアンダーシャツやらで荷物は結構な量になっていた。
猛吹雪の中では目を開けているのもつらいくらいで、あかりは3回、浩之も1回転ん
でしまった。
転んだあかりをからかう余裕もなく浩之は吹雪の中を進んでいく。
びうびうと吹きすさぶ吹雪の中を進みホテルの前に着いたときには二人とも真っ白に
なっていた。
「いらっしゃいませ。大変だったでしょう?」
ホテルの従業員らしき人がタオルを持ってかけつけてきてくれた。
「あらあら真っ白になっちゃって、これをお使いくださいな」
浩之は従業員から渡されたタオルであかりの帽子に着いている雪を払ってやった。
「ありがとう、浩之ちゃ・・・浩之君。」
あかりが慌てて訂正する。
出発前に「ちゃん付けで呼ぶなよ」と言われたのだが電車に乗るときに一回、下りる
ときに一回という感じで口を滑らせている。
浩之もいちいち相手にせず、自分の雪を払っていく。
「あかり、俺が荷物の雪を払っておくから先にチェックインしてこいよ。」
あかりはうなずくと、カウンターに手続きしに行った。
「やっぱ、すげぇ雪だな。」
浩之は荷物の雪を払い落とすと、窓の外の雪をぼんやりと見ていた。
そしてそれにも飽きるとおみやげコーナーへと歩いていってしまった。
どこにでもあるような木工細工や普段なかなか見ないようなような漬け物とかがある。
地酒のコーナーに行くとどっかで見たような後ろ姿の女の子がいた。
長い黒髪、すらりとした肢体。一度見たら忘れ無いような美人だ。
(だれだっけ?)
思いだそうと思案していると後ろから声を掛けられた。
「藤田先輩ですよね。」
後ろに立っていたのは葵ちゃんだった。
「あれ?葵ちゃんもスキーに来たんだ。家族と来たの?」
「いえ、綾香さんときました。そこにいますよ」
くるりと振り返ると、どれを買って帰ろうか真剣に悩んでいる綾香がいた。
(おいおい女子高生が地酒のコーナーで悩むなよ)
半ば呆れ顔で綾香を見ていると、どこからか自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ごめん葵ちゃんまた後で」
そこであかりをほっぽらかしにしたままだったことに気付き、カウンターの方に走っていた。
カウンターの前には心配そうな顔をしたあかりが待っていた
「浩之ちゃん急にどっか行っちゃうんだもん。心配したんだよ」
「なぁ、一緒の部屋なのか?」
「うん、当たったチケットには二人で一つの部屋って書いてあったから。」
あかりはちょっと頬を染めながらそう言った。それを見ると浩之も少し気まずくなっ
てしまった。
「そ、そう言えば綾香さんとあおいちゃんもここに来てるんだよ。」
浩之は慌てて話を逸らすとさっきあった二人のことを話した。
「そうなんだ。後で遊びに行ってみようか?」
二人そんな話をしながら自分の部屋へと入っていく。
部屋は和室で、座卓の上にお茶の道具と野沢菜の漬け物がおいてあった。
あかりは荷物を置くとお茶をいれはじめた。
「はいどうぞ。」
「サンキュー」
浩之の前にお茶を置くと自分のお茶を啜りはじめた。
野沢菜でお茶を飲んでいるとドアをノックされた。
「だれだろう?」
浩之がドアを開けるとスキーウェアを身につけた綾香と葵が立っていた。
「あ、綾香さん。」
「やっほー浩之。滑りに行きましょ」
「え、外は吹雪だろ?」
「もう弱くなっているわよ。せっかく来たんだからいくわよ。」
綾香は二人を急かした。
結局、綾香に急かされてウェアに着替えてスキーをレンタルしてゲレンデに立つ頃に
は雪もだいぶ弱くなっていた。
「浩之はスキーできるのよね?あかりさんは?」
最新の蛍光の青で彩られたウェアを着た綾香が尋ねる。
「俺もあかりも人並みには滑れるぞ。」
綾香は満足そうにうなずくと、じゃあがんがん行けるわね、と言うとリフト待ちの列
に並びに行ってしまった。