ホテルの前のコースを二回ほど足慣らしに滑ると上の方に行こうということになった。
「それにしても綾香さんはスキー巧いんですね。」
 あかりは綾香のスキーの腕前にすっかり参ってしまったようだ。
 あかりにしても人並みには滑れるのだが、綾香は一流の滑りをするもんだからまいっ
てしまう。
「私は昔から滑っているから。葵なんて今日初めてスキーやるのにもうあれだけ滑れる
んだよ。」
「ええっ、そうなんですか?」
 あかりが素直に驚いてみせる。浩之もすっかり驚いて葵の方に顔を向ける。
 葵は鼻の頭を掻きながら頬を染めている。
「教える人が良いですから。」
「それにしてもすごいよ。やっぱり運動しているからかな。」
「えへへ、そうですか?」
 葵も褒められて悪い気はしないらしい。
「あ、そろそろ順番みたいですよ」
 並んでいたゴンドラリフトの順番が回ってきたらしい。
 このスキー場自慢のゴンドラリフトで頂上まで15分という早さを誇っている。
 とは言え、今日は悪天候なのでスピードを落としているらしい。
 いそいそとスキー板をしまうと乗り込んだ。がしゃりとドアが閉まると外の音が殆ど
聞こえなくなった。
「そういえば、どうして二人でこのスキー場に来たの?」
 ゴンドラが動き始めると綾香が二人に尋ねた。
 浩之はここまでの経緯を話した。
「へぇ、神岸先輩もあのくじ引きに当たったんだ。」
「ということは葵ちゃんもあの福引きで?」
 葵は頷くと、商店街の福引きに葵が特等を当てたこと、その場に居合わせた綾香を
誘って来るまでの経緯を話した。
「じゃあ、私たちと一緒だね。」
 あかりは嬉しそうにいう。だが綾香は意地悪い目をしながら
「そっちは愛しい二人のハネムーンで、こっちは女二人の気楽な旅行だもん。ずいぶん
違うわよ。」
 などと言い出す。
 彼女の言葉にあかりは真っ赤な顔をしてしまう。しかし、浩之は
「女二人で甘〜い逢瀬ということもあるよなぁ」
 と切り返す。今度は綾香と葵が赤くなる番だった。
 もともとこの旅行に行くことになった時点でこんなことがあるのではないかという気
はしていた。
 そして、綾香と会った時にはいずれくるであろう質問(嫌み)に対する解答を用意し
て置いたのだった。
「ひ、浩之ぃ」
「あはは、冗談だよ。俺達だってそんな旅行じゃないんだから。」
「そ、そうですよ、綾香さん。変なこと言わないでください。」
 葵は一人でまだ顔を真っ赤にしていた。

 頂上は猛吹雪の中にあった。
「こん・とこ降りていけ・・か?」
 浩之の声もほとんど消されてしまうような吹雪である。
「だ・じょうぶ・・なん・・とかなる」
 綾香の声もほとんどかき消されてしまっている。
 視界は全く効かない。それどころか、顔に叩きつけられる雪が痛くて目を開けること
もできない。
「浩之ちゃ〜ん、どこ〜」
 雪の中からあかりの声が聞こえる。
 声のした方を向くとおぼろげにあかりの姿が見える。
(こんな雪の中ではぐれたら見つからないぞ)
「あかり、ゆっくり行くから俺の後について来るんだぞ。」
 あかりの声はかき消されて聞こえなかったが、うなずいたことを確認するとゆっくり
と滑り降りていった。
 リフト一つ分降りたところでレストランらしいところを発見するとそこで止まった。
 浩之が振り返るとあかりもついたところだった。
「よしよし、ちゃんとついてきたな。そこの喫茶店で少し休むか?」
「うん、疲れちゃった。こんなに大変だと思わなかったから」
 ゴーグルの雪を擦り落としながら辺りを見回す。
「ねぇ、綾香さん達は?」
「うーん、先の方に行ったことは確認したんだけどな。こんな雪だし・・・」
 そう言っていると見たことのあるスキーウエァを着た二人連れがやってくる。
 腰の当たりに雪を付けているところを見るとどうやら転んでいるところを追い越して
きてしまったらしい。
 綾香はゆっくりと近づいてくるとホテルを指さして入るの?と尋ねた。
 浩之は綾香の意見に従うことにした。

「まいっちゃうわねぇ、こんな雪じゃ前見えないんだもの。」
 思い思いの飲み物を買ってくると窓際の席に腰掛けた。
 外は雪が荒れ狂っている。まさに山の神の怒りだ。
「ま、こういうこともあるさ。」
 浩之は缶コーヒーを飲みながら頬杖をつく。
「それにしても二人に追い越されるとは思わなかったわねぇ」
 綾香も缶コーヒーに口を付けながら浩之に話しかける。
「途中で転ばなかったからさ。」
「う゛、どうして私が転んだと思うの?」
「腰に雪がついていたからさ。転ばなきゃつかないだろ?」
「・・・・」
 浩之の観察に返す言葉のない綾香。
「こんな雪ですから仕方ないですよ。」
「どんなに巧くたって転ぶことはありますよ。」
 あかりと葵が交互に慰める。
「あぁあ。なんかみんなにばれちゃっているみたいね。」
 綾香がため息混じりに呟く
「あれだけ雪が付いてりゃ誰でも気付くよ。」
 浩之が笑いながら慰める。
「でもすごい雪ですね。どうしますこれから?」
 外の様子を見ながら葵が尋ねる。
「とりあえずホテルに帰ろうや。後で晴れてきたらもう一度滑りに行こうぜ?」
「それが良さそうね。」
「うん、そうしよ」
 それぞれの飲み物を片づけると再び吹雪の中に身を躍らせた。




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