〜4月18日(金)〜 夕暮れ時の少女


その日、HMX−13型――セリオは、昨日と同じく、研究所の外れにある、
丸太型のイスに座っていた。周りの木々からは小鳥たちのさえずりが聞こえ、
青く晴れた空からは、春の暖かな日差しが舞い降りてくる。

セリオがそうして腰を下ろしていると、数羽の小鳥たちがまた寄ってきて、彼
女の肩、膝、頭、そして耳のセンサーの上にまでとまっていく。
しばらくは微動だにせず、虚空を眺めているだけの彼女だったが、スッと右手
を上げ、人差し指を差し出す。すると今度は、耳に止まっていた一羽が軽い羽
ばたきとともに、その指にとまった。

キリリコロコロと可愛い声で鳴く。

その様子をセリオは、ジッと魅入られたように見つめていた。

「――………」

もっとも彼女の水晶の瞳には、なんの感情も見出せないままだが…。


キリリコロコロ

キリリコロロチュイビュイビューチイ

キリリコロコロ

キリリコロロチュイビュイビューチイ

「――この……を…………みれ…」

小鳥たちの歌声に、もう一つの声が混じった。
少女は緩やかに、その歌を歌い始める。
その唇から紡ぎ出される言葉の意味を、セリオは知らない。
だから、彼女がどんなにうまく歌おうとも、その歌声は不完全であった。

「――……めた…………とふた……」

それでもセリオは歌う。
メモリーの中にある、少年の哀しい声音に似せて。
小鳥たちがそんな彼女を応援するかのように、一緒に歌い合わせていくのだっ
た……。


………………………。

「――………すへ………る――」

バサッ

セリオにとまっていた最後の一羽が、大きな羽ばたきとともに、夕闇がおりつ
つある赤い空へと飛び去っていった。

「セリオ」

男の声がした。
振り向くセリオ。

「――……長瀬主任」
「祐介は、今日は来ないよ」
「――そうですか」
「ああ、もう中へお入り」

そう言い残して、長瀬主任は研究所の中へと消えていった。

ひとり残されたセリオは、しばしの間、赤く染まっていく空を見上げていた。
落ち行く夕陽は、彼女をもその豊かな髪と同じ色に染め上げていく…。

「――……ピッ…」

作動音。


――ピピピピピピピ――

――サテライトサービスへのコネクト完了

――人物データの検索

――検索名:長瀬祐介  地域限定  画像映像送信

――検索開始

――検索中…

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――検索終了  該当件数:1件

――氏名:長瀬祐介  性別:男  年齢:17歳    
――県立緑葉高校3年A組所属


「――…………」


――音声データ再生

――『うん、そう。セリオも可愛いよ』
――『へー、良く懐いているね』
――『……ごめん。やっぱり、もう、いいよ』
――『……うた…歌える……?』
――『こんにちは、セリオ』
――………
――………

――『………瑠璃子さん………』


――同高校の生徒名簿を検索

――検索名:瑠璃子

――検索中…

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――検索終了  該当件数:5件

――小田切瑠璃子(1年)
――佐藤瑠璃子  (1年)
――大谷瑠璃子  (2年)
――中山瑠璃子  (2年)
――月島瑠璃子  (3年)――入院中


「――………」


――月島瑠璃子  

――氏名:月島瑠璃子  性別:女  年齢:17歳
――県立緑葉高校3年A組――現在、総合病院に入院中
――昏睡状態  意識不明  脳および髄膜疾患認められず
――回復の見込みは、極めて低い


――月島瑠璃子入院病院見舞客記録

――301号室R:月島瑠璃子

――3月09日(日)――1人:長瀬祐介
――3月10日(月)――1人:長瀬祐介
――3月11日(火)――1人:長瀬祐介
――3月12日(水)――1人:長瀬祐介
――3月13日(木)――1人:長瀬祐介
――3月14日(金)――1人:長瀬祐介
――3月21日(金)――1人:長瀬祐介
――3月28日(金)――1人:長瀬祐介
――4月04日(金)――1人:長瀬祐介
――4月11日(金)――1人:長瀬祐介

――最終更新日:4月17日(木)



「――………………」



――アクセス終了……







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